クー・ファン・シーマ(元)王子と侍従パルウ・スエインの平穏な日 #FSS_jp

イメージが崩れたらごめんなさい。
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夢乃 @iamdreamers

──星団歴2989年 ボォス ヴァキ・シティ── #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 20:58:33
夢乃 @iamdreamers

「丁様、もう昼になりますよ。そろそろ起きたらいかがですか?」 ホテルの一室で声がする。声をかけられた主はいやいやながらというように、ベッドから身を起こした。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 20:59:06
夢乃 @iamdreamers

「下々の泊まるような安ホテルじゃ、どうもゆっくり休めないな」 けれど、この部屋はこのホテルの最上クラス、居間と客間の他にそれぞれダブルベッドを配した二つの寝室を備え、さらに寝室には別々に浴室まで用意されているという設備である。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:00:20
夢乃 @iamdreamers

「すぐに食事をオーダーしましょうか?」 甲斐々々しく着替えを手伝うスエインが尋ねる。 「そうだな・・・その前に熱い茶を一杯もらおうか」 「お茶でございますね。用意していますよ。丁様のお好きな白茶です」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:01:03
夢乃 @iamdreamers

着替え終わって、窓際のテーブルでスエインの淹れた白茶を味わいながら、何を思うのか。不敵な笑みを浮かべているようにも憂いを帯びたようにも見えるその横顔からその心の内を伺い知ることはできない。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:01:36
夢乃 @iamdreamers

「今日は外に食事に行くか。スエイン、お前も一度くらい贅沢な食事を味わってみろ」 「ご一緒していいのですか?いつもは、いつの間にか姿を消してしまうのに」 「嫌なら私一人でいくが」 「とんでもありません、ぜひ、ご一緒させてください」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:03:01
夢乃 @iamdreamers

そのようなわけで、スエインが茶の道具を片づけると、二人は泊まっているホテルを出た。丁が先に立って。スエインは、いつもと変わらず丁のあとを付いていく。 「どちらに行くのですか」 「行けばわかる」 妖しい笑みを浮かべて丁は答える。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:04:00
夢乃 @iamdreamers

やがて、スエインにも丁の向かう先の見当がついてきた。ヴァキ・シティでも最も高いと言われるバルクート・ホテルのようだ。一般人では門前払いを食らうような、格式高いホテルだ。隠密行動のため庶民的な服装をしている二人では当然入れてももらえないだろう。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:05:23
夢乃 @iamdreamers

「丁様・・・もしかして、あそこですか?」 「鈍いお前でもここまでくればわかるか」 「ちょっとまずいのでは・・・あまり派手な行動を取らないように陛下から釘を刺されている、と仰っていませんでしたか?」 「なに、目立つようなことはしないさ」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:05:57
夢乃 @iamdreamers

そうこうするうちにホテルの玄関に着いてしまった。心配そうなスエインをよそに、丁はさっさとロビーに入ってしまう。案の定、従業員が飛んできた。 「お客様、当ホテルは完全予約制でございます。ご予約がなければお引き取りを」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:07:11
夢乃 @iamdreamers

「予約はない。最上階のカーマイン・レストランで食事をとりたいだけだ」 「申し訳ございませんが、レストランも予約で一杯でございます」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:07:52
夢乃 @iamdreamers

丁がいつ激昂するかとスエインがはらはらしているところに、ロビーを見渡すカウンターの奥のドアから出てきた男が近づいてきた。 「どうかいたしましたか?」 「あ、支配人。こちらのお客様がカーマイン・レストランで食事をとりたいと」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:09:32
夢乃 @iamdreamers

どうやら、このホテルの支配人らしい。支配人は丁と後ろに控えるスエインを頭の上から足の先までねめまわしたあと、言った。 「お客様、当ホテルのレストランは本日貸し切りとなっております。別の食堂を探した方がよろしいかと」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:10:55
夢乃 @iamdreamers

