#twnovel　「不思議な魔女」その1

しーな@GO2完走 @xsheeenax

いつからだろう、自分が「不思議な魔女」と呼ばれ出したのは。薄暗いねぐらから賃貸のマンションに移り住み、魔女の癖に科学技術の恩恵に与るという矛盾に満ちた生活を始めた頃からか。でも、お陰でお客さんは増えてるんだよなぁ。「不思議な魔女」の占いも口コミで広まる時代だし。 #twnovel

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最早常連となりつつある客に、不思議な魔女は告げた。「今夜は潰されないこと」「潰れる？」「ええ」「つぶれる……つぶれる……」ぶつぶつ言っている青年をよそに、魔女は店じまいを始める。「今日の商いは貴方で最後。折角だし呑みに行く？」不思議な魔女さんの占いは、百発百中。 #twnovel

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えらく場違いな客だ。「失礼ですが、コスプレですか」「いいえ、執事です。お嬢様のことを占って頂きたく、不思議な魔女さんのお噂を聞きつけまして」「はぁ。でもこういうのは本人じゃないと……」ご心配なく、とお嬢様とやらの個人情報をすらすら述べ始めた。……詳しい、ですね。 #twnovel

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不思議な魔女は、朝露を受けた水盆にそっと指を滑らせる。寝惚けた身体にしゃっきりと筋が通っていく感覚。眠っていた魔力が花開くように目覚めていく。毎朝の何でもない儀式。その積み重ねが彼女の魔法となり、源となる。「昨日はWCで夜更かししすぎた……」と大きな欠伸をした。 #twnovel

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天井まで嵌め込まれた本棚には、ぎっちりと本が並ぶ。古くから伝わるものは大抵が分厚く大判だ。しかし文庫本の魔導書というのも軽すぎて威厳がない。言うまでもなく重要なのは中身なのだが。不思議な魔女はiPad片手に、こーゆーのを電子書籍化したら先人は泣くかなぁと考えた。 #twnovel

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老若男女既婚未婚を問わず相談に乗ることには吝かではない。とかく仕事の愚痴は多く感じる。不思議な魔女は「仕事を家庭に持ち込まない」という非核三原則のようなものであろうかと推察するが、「家に嫁がいるので落ち着かない」のは最早夫婦でも家族でもないのではないかと思う。 #twnovel

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シアワセならいいな、と不思議な魔女は珍しく殊勝なことを考えた。あなたの手助けになれば、お代は取らないよ、と他の客には聞かせられないようなことまで呟く。けれど、知らなすぎるんだ。占ってと頼まれてもいないのに、私から何も訊けない。何て役立たずな魔女、と夜明けの嘆息。 #twnovel

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ちょっと言い過ぎたかなぁ、と不思議な魔女は溜め息混じりにぼやく。手作りブレスレットの石が仄かな灯りに反射するのをぼんやりと眺めながら。でも、いつまでも甘やかしてるのは良くないし。親ほど年の離れた常連さんにきついことを言うと、あからさまにへこまれて、こっちが困る。 #twnovel

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「名前？」問われて不思議な魔女は不思議な顔をした。願いを込めてつけられた、自分でもお気に入りの名は、とうに封印してしまっていた。誰も知らない。誰も呼ばない。「不思議な魔女で通用してるんだから、必要ないよ」そう言って睫毛を伏せる。本当は、一人だけ知っている。秘密。 #twnovel

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西の空に傾いた朧月がほんのり金色に輝いていて。明けの明星が束の間空の主役を張っている間。満ちていた力が少しずつ削り取られる感覚。ばいばいまた今度。次に会えるのを楽しみに。ぼうと立ち尽くして、沈むのを見送る。今夜また昇る月と何が違うんだろうね。不思議な魔女は呟く。 #twnovel

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不思議な魔女は忘却する。全てを。何もかもを。私が不思議な魔女で生き続ける為に。 #twnovel

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告解とか懺悔とか。そんな単語が頭をよぎる。しかし教会に属すことなどある筈もない不思議な魔女は、ふう、と息をひとつ吐き。「カタチはともかく、良かったんじゃない？人間不信のあんたが、やっとまともに誰かを好きになったのならむしろめでたいじゃないか。細かい点はともかく」 #twnovel

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今日は流石に店仕舞いだよ深夜料金シャレになんないよ、とやる気のない口上を述べながら不思議な魔女が振り向く。そこに立っていた青年の姿を認めて、にやりと笑った。「まさか、あんたがねぇ……」にやにやしながら、片付ける手は休めない。「どんな物語が生まれるのか楽しみだよ」 #twnovel

