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手錠と、エレベーター。
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pleaseinuplease
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はじまりはこのついのべでした。@工房径さんは、「早朝のエレベーター」で登場人物が「なぞる」、「手錠」という単語を使ったお話を考えて下さい。 #rendai http://t.co/EZhiFSXRjn
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#twnovel 早朝のエレベーター、偶然君とふたりきり。「お早いですね」「君こそ」気の利いたことも言えず、階数ランプを見上げる顔をそっと視線でなぞるだけの俺だ。ああ、もう君の階に着く。「失礼します」『閉』のボタンを押して去る無情な君の白い手首に、いっそ手錠をかけてしまいたい。
2014-01-07 18:25:27![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease カシャン。金属音が、『閉』ボタンを押した私の耳に纏わりついた。手首には【手錠】。「え……?」振り向けばいつも同じエレベーターで昇る別部署の彼が、暗い目で私を見ていた。早朝のエレベーター。個室にいるのは私と彼の2人だけ。エレベーターはそのまま閉じた
2014-01-07 18:32:01![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 私にかけた手錠の先を、自分の手首にかけて彼は笑う。「やっと、つかまえた」後ろから覆い被さるようにして、彼が目の前の階数ボタンに指を伸ばした。押されたボタンは、『R』。「上に、まいります」彼の乾いた笑いと共に、ぐらり、足下が、揺れた。
2014-01-07 21:29:16![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 降りた先は屋上階。彼女は不安そうに俺を見る。怖い? 俺だって怖い。朝からこんなところに君を連れ出して、用意した鍵で屋上への扉を開けて、俺は君に何がしたいんだろう。今更だけど「好きだ」と言って始まるには、互いを繋ぐ【手錠】が重い。
2014-01-08 06:28:53![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 繋がれた手首を引かれて、彼と屋上に降り立った。鉄の扉が重い音を立てて閉まり、私たちは日常と隔絶される。なぜこんなことに。まだ明けたばかりの空は禍々しく赤い。「綿貫さん」やっとのことで名を呼ぶと彼は笑った。「それでも名前は知ってるんだ」。何故か悲しそうに。
2014-01-08 18:35:47![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 「綿貫さん」と彼女に名前を呼ばれたのは初めてで、思わず涙ぐんでしまう。男のくせに。こんな風に、こんな場所で、君を手錠で繋ぎたくなんてなかった。普通に口説いて、普通につき合いたかった。間違えたのは俺だけど、間違えさせたのは、間違いなく君。
2014-01-08 21:08:10![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 きっかけは夜の休憩室。彼女が紙カップをテーブルに置いたまま居眠りしてた。早朝のエレベーターで会う隣の部署の女の子。朝も早いのに残業か。その寝顔があどけなくて。隣の彼女の冷めかけたカフェラテのカップの脇に、自分用に買ったチョコレートバーをそっと置いた。
2014-01-09 05:13:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease @esukiyusin0 「誰がくれたのかな」隣の部署で、彼女がチョコレートバーの話をしている。聞き耳を立てていると「俺だよ、俺」と無遠慮な声。乾(いぬい)という名の、彼女の同期だ。「ありがと。おいしかった」その笑顔は俺に向けられたはずなのに。
2014-01-09 05:21:56![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 「めいちゃん、これも食べてみなよ」乾の奴が馴れ馴れしくも彼女にそう言ったのは、違う銘柄のチョコレートバー。「この前のもおいしかったですよ」と言った彼女に、乾は「そう?」と気のない返事。お前は知らないからなと思えども、彼女だって俺を知らない。
2014-01-09 06:06:38![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease たった一つのチョコレートバー。あげたのは俺。名乗り偽ったのは乾。たった一つだけのそれで、何かが変わってしまう。「乾さん、いつもありがとう」そう返す彼女に、「違うんだ」と言いたいのに言えない。「彼女、俺のだから」勝手に彼氏面した乾の言葉に心が軋む。
2014-01-09 06:09:35![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 はじめはただ悔しくて、あげたのは俺だと言いたくて、彼女の姿を目で追った。朝一番に来て植木鉢に水をやる。他愛ないことでよく笑う。その柔らかな声を聞くだけで、不思議と胸が安らいだ。「彼女、俺のだから」俺の視線に気付いた乾が、開き始めた恋の蕾を踏みにじる。
