悪い男に騙される山城【解】『HAruna's waRD』真最終章其の壱『悪い男に壊される山城』

見る人すべてを震撼させた読者参加型なりきりストーリーアカウント『悪い男に騙される山城』の解ストーリー『HAruna's waRD』遂に最終章突入! 新装備に仕掛けられた爆弾の脅威から見事扶桑を救い出した榛名達だったが……。更なる悲劇と現実が彼女たちに襲い掛かる! 予想のできない怒涛の展開の続く最終章をお楽しみください。 前作品『悪い男に騙される山城』→http://togetter.com/li/574052 最初『悪い男に騙される山城【解】榛名の過去編』→http://togetter.com/li/583787 続きを読む
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あの頃の榛名 @harunas_ward

【真最終章其の壱『悪い男に壊される山城』開始】 【ストーリー分岐イベント有り】

2013-12-04 19:47:36
あの頃の榛名 @harunas_ward

っ  足首まで浸かる水の冷たさを感じながら、前に進む。 遠くで鈴の音が鳴っている。延々と反響を繰り返し、その中に新しい音も加わり、大小様々な澄んだ音色が空気を震わす。 見渡す限りの水平線で、音源も音を跳ね返す物も何も無いというのに。

2013-12-04 19:53:25
あの頃の榛名 @harunas_ward

立ち止まる。 見渡す限りの水面に、ところどころ何かが飛び出している。 虚空を掴もうとするかのように開かれた誰かの手。 半身を水に浸して倒れて伏す誰かの身体。 元は人だったと何故か理解しているボロ布と混ざり合った肉塊。 首だけの霧島。

2013-12-04 19:57:05
あの頃の榛名 @harunas_ward

ゃ。 ゃ。 再び歩き出す。 多くの仲間が死んでいた。 焼け焦げて真っ黒になった金剛姉さん下半身を失った比叡姉さん臓物を空にした胴を空に向ける扶桑さん両足を胸に抱いた日向銃創を隙間無く皮膚に穿たれた羽黒さん背だけを浮かして水に浸かる夕張さん細切れになった信濃。

2013-12-04 20:00:50
あの頃の榛名 @harunas_ward

 ぱし 歩き続ける。 よく見れば見渡す限りの世界を埋める水は、真っ赤である事に気付く。 いまだに鈴の音がどこかから鳴り響き続け、何かに跳ね返っては目に見えない波紋を拡げ続ける。   歩き続ける。   歩き続ける。

2013-12-04 20:03:30
あの頃の榛名 @harunas_ward

優しい笑顔を永遠に浮かべる事のできなくなった山城を見付ける。 綺麗な瞳があった箇所を空に向け、言葉を発する事の叶わない口を開いたまま、動かない。 …。 …。 何か声を掛けても、きっと動きはしないのだろう。 歩き出す。 歩き続ける。

2013-12-04 20:06:10
あの頃の榛名 @harunas_ward

…。 ここに来て初めて、直立している人影を見付ける。 こちらに背を向けて、自然体で立ち尽くしている。 この手で脱がせた事のある服装。短い髪。黒いソックス。 もが… 声を掛け、その瞬間を見計らったように、最上さんの背中が弾け飛ぶ。 み、さ…ん ぐらりと、彼女が傾く。

2013-12-04 20:09:29
あの頃の榛名 @harunas_ward

バランスを保てなくなった人形のように、体勢は変えないまま彼女の体がゆっくりと傾いていく。 何も言えないまま、呆然と見詰める。 やがて足元いっぱいの水面に倒れ、赤い水滴を派手に散らす。 最上さんが立っていた向こうに、誰かが立っている。 笑っている。

2013-12-04 20:11:32
あの頃の榛名 @harunas_ward

返り血で全身を赤く染めて。 長い黒髪からも血を滴らせて。 世界の誰よりも聞き覚えのある声で笑っている。 鏡越しでしか知らない瞳と目が合う。

2013-12-04 20:14:02
あの頃の榛名 @harunas_ward

!!!!! 自分の悲鳴で目を覚ます。 バネのように上半身を起こし、荒い呼吸で上下する目線を彷徨わせる。 自分の部屋の自分のベッドの上。 決して見渡す限りの血に沈んだ世界じゃない。 掴んでいた毛布の端を離す。両手は汗でびしょびしょだった。額を拭う。パジャマの袖が湿る。

2013-12-04 20:17:10
あの頃の榛名 @harunas_ward

夢。 ようやくその単語を思い出す。 汗で張り付く前髪をかき上げ、背中まで濡れているパジャマの前を開けて、手で風を送る。 ひどくリアルな夢だった。足首までの水の冷たさも、不気味な鈴の音色も、みんなの傷や苦悶の表情も、全てが鮮明に思い出せる。 ぶるる、と暑いはずの体が震えた。