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久し振りに長時間箒に乗ったのであちこち筋肉痛で身体が痛む。しかし、その苦労と引き換えに手に入れた流星の欠片が入った瓶を眺めて不思議な魔女はご満悦。何を作ろう。何に使おう。ひとまずはこうやって、毎日眺めて過ごしていよう。きらめく瓶の中身は、夜にこそ一層輝きを増す。 #twnovel

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不思議な魔女は、上弦の月に腰掛けてゆるりと煙管をふかす。弦を張ったそれを時折手慰みに爪弾き、誰にも聞こえない独り言を夜空にこぼす。地上に落ちる頃には消えてなくなる言葉の欠片を旋律に乗せて。もう秋なのだなと思いながら、紅染月と名付けられた空からぼんやりと見下ろす。 #twnovel

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「男が欲しい、ねぇ……」大学生と覚しき客の女が「彼氏ですっ」と訂正してくるが、不思議な魔女は特に気にしていないようだ。「いや、でもちょいと蜘蛛の巣でも仕掛ければ、なにかしら引っかかるかも知れないよ」「かも知れないって」「ある日ぽこっと降ってくる訳じゃあるまいし」 #twnovel

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起きたときから何かおかしい。鎮痛剤を飲むほどじゃないけど、頭がじんわりときしむようで。喉も痛いのは気のせい？解熱剤を飲むほどじゃないけど、何だか身体が火照っているようで。君のことをずっと考えてるんだ。きっと、不思議な魔女が新月に乗じて変な魔法をかけたに違いない。 #twnovel

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「あなたの睡魔をぼくにください。みなさんから集めた睡魔は、眠れなくて困っている人のところに派遣します。そうすればみなさん幸せに……」「んー、イマイチだねぇ」不思議な魔女の採点は辛い。「これで寝る間も惜しむようなワーカホリックな客が死んだらこっちのせいにされるよ」 #twnovel

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お久しぶりの不思議な魔女は、何処かにお出掛けしたり引きこもったりしていたらしい。占いの看板を上げているにもかかわらず恋愛相談所と化していることに辟易したというのも事実だったが。「カーマ・スートラ」でも積んどきゃいいか。いや、そういうの専門だと思われても余計困る。 #twnovel

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不思議な魔女の占いはよく当たる。それが幸か不幸か乙女の恋愛相談所となり、挙句には選挙の度に行方をくらまさなければならなくなった。だから違うってばーと溜め息ひとつ。かと言って魔法を使えるなんてことは信じて貰えない。便利なようで不便な世の中だ。なかなかめんどくさい。 #twnovel

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あ、と不思議な魔女は声を漏らした。薬の調合中に材料が足りなくなったのだ。夜に開く専門店までは箒に乗って行かねばならない。こんな日に限ってこの風の強さは何だ。しかし今晩中に仕上げなければ効力が。あーあーと唸りながら愛用の箒を撫でる。……頼むから落っことさないでよ。 #twnovel

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店をたたんだ不思議な魔女が夜の街へと繰り出して、色んな団体をすり抜けいつものバーに滑り込む。「ありゃ」ちいさな店でも今夜は満員だ。申し訳なさそうな視線と共に一礼するマスターに商売繁盛善哉善哉と言祝いで予定変更。身を切るような寒空の下で呑む酒も、たまには悪くない。 #twnovel

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そんなことは天文台や気象庁に訊きなよー、と不思議な魔女は億劫そうだ。流星群観測のベストポジションを占えという依頼が立て続けに入る。いや、いいんだけどさ。どうもこの若い子たちは私が使う、年季の入った天球儀や星座板を見たいだけなんじゃないかと思ったり思わなかったり。 #twnovel

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不思議な魔女は、土日が稼ぎどき。仕事がはねたら呑みに出て休日にはネット通販で買った荷物の受け取りに勤しむ。 #twnovel RT @ogiri_tweet: 【ついったー大喜利：アーカイブ】魔法使いの土日の過ごし方を教えて下さい。 #ogiri_101006

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雨雲を越えて、不思議な魔女は月の蝕に触れる。満月に蝕、か。独りごちてうっそりとした笑みを浮かべた。眼下にはその狂気に当てられた人々の混乱がちらほらと見え隠れしている。ああほら、無意識だと操られてしまうよ。思わず口に出した忠告も、月に吸い込まれて彼らには届かない。 #twnovel