クロニアクロス

またもやお兄さんの小説ですよwktk
10
前へ 1 2 3 ・・ 14 次へ
U @ebleco

「よぉ、アージェ、居るか? 居るよな。ガキがタムロしてるもんな」「やべぇ、アランだ! 逃げろ!」「はぁ!? お前等何だその口の利き方は!?」「気にすんな。大人は子供に嫌われるもんだ」「糞が!」知らない、男の人の声。私の知ってる声なんて、一人分しかないのだけれど。 #クロニアクロス

2014-01-21 14:05:38
U @ebleco

「……行ったか?」「……行った」「おーけー、それじゃビジネスの話に入ろう、アージェ。首尾はどうだ?」「……結論から言えば、子供は居た」「そうかい」どくん、と、心臓が跳ねる音が、二人分の声を邪魔をした。「泣いて謝ってた。もう二度と近付かないから、許してくれってさ」 #クロニアクロス

2014-01-21 14:08:08
U @ebleco

「はぁ!? お前それじゃ話が違うじゃねぇか! 俺は『捕まえて来い』って言ったんだぜ?」「大人は子供を無駄に泣かせない」「……お前なぁ」「それで金まで取ろうとはしねぇよ」「……待った。それじゃ筋が通らねぇだろ。お前は二度も『仕事』に出た。俺の金払いが悪いと思われる」#クロニアクロス

2014-01-21 14:12:27
U @ebleco

「契約を反故にしたのは俺だ。大人は仕事もしないで金を要求しない」「いーや、働かせた分は金を払うのが俺の流儀だ。元々の金額の7割は払う」「8割」「7割3分だ! しれっと吊り上げてんじゃねぇよ!!」「お前は金には本当に細かいな」「へへっ、そりゃ俺は金の信者だからな」 #クロニアクロス

2014-01-21 14:17:02
U @ebleco

アージェは、私を守ろうとしてるんだと思った。あの『ゴミ山』に来たのは、仕事の為だと言っていた。なら、本当は私を売り飛ばした方が、お金になるはうなのに。「……で? 今週は稼いだ金で何をお求めで? 『お客様』?」「黒と紫だ」「あいよ、いつもの珈琲豆と煙草ね」「それと」#クロニアクロス

2014-01-21 14:20:29
U @ebleco

「……それと、アラン、服が欲しい」「替えのスーツか? 大分汚れてきたからなぁ。お前も背広なんか着てないで、動きやすい服着てりゃいいのに」「大人はスーツを着るもんだ。それと、今回はスーツじゃない。このくらいのサイズの服が欲しい。形は着れれば何でもいい」「子供用ぉ?」#クロニアクロス

2014-01-21 14:22:30
U @ebleco

「んなもん、何に使うんだよ?」「……着る」「着れるわけねぇだろ! ああっ! 解ったぞ! お前さてはガキ匿ってんな! 何処だ! 二階か!」「待てアラン!」「二階なんだな!」「何故解った!?」「お前本当に嘘下手だな!!」どたどたと、近付いて来る足音。階段を、上がる音。#クロニアクロス

2014-01-21 14:26:12
U @ebleco

足音が、部屋の前で止まった。ガチャガチャと、ドアノブを捻る音。私は、逃げ出す事も出来ずに、布団を頭から被る事くらいしか出来なかった。「ああっ!? 鍵掛ってやがる! ここだな!」「やめろアランその扉は建て付けが悪いんだ! 壊れる!」「あ、その口調は嘘じゃねぇな!」 #クロニアクロス

2014-01-21 14:30:31
U @ebleco

「よし解った。お前が開けろ、アージェ。じゃねぇとお前ん家の寝室の風通しが良くなる事になるぜ!」「……解った。解ったよ、アラン。ただ、アイツは行く宛が無かっただけなんだ。そうに決まってる。だから許してやってくれ」「……何で、そこまでするんだよ?」「俺は大人だからだ」#クロニアクロス

2014-01-21 14:36:57
U @ebleco

「……はぁ。マジで二度と俺の『ゴミ山』に近付かせるんじゃねぇぞ?」「その、つもりだよ。おい、布団被ってろ。開けるぞ」ドン、と大きな音。多分、扉を一度蹴飛ばした音だった。それから、ドアノブを捻る音と、扉が軋む音。「……何で隠す?」「襤褸切れみたいな服しか着てない」 #クロニアクロス

2014-01-21 14:41:35
U @ebleco

「……確かにガキだろうな。女か?」「大人は子供に手を出さない」「そんな事を訊いてるんじゃねぇよ」布団の外側。すぐ近くから、二つの声。「いいか? 今回は見逃してやる。お前には普段から無理を聞いて貰ってるからな。だが、こいつが俺の金に手を出すなら、その時は」「おい」 #クロニアクロス

2014-01-21 14:44:21
U @ebleco

遮るような、言葉。少しの間の、沈黙。「……大人は、子供に向かってそんな言葉を使わない」冷たい、声だった。「……チッ、解ったよ。だが、本気だぜ。俺は、金になる事なら何でもする」「……知ってるよ」足音。この家の壁や床は薄いから、それが遠ざかっていくのが、良く聞こえた。#クロニアクロス

