山本七平botまとめ/【日本語の国際化】/海外からの誤解を招く「危険性への配慮に欠けた」日本の言論活動とは
- yamamoto7hei
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②理由の一つはおそらく「日本語圏」という一種の鎖国世界に住みつづけて来たということ、 もう一つはお互いにわかりあえると信じている世界の中だけで言論活動がつづけられて来たからであろう。
2014-01-24 05:08:55③これが「英語圏」「スペイン語圏」「アラブ語圏」として、またかつての「漢字圏」における言論とは全く違った性格をもつに至った理由であると思う。 これは具体的に言えば「英国人が英語で著作すれば当然に世界の人々が読み、自らの立場に応じて理解する」という状態とは全く異なった状態である。
2014-01-24 05:39:07④と同時にこのことは「あ、あの人の立場ならああ書いて当然だ」という一種の「割引」で、書かれたものの内容が受け取られる状態とも全く違った状態である。 そして日本人は、そういう状態になった経験がないから、今まではこの点の配慮は全くしないでよかった。
2014-01-24 06:08:57⑤いわば言論はすべて、日本人という「仲間うち」の批判や非難、もしくは「仲間ぼめ」であればそれで事足りた。 だが、この状態は徐々に崩れ、日英同時出版も出てくれば、日本人の図書の英訳・仏訳等もしだいに盛んに行われ、また日本の国内の言論にも、外国の鋭い目がそそがれる状態になった。
2014-01-24 06:39:08⑥この問題は「教科書問題」でも『悪魔の飽食』の問題でも、また新たに登場した『自動車絶望工場』の英訳にもいえる問題である。 これはトヨタ自動車の工場の記録であるだけに、「過去のこと」でなく「現在のこと」として、日本の車への攻撃の有力な材料になるであろうと思われる。
2014-01-24 07:08:58⑦もっともわれわれが読めば 「十何年か前の臨時工がこういうことを書いても不思議ではないな」 という、前述の「仲間うち」の割引で読むであろうが、アメリカ人には 「これがトヨタだ」 となってしまうわけであり、ここに「言論の国際性」という問題が出てくるわけである。
2014-01-24 07:39:14⑧勿論、私は「国益を害するようなことは書くべきではない」と言っているのではない。 ただ、以上の様々な書が問題になったとき、私はちょうどラッセル・ブラッドン氏の『警鐘は鳴りひびく』(邦訳名『日本人への警鐘』)を訳していたので、この本との対比で様々な事を考えざるを得なかった。
2014-01-24 08:09:11⑨というのは、ブラッドン氏は太平洋戦争の緒戦、マレーの戦いで捕虜となり、ペナンの収容所、チャンギの収容所、さらにあの悪名高いクワイ川の収容所で四年近い歳月を送った人である。
2014-01-24 08:39:15⑩その間の苦痛、絶えずさらされる死の恐怖、ビンタにはじまる体罰、生きていたのが不思議とも思える過酷な強制労働を体験している。 従って、日本人への憎悪のかたまりであっても少しも不思議でない人である。
2014-01-24 09:09:32⑪その氏が、戦争中の日本軍の作戦、行動、残虐行為などを記し、同時にまたそれと並行する形で戦後の日本の経済的大躍進を分析しているのだが、読んでいて少しも抵抗を感じないのは、氏があくまでも「公正」であろうとする態度を、異常なほどの努力で自己に課している点である。
2014-01-24 09:39:08⑫一歩まちがえば、彼自身「丸太」同様の運命に陥るところであったことを思えば、この「公正」さはむしろ不思議な感じさえする。 私は彼の取材をうけ、それが後に翻訳を彼から頼まれた理由の一つとなったが、その取材の徹底ぶりも少々驚いた。
2014-01-24 10:09:07⑬納得のいかないことはあくまでも質問し、追究の手をゆるめない。 しまいにはこちらがくたくたになるほどであった。 この長い取材の結果が短く要約されて本書に出ているが、そこにはあくまでも正確に要約しようとした跡がありありと見える。
2014-01-24 10:39:20⑭私は彼と会い、彼の取材をうけ、その本を訳して(これは日英同時出版だが)、「なるほどこれが国際的に通用する作家というものか」と思った。 彼の『裸の島』は、英・米・仏・スペイン語でそれぞれベストセラーになったが、そうなって当然であるような気がした。
2014-01-24 11:09:07⑮「日本語という壁」は徐々に崩れている。 これは日本が経済的に発展したことがその理由の一つであり、かつて多くの書の英米仏独同時出版が行われたように、そこに日本語が参入するのはすでに現実の問題となっている。
2014-01-24 11:39:10