2013-12-04 20:21:20
あの頃の榛名 @harunas_ward

隣のベッドを見る。主はいなく、綺麗に毛布が畳まれている。 霧はまだあそこにいるのね。 昨日の出撃から戻ると、寮の廊下には1つのラボメントが完成していた。足の踏み場が無い程に機械のパーツと鉄材が転がり、中心では霧が鉄の面で顔を守りながら、火花を散らして何かを溶接していた。

2013-12-04 20:29:40
あの頃の榛名 @harunas_ward

私に気付くと霧は左手で持っていた面をずらし、目をきらきらとさせながら「もうすぐ完成です!」などと叫んでくれた。 扶桑さんや山城の新兵器よりも巨大な機械の塊をしばらく無言で見る事になる。赤や青のコードを機械の中にあーだこーだして「冷却が間に合わないか…」とピカ提督が言っていた。

2013-12-04 20:35:53
あの頃の榛名 @harunas_ward

端では信濃が余ったパーツで積み木遊びをしており、時折ピカ提督に「電源を入れてみてくれ」という声を掛けられる度に、コンセントを挿したり抜いたりしていた。 え…?コンセント…? 私の声に意味を察したのか、霧が「大丈夫です、これは試作品ですから」などと親指を立ててくれた。お、おう。

2013-12-04 20:39:17
あの頃の榛名 @harunas_ward

疲れているというのに、夕張さんはそそくさと工具箱を漁り、霧の指示の元に作業を始めた。 私には到底理解できない何かが懸命に造られていた。一度ぼん、と音を立ててザクの頭部のようなパイプが爆発したのを覚えている。 「今晩中には完成させます!」と何も無かったように霧が微笑んでいた。

2013-12-04 20:43:12
あの頃の榛名 @harunas_ward

スパナを片手にどこかの『大嘘吐き』が武器にしているような巨大なボルトを装置に挿し始めた夕張さんに、約束通り今までの経緯を話す。 相槌を打ちながら、手首にはめれそうなナットを人差し指でくるくると彼女は回し、油で汚れた額を拭った。 ここまでが昨晩の出来事。 本当に完成したのかしら。

2013-12-04 20:47:29
あの頃の榛名 @harunas_ward

一応後で顔を出すとしよう。仮に完成していても私に装備できるとは思えないけども、造ってくれたのは事実だ。 とりあえずシャワーね。ベッドから足を下ろし、浴室を目指す。 ガラスのなくなった窓から入る風が気持ちいい。

2013-12-04 20:50:28
あの頃の榛名 @harunas_ward

タオルで頭を拭きながら、ショーツ一枚きりでクローゼットを開ける。チコリータのぬいぐるみがいっぱいぶら下がっていて一瞬びっくりする。 引き出し部分を開いて新品のサラシを取り出す。ずらりと並ぶ衣は霧と同じデザインではあるが、霧の方が胸周りが広くなっているので一目でわかる。ちっ。

2013-12-04 21:08:07
あの頃の榛名 @harunas_ward

着替えを終え、最後に髪飾りを着ける。よし、準備おっけー。 姿見の前で頷く。

2013-12-04 21:11:57
あの頃の榛名 @harunas_ward

寮の廊下を進む。 階に着いた時点で油の匂いがしてくる。 ラボに着くと、2人の妹と夕張さんとピカ提督が鉄材や工具に埋もれて床で眠っていた。どうやら本当に徹夜で造ってくれていたらしい。

2013-12-04 21:15:44
あの頃の榛名 @harunas_ward

足の踏み場が無いのでどうしたものかと思案する。 起こすのも悪いだろうし。 「う、うーん」 一人がもぞもぞと動いてからむくりと身体を起こす。『3』の字状になった目でぼーっと私を見てから、手元にあった眼鏡をすちゃっと掛ける。あぁ、霧か。

2013-12-04 21:18:54
あの頃の榛名 @harunas_ward

おはよう霧。 「おはようございます、姉様…」 霧があくびをしながら着崩れた衣を整える。どうして髪が一部ちりちりになっているのかは気にしないようにしようと思う。 どうだった…? 「あ、はい。完成しましたよ」 さらりと、言ってのけられる。 「はい、これです」 え…?

2013-12-04 21:25:11
あの頃の榛名 @harunas_ward

霧が右手を差し出してくる。手のひらにはタバコサイズの黒い箱が乗っている。 え、これが? 「はい。使用の用途を考えて可能な限り縮小化しました。これを持っていれば周囲の超音波の周波数を乱せます。電源も電池を取り替えれば72時間持ちます」 き、霧えもんって呼んでいい?

2013-12-04 21:30:01
あの頃の榛名 @harunas_ward

「一応念の為に男性の方の声域…紫水さんの声に近い範囲の音もジャミングするようにしてあります。装備している間は声がいつもと違って聞こえるかもしれませんけど、音が変わるだけで会話には支障が無いはずです」 え。いや本当に凄いのね霧。じゃああのでっかいのは…? 「あれは試作品です」

2013-12-04 21:34:05
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