ヤンデル先生、病理診断学を語る

病理医ヤンデル先生が「病理診断学」そこから、「病理学」の面白さについて、その一端を語っています。 特に医学部の学生は、一度読んでみたほうがいいかも。それぞれの分野に、いろいろな面白さがあることがわかるはず。
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病理医ヤンデル @Dr_yandel

ま 仕事もいそがしいんですが今年最後の連ツイをします。最近やってませんでしたので少しまじめな、というか専門的な内容です。

2013-12-27 11:49:06
病理医ヤンデル @Dr_yandel

「病理診断」というのは診断の中でも群を抜いて異質な分野であるが、このことを端的にあらわした言葉はかつて知り合いの循環器内科医の口から出てきた。「病理ってずっるいよなー 病気ちょくせつ見て診断できるんだろ?当たるに決まってんじゃん ていうか病理で誤診とかありえなくね?」

2013-12-27 11:50:42
病理医ヤンデル @Dr_yandel

医療における「診断学」のほとんどは、「体の中で何が起こっていて、それがどのような結果に結びつくかを『予測する』学」である。検査値(血圧とかコレステロールとか血糖値とか)が高い、低いというのは診断ではない。

2013-12-27 11:52:12
病理医ヤンデル @Dr_yandel

「血圧が高いことが問題なんじゃない、血圧が高い状態が続くと、あるクラスタに属するある一定の割合の人々が、これこれこういう疾患にかかる確率が高くなるというのが問題」なのである。すなわち、検査値というのは「体に何が起こっているかを類推するためのヒント」であって答えではない

2013-12-27 11:53:10
病理医ヤンデル @Dr_yandel

ところが、しばしば「病理検査」とも呼称される病理の世界は「実際に細胞がどうなっているのかを見る」検査であるため、多くの医療者が「答えをみている」という気分になりがち

2013-12-27 11:54:15
病理医ヤンデル @Dr_yandel

実際に病理では「細胞の異型度がこのように高ければ癌」と診断してしまうことがあるので、「見たものがそのまま答え」であるというのは否めない しかし、極論すると「その癌、人に何か悪いことをもたらすのか?もたらさないのか?」を考えないと医療とは呼べない

2013-12-27 11:55:17
病理医ヤンデル @Dr_yandel

このあたりの話は悪名高い近藤誠氏によっても指摘されているがそのこと自体は私もagreeである。ただ、彼は基本的にその後の飛躍がすごいので私は彼の書いた本を笑えないお笑い本としてしか読めないがこの話はもめるのでひとまずおく

2013-12-27 11:56:08
病理医ヤンデル @Dr_yandel

大切なのは、「病理でみた結果もまた一つの『推測値』(ただしその推測の信頼度が他の検査とは段違いに高い)」という考えを病理医のほうがしっかり理解しておくことである

2013-12-27 11:57:05
病理医ヤンデル @Dr_yandel

そもそも病理は「病理検査」ではなく「病理診断」なのだから、医師としての診断学の根本をきっちりと踏襲しないと病理診断はほんとうに「単なる一検査」に成り下がってしまう 病理は一検査で終わらせるには少々もったいないほど内容が濃いのに、である

2013-12-27 11:57:51
病理医ヤンデル @Dr_yandel

多くの優れた臨床家が書いているEvidence-based medicineに関する論説を読んでいて最近おもったのだが、どうも病理学の論文はEBMのレベルが一段低いように思う 病理診断がその性質上どうしてもRCT的解析がしづらいことにも一因はあるがそれにしても……

2013-12-27 11:59:04
病理医ヤンデル @Dr_yandel

「昔から積み重ねられてきた形態学によればこれは癌、これは浸潤なのだから、この病変は悪性である」というところでとまっているようなクソ論文がいまだにそこそこのJournalから出されている 臨床のreviewerも病理診断となると途端に「専門外」になってコメントがぬるくなる

2013-12-27 12:00:08
病理医ヤンデル @Dr_yandel

私一個人としては、このような状況に自らエビデンスをどんどん提出して世界を変えたいのはやまやまだが、「個人の力量」と「所属している場」の問題でそう簡単にはできない しかし、少なくとも「きっちりとした診断学理論をもっている病理医」のおしえを選んで学ぼうとは思える

2013-12-27 12:01:19
病理医ヤンデル @Dr_yandel

このあたり、本当は2014年にでもどこかに文章にして、読者からの批判的吟味をもらいつつ「病理学は真剣にやるとこんなにおもしろい診断学はねぇぞってくらいおもしろい」っていう方向にしたいなーと思っているんだけど……

2013-12-27 12:02:15
病理医ヤンデル @Dr_yandel

まず、私自身の「論文に対する批判的吟味をする力」とか「診断学を構築しうる所見の解釈の仕方」とか「記載する力」を鍛えていかなければいけないと思う それで最近やけに臨床のエビデンスっぽい本を読み漁ったり、逆にtranslational researchの論文に手を出したりしてます

2013-12-27 12:03:51
病理医ヤンデル @Dr_yandel

最近はまったく病理学とか病理医の話について触れていませんでしたし、ふだんはTwitterにばかりいるので仕事をぜんぜんしてない勤務医みたいに思われててそれは本望ですが、リアルでやっている学問を学生や研修医にも見てもらえたらいいなと思いますのでね そういうアカウントですから

2013-12-27 12:04:46
病理医ヤンデル @Dr_yandel

ちょっと専門家用におまけを書きます

2013-12-27 12:09:02
病理医ヤンデル @Dr_yandel

病理診断学ってのは「完成されてしまった疾患(進行癌・末期癌とか)をみて、その所見を詳しく検討する」という方法からスタートしているんです。一番わかりやすいのは「剖検」です。「細胞がこのようになったために、死んだのだ。これが真実だ」というのがスタート地点。(続く)

2013-12-27 12:11:44
病理医ヤンデル @Dr_yandel

(続き)ところが、臨床診断学はどんどん進歩して、「これをほっといたら5年後に死ぬ?生きてる?」みたいに「早期の段階で診断」しないとだめってことになりました。病理診断も自然と「このような所見があれば、統計学的に予後が悪いはず」という診断が求められます。(続く)

2013-12-27 12:12:41
病理医ヤンデル @Dr_yandel

(続き)しかし問題なのは、「進行病変に出てきた所見をそのまま早期病変に適応して、予後が推測できるか」についての明確なエビデンスが出ている病理所見って意外と少ないってことなのです。それをわからないで病理診断している医師もわりと多いです。(続く)

2013-12-27 12:13:23
病理医ヤンデル @Dr_yandel

(続き)各種癌の取扱い規約には問題もありますが、「その先どうなるかを臨床的に統計解析したものを病理の世界とすりあわせた」点はかなり評価できます。ただ、取扱い規約でも表記が二転三転するような病理所見はくさるほどありますし、そもそもがん以外の病気における病理ガイドラインは少ない(続く

2013-12-27 12:14:34
病理医ヤンデル @Dr_yandel

(続き)そのあたり、実は「これからのEBMにあわせて病理も同様に進化する」必要があると思います。だから病理には若い力が必要なんですよ。もっというと、「知能の物量」が必要です。優秀な人にはどんどん病理医になってほしいな……フレックスで病理選ぶのももちろんいいことだけどさ

2013-12-27 12:15:54