丁の髪がほんの少し逆立つ。言葉よりも、支配人の目つきが気に入らなかったらしい。 (丁様) 空気の変化を感じ取ったスエインが、後ろからそっと注意を促す。放っておいたら、目の前の二人の心臓を吹き飛ばしかねない丁の雰囲気だった。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:12:43
夢乃 @iamdreamers

そんなスエインを無視して 「これでも駄目かな?」 丁は懐から何かを取り出した。 「こ、これは・・・た、大変失礼いたしましたっ。どうぞこちらへ」 その“何か”を見た途端、支配人は掌を返すように態度が変わり、自ら奥へと案内を始めた。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:14:31
夢乃 @iamdreamers

丁はさも当然というように“何か”を懐にしまうと、ついて行く。スエインもしょうことなしに後に続いた。 二人は奥のエレベータに導かれた。 扉が開いた先は展望レストランだった。ヴァキ・シティを一望の下に見渡せる。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:15:11
夢乃 @iamdreamers

「こちらへどうぞ」 支配人が案内した先は広い個室だった。支配人が引っ込むと、変わってウェイターがメニューを持ってきた。 丁はメニューを一瞥すると 「このフルコースを」 とだけ言ってウェイターを下がらせた。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:15:46
夢乃 @iamdreamers

「丁様!」 ウェイターが引っ込むんだとたんに、スエインが声を上げた。 「そんな大声を出さなくても聞こえる。落ち着け」 「昼からフルコースですかっ?丁様も私も小食なのに。食べ切れませんよ」 「残ったものの心配など、店にさせておけばいい」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:16:54
夢乃 @iamdreamers

「でもですね・・・それじゃ、ロビーで支配人に何を見せたのですか?」 「ああ、あれか。これさ」 丁が取り出したものはA.K.D.発行のクレジットカード、それもプレミアカードである。その名前の欄には   Sandra Ylqe と書かれている。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:38:19
夢乃 @iamdreamers

「それは・・・アイシャ様への届け物では?」 「そうさ。届ける前に少々使ったところでかまわないだろう。どうせ金の出所は同じだ」 「・・・知りませんよ。陛下の耳に届いても」 「アイシャは金遣いが荒いから、ばれたところでどうってことないさ」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:39:27
夢乃 @iamdreamers

などと話しているうちに前菜が運ばれてきた。イーミュー王国からクー・ファン・シーマ王子に付き従っていたとはいえ、主人と侍従とでは食事も異なる。王子が“病死”してからも贅を尽くした料理など見たこともない。初めて見る珍しい料理に戸惑いながら丁を見ると #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:41:05
夢乃 @iamdreamers

丁は一口二口、ゆっくりと前菜を口に運んで味わったあと、残りはそのままテーブルの隅に避けてしまった。あんなに少しで足りるのだろうか? と思いながらも、このあと運ばれてくる料理を考えると、スエインも1/3ほど残して前菜を終えた。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:41:44
夢乃 @iamdreamers

次に運ばれてきた湯(スープ)も、丁は二口ほど飲んだだけだった。 「丁様、そのように少ししか召し上がらなくてよろしいのですか?」 疑問を口に出したスエインに丁は答えた。 「最高の料理の一番美味い部分だけを食べる、これがフルコースの楽しみ方だ」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:43:30
夢乃 @iamdreamers

そんなものか、と思いながらも やはり あまり沢山残すのは気が引けるスエインが湯を飲んでいるところに、丁は言葉を続けた。 「最初からあまり腹に詰め込みすぎると最後まで持たないぞ」 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:44:16
夢乃 @iamdreamers

それから、主菜・主食と豪勢な料理が続き、点心(デザート)が出る頃にはスエインの腹はすっかりくちくなっていた。 「だから言っただろう?」 そんなスエインを丁はニヤニヤと眺めている。 #FSS_jp #twnovels

2014-01-07 21:45:19