山本七平botまとめ／【アメリカと宗教】／日本人に理解しづらい「神学」という名のアメリカ独特の思想問題

山本七平bot @yamamoto7hei

①【アメリカと宗教】米韓問題、日韓問題がマスコミで取り上げられると、時々、文鮮明という名が出てくる。 ＫＣＩＡと密接に関係ある宗教家らしいということはわかるが、さてその実体となると日本の新聞を見ている限りではさっぱりわからない。＜『「常識」の研究』

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②と同時に、この人物と政府とはどういう関係にあるのか、 またカーター政権の甚だ不透明な対韓姿勢は何に起因するのか、 といったこともわからない。 なぜであろうか。

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③甚だ奇妙な言い方だが、それは「神学」という名のアメリカ独特の思想間題と、それによって惹起される教派問題、さらにユダヤ教との関係といった複雑な問題に、日本のマスコミが触れ得ないからであろう。

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④確かに教会・教派は我々に不得手な問題だが、これを無視すると実態は益々わからなくなるので、この″思想問題″を簡単に図式化し…たい。 文鮮明は韓国で発生したキリスト教の一派、統一教会の″教祖″的人物で池田大作氏を連想させる人物、目下アメリカで伝道中で相当な影響力をもつ人物である。

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⑤『クリスチャン・センチュリ』誌の「今日、アメリカで最も影響力ある宗教人」の…調査では…１２、３位にあるから、相当なものであろう。 それだけに既成教会の反発も強く、最も激烈にこれを批判・攻撃しているのが、実は″カーター牧師″の母胎、南部バプティストなのである。

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⑥同派はアメリカの諸教派の中で最有力であり、非常に保守的でかつて進化論裁判（モンキートライアル）を行ったこの派は「伝統的神学」の守護者をもって任じている。 また既成のキリスト教会は統一教会を教会と認めず、これの加盟を拒否している。

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⑦いわばキリスト教とは認めないわけで、認めないものがキリスト教を名乗れば異教でなく異端となる。 教会は伝統的に 「異端の罪は異教の罪より重い」 で、たとえば禅や儒教には寛容であっても、異端となれば排撃は峻烈になる。

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⑧第二がユダヤ教徒の反発である。 彼らは感情的よりむしろ論証的だから、激烈な排撃はないが、文鮮明の著書の１３０カ所を問題とし、これをアンティセミティズム（反ユダヤ主義）と規定している。 こう定義されると、アメリカではまず絶対にマスコミの支持は得られない。

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⑨全教会、ユダヤ教徒、マスコミに批判されると、州政府も連邦政府もそれに拘束される。 そこで第二の問題として、両政府ともこれを宗教団体と認めず…渡航申請しても…、米政府はこれにビザを発行せず、簡単にいえばこの一派の熱心な信徒の入国を拒否するという態度をとっている。

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⑩大統領であれ議員であれ、自分の選挙母胎、全教会、ユダヤ教徒、マスコミのすべてを敵にまわすことはこわいし実際にはできない。 そこで対韓外交が国内向けではこの状況に合わす顔になり、国際的には国際情勢に合わす顔となって、甚だ不透明になるのであろうと思われる。

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⑪では、この背後にあるものは何であろうか。 まず伝統的な「神学者の争い」であろう。 この言葉はしばしば「始末に負えない争い」の意味に使われるが、これはわれわれにとって批評の限りではない。

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⑬日本の自動車・鉄鋼・電気製品も結局同じと思うが、これらの重工業とキリスト教は 「自分が本家」 だという意識をアメリカ人はもっており、特に庶民はそれを 「精神的にも物質的にも貧しい東アジアの民に与えてやったのだ」 と信じている。

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⑭それがアメリカヘ逆上陸し、自分たちが被害を受けていると信ずると、面倒な問題になる。 物品はまだ精神的衝撃が少ないが、キリスト教となるとこの「本家意識」への直接的衝撃となり、反発も強烈になるであろう。

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⑮ただ良識のある人は少なくとも、 ①政府の介入は政教分離を規定したアメリカ憲法に反するし、 ②一個人の政治活動をその教派・人種に結びつけるべきではないと主張する。 特に②はこれによる少数教派・少数民族迫害史はアメリカの汚点であり、この誤ちは繰り返さるべきではないという。

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⑯「正論」であろうが、正論は常に「静かなる細き声」にすぎない。 以上はアメリカの問題であり、我々の社会には幸いこういう問題はない。 同時に、無い為に理解し難い事も否定できない。

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⑰ただこの際、 アメリカには日本的に図式化された民主主義国家とは別の顔があり、それが内政にも外交にも反映している という事実は見逃すべきではないであろう。

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⑱と同時に日本ではこの教会は宗教団体よりも反共団体と見られており、その点での反発があってもその神学に反対して対立している訳でもない。 この点では、アメリカと全く違うことも念頭に置くべきであろう。