2014-01-10 06:01:06![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease @esukiyusin0 それでも想いは膨らむ。君が好き、好き。俺は君から水をもらう、鉢のシクラメン。次々と鮮やかに花は咲く。例のチョコレートバーを、そっと彼女の机に置いた。ヘンゼルとグレーテルが落としたパン屑みたいに、いつか辿り着く日を願って。
2014-01-10 06:04:20![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease わさび味って……。そう思ったのが最初のキッカケ。小さな小さなチョコレートは、乾さんが私にくれたものらしい。失敗したわけではない。でも終わり切らない仕事に、残業時間の休憩室でついうたた寝してしまった私の、カフェラテの側にあったチョコレートバー。
2014-01-10 06:27:00![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 「乾さん、静岡出身ですか。それとも旅行?」地域限定のチョコに記された地名を言えば「俺の地元、神戸だよ」当の本人はきょとんとして。わさび味のチョコレート、あれは乾さんじゃない。元より彼のキャラなら「俺が置いた」と言うはずだ。ならば、チョコを置いたのは、誰。
2014-01-10 08:19:24![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 手渡しでくれればいいのに、私が仕事で辛いとき、まるでタイミングを見計らったみたいにわさび味のチョコレートバーが机上にそっと置かれている。もっと可愛らしいのだってあるのにな。そう思えども、その癖になる何とも言えない味にいつも励まされる私。
2014-01-10 06:28:49![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 ある日、休憩室で男性にぶつかった。スーツの袖に、持っていたカフェラテがかかる。「すみません!」慌ててハンカチを濡らして、染みを拭った。「大丈夫だよ、紺色だし、目立たない」反対に慰めてくれたのは、早朝のエレベーターでよく会う、隣の部署の、確か、綿貫さん。
2014-01-10 08:20:33![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 綿貫さんとは朝、同じエレベーターになることが多いと知った。私は朝、早めに出社して、更衣室の階で降りて着替えてから自分の部署に再び上がる。更衣室が別の階というのは不便だけど、女性の少ない職場だから仕方ない。その朝のエレベーターでいつも綿貫さんと会う
2014-01-10 14:50:48![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 「おはようございます」「おはよう」隣部署同士、互いの顔は知っているけれど、綿貫さんは私の名前を知ることはないだろう。エレベーターという狭い個室の中、共有するのは箱が上昇する間の僅か十数秒。それが私と彼の関係──のはずだった。
2014-01-10 14:54:52![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 それは新年会のビンゴ・ゲーム。「好きなように使っちゃってください」と茶化されながら渡された賞品は、手錠のおもちゃだった。アンティーク調の鍵がついている銀色の輪に、突然、繋がれた彼女の白い手首が浮かぶ。そんな趣味はない。慌ててコートのポケットにねじ込んだ。
2014-01-11 05:52:50![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 見つめるだけ、想うだけ。それが動き始めたのは、彼女が更衣室の階で降りる瞬間だった。降り際に桜色のネイルが押した「閉」のボタン。彼女には親切のつもりでも、俺には拒絶に見えた。我慢できずに、一歩前に出る。そのとき、ポケットに入れっ放しだった手錠が鳴った。
2014-01-11 13:46:21![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 駄目だろ、それじゃ。一瞬、過った考えは、すぐに頭の中から投げ捨てた。こんな朝から、彼女に手錠をかけたところで、彼女を怯えさせるだけだろうが。彼女はペコリと頭を下げながら外へ出ていく。エレベーターが閉じる。寒々とした空間に俺一人。
2014-01-11 10:46:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@pleaseinuplease 均衡が崩れたのはそれから直ぐ後。「俺、今夜、キメるから」乾が馬鹿みたいなことをほざく。「今日はまだ木曜だぞ?」と笑う同僚。でも俺だけが笑えない。キシキシと心が軋む。俺一人。俺だけが、あの寒々としたエレベーターの個室に残される。持て余した心ごと。
2014-01-11 10:48:42![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 「今夜、空いてる?」木曜日、休憩室で声をかけてきたのは乾さん。明るい彼と話すのは楽しいけれど、例のチョコの嘘が分かってからはつい警戒してしまう。「ね、メシだけ。他の奴も呼ぶし」馴れ馴れしく肩に触れる手。ふい、と頭を振れば、持っていたカフェラテが揺れた。
2014-01-11 21:54:40![](https://tgfile.tg-static.com/static/web/img/placeholder.gif)
@esukiyusin0 「うわ!」カフェラテが、彼の上着の胸元にかかった。「あーあ、一張羅のスーツなのに」ぼやく姿に、綿貫さんが重なる。『大丈夫だよ』。そう言って気遣ってくれたやさしい人。目の前の男はこれ見よがしに染みを拭き、にっ、と笑う。「罰として絶対夕飯、つきあってよ」
2014-01-11 22:00:08