2014-01-21 14:48:25
U @ebleco

「アージェ! 食料といつものは三日後、服は一週間後だ! まいどありだこの糞が!」最後に、家の外から、大声が聞こえた。近くで、足音。何かが軋む音。それから、風が吹き込んできたみたいな音がした。「……もういいぞ」布団から出れば、黒い髪の、スーツ姿がこっちを見ていた。 #クロニアクロス

2014-01-21 14:56:26
U @ebleco

「……なんで?」「何がだ?」「なんで、そこまでしてくれるの?」「俺は大人だからだ」「あなた変よ! 全然理由になってない! 何の得にもならないのに! こんな……こんな、私みたいなバケモノ匿って!」「俺は、そうは思わない」胸ポケットを、叩く仕草。「そうは、思えない」 #クロニアクロス

2014-01-21 15:00:18
U @ebleco

「お前は、言葉が解る。名前がある。漢字だって読める。そこらの大人より賢いくらいだ。だから、俺は、お前を『人間』だと思う」黒い、瞳。上から下まで、アージェは、全然、『銀色』なんかじゃない。「……シロネ。一階にパンがある。食ったら腕と足に包帯を巻け。お前の鱗は目立つ」#クロニアクロス

2014-01-21 15:04:39
U @ebleco

振り返る、背中。部屋の外に歩いて行きながら、アージェは胸元からライターを取り出していた。「……どこに、行くの?」私は、何故か彼を呼び止めてしまった。「……子供の前では吸わなくていいものを吸いに行く。煙が入るから、玄関は開けるなよ」振り返らない、背中。銀色の、声。 #クロニアクロス

2014-01-21 15:07:44
U @ebleco

「……変な人」足元に布団を被せたまま、私は前髪を撫で付けた。私の顔は、首から右側の顎にかけてまで、鱗が生えている。こんなの、ちっとも人間じゃない。「……恰好付けてる、だけじゃない」私は、自分を抱えた腕から、鱗を一枚引き抜いた。血が滲む。ああ、またやってしまった。 #クロニアクロス

2014-01-21 15:54:19
U @ebleco

窓から差し込んだ日差しが痛いと、シロネは言った。俺が成り行きで匿った子供の肌は、蛇のように白い。体の方々から突き出た鱗は魚のようで、長く伸びた髪は銀色。ベッドから顔を出したそいつ腕からは、鱗が剥がれたのか赤が滲んでいた。人間の血の色だ。俺は、『不死者』を匿った。 #クロニアクロス

2014-01-27 23:44:36
U @ebleco

「……『不死者』は、陽の光に弱いのか?」「……わからない」「今まで、どうやって過ごしてきた?」「知らない。暗い所を選んで、隠れてきた。気付いたら、この街に居た。その『不死者』って言葉だって、私にはわからないわ」「……解らないなら、お前はやっぱり人間なんだろうな」 #クロニアクロス

2014-01-27 23:49:33
U @ebleco

「……アージェは」布団に下半分を埋めた、顔。言葉を飲み込んで俺を見上げた緑色の瞳は、捨て猫めいていた。「……私が『それ』なら、殺すの?」「俺は子供を殺さない」俺は猫目の蛇めいた人魚から視線を外し、クローゼットを引き開ける。中にあるのは、皺の寄った白いシャツだけだ。#クロニアクロス

2014-01-28 00:01:04
U @ebleco

「少なくとも、女子供は殺さない。それは大人のする事じゃない」後ろ手に、放り投げたシャツ。アランの話じゃ、食料と嗜好品は3日後に届くが、服は更に4日後だ。サイズが合わない服だろうと、無いよりはマシだろう。「……汚れるわ」「別にいい。着てろ」「見ないでよ」「見ない」 #クロニアクロス

2014-01-28 00:09:22
U @ebleco

「……着たか?」「待って」背中越し、子供の声。視線をクローゼットの中から動かせないのは、間を持て余す。こういう時に、煙草は便利だ。煙草さえあれば間が持つ。俺は胸ポケットに手を充てて、それから、あやすように潰れた箱を数度叩いた。これは、子供の前で吸うものじゃない。 #クロニアクロス

2014-01-28 00:14:56
U @ebleco

「……ん、いいよ」「そうか」振り返った先、余らせた袖を折り曲げながら、ベッドの上にへたり込んだ白い姿があった。髪を撫で付ける仕草。腕と、首元を服で隠し、前髪で顔の半分を隠せば、人間の子供の出来上がりだ。「上着は兎も角、足元は……」「いいわ。これで」白い、足。鱗。 #クロニアクロス

2014-01-28 00:20:34
U @ebleco

「今まで着てたボロより、ずっといい」足を伸ばし、弾みを付けて、シロネはベッドから立ち上がった。シャツの裾を払う仕草。曲げた腕、自分の足元を見る小さな背丈。「アージェのシャツって、私が着るとワンピースになるのね」俺を見上げた緑色の瞳は、そう言って、笑顔の形を作った。#クロニアクロス

2014-01-28 00:28:11
前へ 1 2 3 ・・ 14 次へ