山本七平botまとめ/【論争否定の伝統】/~”論争なき”日本に横行する倫理・道義の問題への「すりかえ」~

山本七平著『「常識」の研究』/Ⅲ常識の落とし穴/論争否定の伝統/154頁以降より抜粋引用。
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山本七平bot @yamamoto7hei

①【論争否定の伝統】大分前のこと、イスラエルの新聞に面白い一口話が載っていた。 経済学者たちが現代のイスラエルのインフレについて延々たる論争をつづけたが、その結論は結局「紙幣が余分に発行されている」からだということ。<『「常識」の研究』

2013-12-26 11:38:59
山本七平bot @yamamoto7hei

②それを聞いた市民が「そんな事なら誰でも知っている。経済学者とはそれを知る為に、こんなに延々と議論をしなければならぬ程、経済に無知な人達なのか」と言ったという一口話である。論争の国だからこういう事は年中あるのであろう。 だがこの場合も「だから論争は無駄だ」という事にはならない。

2013-12-26 12:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

③というのは、その過程で様々な問題が出てきて、それが結論である「紙幣が余分に発行されている」状態を是正する手掛りとなるからである。 だが日本人は対決とか論争とかを基本的には嫌う伝統をもっている。 …これでは「論争を基として国民に選択を求める」という意味の選挙は不可能であろう。

2013-12-26 12:39:04
山本七平bot @yamamoto7hei

④そしてこの伝統は様々な現象を引き起す。 一つは 「原則を明確にしての対決よりも、無原則の全員一致を求める」 という潜在的要求である。 これは「いかなる政権を期待するか」のNHK世論調査で、自民単独より何らかの連立政権を望む声が圧倒的に強いことにも現れているであろう。

2013-12-26 13:08:57
山本七平bot @yamamoto7hei

⑤その率をパーセントで記せば自民単独16、自民+新自および保守+中道連立は合計で25であり…野党側では…野党の連合政権が…自民単独と同じ16になる。 このほかに自民・社会が連合せよという意見もあるそうで、そうなるとまさに無原則の全員一致の希望ということになるのであろう。

2013-12-26 13:39:03
山本七平bot @yamamoto7hei

⑥さらにこれを野党に限ってみれば、社公共民という政策的には極めて違うはずの政党を、野党という形で一括して捉えるという形にもなっている。 そしてこのそれぞれの党が、自己の政策を掲げて相互に論争するといったことは、実際には、選挙において見られない。

2013-12-26 14:08:58
山本七平bot @yamamoto7hei

⑦いわばここには、野党内の「全員一致」を求める希求の方が、相互の論争により自己の主張を明確にするという行き方よりも強いと見るべきであろう。 第二に、 論争なき社会において、議論の主導権を握る方法は、徳川時代以来一貫して一つの法則がある ということである。

2013-12-26 14:39:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑧この原則は、いわゆる「お家騒動」にしばしば出現するが、簡単にいえば経済的合理性の問題を、道義もしくは倫理の問題にすりかえる方法である。 言うまでもなく社会倫理に違犯する行為は、それ自体糾弾さるべき問題、あるいは是正すべき問題でこれに反論することは何者もできない。

2013-12-26 15:09:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑨しかしこれは経済的合理性の追求とははっきりと別の問題なのだが、この二つをすりかえて、これが是正されない限り、経済的合理性を追求してはならないとする主張である。 これが選挙に出てきたことは、私がしばしば言う「徳川化現象」の表れとして興味深い。

2013-12-26 15:39:01
山本七平bot @yamamoto7hei

⑩いわば鉄建公団をはじめとする諸問題は、簡単にいえば「この状態をそのままにしで増税などとはもってのほかだ」という問題ではなく、もちろんこの逆すなわち「減税するなら黙認してやる」といった問題でもないはずである。

2013-12-26 16:09:02
山本七平bot @yamamoto7hei

⑪論争の国なら、この二つははっきり峻別されて、それぞれに別の論争が成立しても、これがすりかえ論議となって、一方が他に影響をするという事は起こらない。 これも伝統の違いであり、過去において私も何回か論争したが、相手の反論なるものは必ず、今回の選挙におけるそれと似た形になっている。

2013-12-26 16:39:14
山本七平bot @yamamoto7hei

⑫第二が個々の選挙運動である。 まことに面白いことに、運動の仕方の基本型は、保守・中道・革新すべて変わりがなくなったということである。

2013-12-26 17:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑬…戦後のある時期までの選挙は保守・革新に大きな違いがあり、一方「全面講和」とか「安保破棄」とかを文字通り「教宣する」という態度、もう一方は「ドブ板を踏んで」住民の生活上の諸問題の「お世話をする」という形であったと思う。

2013-12-26 17:39:12
山本七平bot @yamamoto7hei

⑭ところが今回の選挙で全く見られなかったのが「絶叫・教宣型」であり、「選挙通」にきくとこれは全国的傾向であり、ある地方の共産党議員への選挙区の人々の「支持意識」は保守党へのそれと全く変わらないという。いわば「立法府の代議員」を選ぶよりむしろ「世話人を中央に送る」という意識である。

2013-12-26 18:09:00
山本七平bot @yamamoto7hei

⑮これも「世話人型指導者」を選ぶという伝統の表れであろう。 こうなれば、その象徴ともいうべき鈴木首相が出てきて不思議ではない。 他の統計を見ても、日本が保守化していることは否定できない。 しかし、以上の点だけを見ても、保守化はすぐ保守党有利に転化しないことも明らかである。

2013-12-26 18:39:10