即興秘封SS「マエリベリー・ハーンが死んだ」
- asagihara_s
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現実のメリーは、石段の途中で頭から血を流して息をしなくなっていた。幻想よりももっと遠いところへ、メリーはあっさりと消えてしまった。ひどく間抜けな格好で。 そんなことがあっていいはずがない。私とメリーの物語がこんな形で終わっていいはずがない。 ――だから、私はその結末を拒絶した。
2014-01-04 23:30:40神社の境内に、メリーの遺体を埋めた。そして、メリーは突然失踪したのだと思い込むことにした。メリーはある日突然幻想の向こうに消えてしまって、私はそれをずっと探し続ける悲劇のヒロインであり、メリーをいつか見つけ出すヒーローでなければならなかった。
2014-01-04 23:32:01――じゃあ、どうしてメリーの死体から眼球をくりぬいて保存なんてしたのだろう。 ああ、私は混乱している。矛盾している。だけれど私は、それも手放してしまいたくなかったのだ。メリーがメリーたる証の、その金色の瞳も。私が焦がれた、幻想の世界を視る瞳が、土に還ることもまた認められなかった。
2014-01-04 23:33:21信じれば、記憶は容易く改竄される。メリーの瞳は押し入れの奥深くにしまい込み、私はメリーが失踪したと信じ込んだ。メリーが死んだことも、メリーが博麗神社に埋まっていることも、知っているのは私だけだ。それならば、私もメリーが失踪したと思い込めば、メリーは完全に失踪したことになる――。
2014-01-04 23:34:59事実など必要なかった。必要なのは真実でしかなかった。メリーは失踪した。結界の向こう側に、幻想の世界に消えてしまったのだという真実。相対性精神学を学んでいた相棒は、主観的にそれが信じられていれば、全てそれはその主観において真実として確定されると言ったから。
2014-01-04 23:36:09――ああ、だけど、やっぱりその学説は間違っているのよ、メリー。 だって、私が埋めた貴方の死体は、どうしようもないほどに客観的な事実なんだから。
2014-01-04 23:36:42「宇佐見さん。署までご同行願えますかな」 中年の刑事が私の手を取った。私はこくりと頷くことしか出来なかった。 空は、気付けば黄昏時になろうとしていた。白い月と一番星が紫の空に輝いていて、私は呟いた。メリーのいない世界の時間を。これからの私がひとりで過ごさねばならない時間を――。
2014-01-04 23:38:14