#7　協奏曲 ♪ ノー・パーフェクト・ワン・ゴーズ

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隆光へのドロップキックを受け取められると、裏拳を智明に見舞う。間に入った湊に止められる。早紀の首元に湊の手。その中にカッターの刃。 「やり過ぎですよ」 「……そうね。やり過ぎたわ」 本当に刺されるなどとは全く思っていない。純粋に言葉通りの反省である。 21

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「ごめんなさい皆」 「いや、俺達も悪かったからな…」 「ご褒美でした！」「次からは全部僕が引き受けます」 「ずるいぞ浅空！」「早い者勝ちだ御神」 早紀と男子は互いに謝り合った。謝り合った…？ 「頑張れ…期待している」 懲りずに隆光が熱い視線を送ってくる。 22

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「おいこらヒロ元凶」 智明も流石に相棒の暴走に呆れ果てた。 「…コレはシメていいわね？」 再び凶暴性を解放する早紀。 「手伝います」 堂々とカッターナイフの刃を延ばす湊。 その背後に今被害を受けた男子(約2名除く) 「動くな？」 「…ああ…」 シメた。 23

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「それで浅空君と七橋君は？」 「美神を否定しといてなんだけど…正直対案が浮かばなくってな…コレじゃどっかの国の野党だよトホホ」 「俺は正直、専用の制服とかいいんじゃないかなって思っててさ…普段のまんまでさ」 「予算は削減したいですけど…流石にそれはどうかと」 24

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「だよな…ユウはどう思う？やっぱ無いと思うか？」 「……」 勇矢は答えない。 「浅空さんみたいな女子中学生好きの変態「ありがとうございます！」「…には良いかも知れませんけど、学生も多い訳ですからね。お祭りの日まで制服じゃあ堅苦しくて来年の新入生にも不評でしょう」　25

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湊は二人の間の険悪な空気・・・というよりも勇矢の一方的な悪意を感じて水を入れた。だが、と単位勇矢の様子が一変する。 「新入生？…え？」 呆然とした声で勇矢は呟く。 「ええ？そりゃ、来ますよ新入生？」 中学の文化祭には、来年度入学予定の児童は大抵来る。 26

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「新入生ってつまり…しょ、小」 「小学生ですよ？……大丈夫ですよ、来栖見からは10人も来ませんよ。智明さんに呼ばれなかったら貴方達だって来てないでしょう？」 湊は、勇矢の妙な様子を、彼の過去を知る下級生に来て欲しく無い物だと判断し、宥めにかかる。 27

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勇矢や裕岐達地元、来栖見は、茨城の西部。東部の新渡町までは電車で2時間。星咲は斬新なシステムや安い学費を評価されてはいるが、学力的には中の上程度。遠方から通うものは少ない。来栖見の近くにも同レベルの中学はある。実際、今年度は勇矢達4人を除くと10人も来ていない。 28

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来年度も、今年と大差ない筈だ。むしろ勇矢の悪評を信じる者なら来たがらない筈であり、減る可能性もある。そのつもりで湊は宥めたのだが、勇矢には通じた様子が無い。むしろ…。 「小学生。つまり…」 虚ろな目で勇矢は呟き、思考する。明らかに悪化している。 29

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「そりゃ来るだろ？…え、嬉しくないの？前一緒にロリアニメみたろ？」 起矢の声も勇矢には届いていない。 「大丈夫ですって…貴方の地元から2時間かけて見に来る人なんて殆どいま」 「ギャアアあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

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ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああぁあああああああああああ！！！！！！！？？？？？？？？？」 31

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絶叫。むしろ轟音。防音設備の整った工学部活塔でなければ、学園中に声が響いたかも知れない。間近の部員達は堪ったものでは無い。皆思わず耳を塞いで伏せた。蘭花は知恵の輪をしていたので興基が抱き抱え、延生が耳を塞いだ。湊にも塞ぐ暇は無かったが、裕岐が彼女の耳を抑えてくれて無事だ。 32

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「な、何なんですかっ！？」 湊は勇矢の異常行動には慣れたつもりだった。それでも予想外だった。何がいけなかった？ 「違うんだ伊都谷！そうじゃない！」 耳鳴りに顔をしかめる裕岐。耳が麻痺したため、湊の口を読んで話す。それに気付いた湊も口の動きを強調して返す。 33

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「あの人！下級生が、怖いんじゃ、ないんですか！？」 「違う！『女子小学生』自体がトラウマになってるんだ！存在そのものが！」 裕岐は大きな声で喋る。 「な、何でっ！？」 「元からの人間不信が…色々有ってっ！悪化したんだよ…」 二人は勇矢の様子を窺う。 34

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自勇矢自身も耳が麻痺したらしい。そしてしゃがれ声で苦しんでいる。例え聞こえたとしても裕岐が声を掛ければまた無視されるだろう。ならば事情を説明して湊に任せるべきだ。 「昔、女子に酷い目に合わされて…」 「それであらゆる女子小学生が嫌い…というか怖くなったと。でも」 35

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「あくまでＪＳというカテゴリーと単語がダメなんだ…頼むから伊都谷たちが去年まで女子小学生だったとか言わないでくれよ。あいつ無意識にそれに気付かない様にしてるんだ」 「一歳違うだけで幼稚園児や中学生は大丈夫、と…」 裕岐は頷く。聡明な二人の会話は最小最速で進む。 36

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「『小学生にしか見えない高校生』なんてのも平気だな。むしろ逆はダメだ」 「男子は平気なんですか？」 「平気っていうか…」 「ああ「最初からどうでも良かった」と」「言う訳だ」 勇矢の過去…特に来栖見小学校で、何があったかは湊もだいたいは知っている。 37

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方向性は真逆に近いが、世間を騒がせた小学生としての妙なシンパシーも…認めたくないが、ある。それでも彼の抱える闇…要は人間不信は想像以上に深かった。かつて湊は、世間を嫌い、憎み、拒絶し、破壊衝動に駆られた。駆られながらも振り上げた拳は収めた。収めたが振り上げた時点で遅かった。 38

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世間は彼女を敵とみなした。家族以外の全てから拒絶され、孤独となった。その闇から引きずり出してくれたのが智明だった。彼のお蔭で世間との繋がりも取戻せた。彼には、そんな存在はいなかったのか？…いやいた筈だ。 絢女やミーティア、そして、この目の前の七橋裕岐がそうである筈だ。 39

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彼がいたにも拘らず、あんな妙なトラウマが出来るほど追い込まれたのは信じ難いことではある。裕岐に、勇矢を助ける力が不足していたとも思い難い。だが湊にはこれも覚えがあった。智明に出会う前、正確には出会ってからも暫く。家族の助けをも拒んでいた時期の自分だ。 40

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……勇矢は後ろを向いている。もう耳も治るだろう。それを承知した上で、湊は口の動きだけで裕岐にある言葉を伝えた。裕岐は礼を言う様に頷き、勇矢を見た。これだけで何かが劇的に変わる筈もない。湊は軽い一石を投じただけだ。だが一石が頑なな堤防を崩す最後のきっかけとなることもある。 41

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