投げ込み寺の冬(投げ込み寺の主4)

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生した物語。 ツイロンガーで修正版をアップするつもりですが、無修正版をこちらに。 単発で考えていたものが増えてきて、シリーズ化してもいいんじゃないかと思いはじめてきました。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 女の声には有無を言わせぬ響きがあった。しかし、その声を聞く唯一の人物もなかなかの曲者だった。「お黙り!ごちゃごちゃとうるさい尼さんね。私の無念を晴らすのが、あなたの役目なんでしょう?」「そうはいかない。手伝うからには事情を聞かせて」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-04 23:38:17
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「祟り殺されたいの?」つり上がった眉と引き結ばれた唇。恫喝する女の姿もまた美しかった。「ご自由に。でも、君には私の助けが必要でしょう?」寺の主は真面目な表情で、遊女の幽霊に答えた。「あんな死に方を選ぶくらいだ。君の覚悟は並じゃない」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-05 10:18:35
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 雪が降る。街のどこにでも、誰の上にでも等しく。身寄りのない者たちの魂を弔う投げ込み寺も例外ではない。粉雪は空から舞い降り、今日投げ込まれたばかりの、二人の遊女の亡骸を白く染めていた。寺の主は、背の高い死体の様子を思い浮かべて言った。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-05 15:55:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「そう…並大抵の覚悟じゃない。だからこそ、知っておきたいんだ。椎崎、君はその男を見つけて、どうするつもり?」幽霊がそっぽを向くので、寺の主はため息をついた。「じゃあ、明日まで待つ。君たちを弔わなきゃいけないし、雪が降っているから」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 00:26:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 幽霊は頬を紅潮させ叫んだ。「嫌よ!すぐに探し出して!明日まで待てない!」寺の主は肩をすくめて、口を尖らせた。「私だって嫌だよ。こんな寒い日に出歩いたら、風邪引いちゃう」「風邪なんて、寝れば治るわ。でも、私の怒りは死んでも治まらない」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 00:27:18
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 遊女の幽霊は険しさをすっと引っ込めて、婉然たる笑みを浮かべて歌いはじめた。「君は野に咲く、あざみの花よ、見ればやさしや、寄れば刺す」寺の主の表情をちらりと見て、歌をピタリと止めた。「もっと聞きたい?」「うん」「じゃあ、手伝いなさい」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 01:20:34
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 外は吹雪いていた。紫の頭巾から覗く赤い唇は震えている。「寒いよぅ…」寺の主の隣で、幽霊は涼しげな顔で微笑んだ。「この椎崎太夫を歌わせるのに、何度通って、幾ら払わないといけないかご存知?」「考えたくもないよ」「これぐらい安いものだわ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 12:23:51
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 傘の柄をきつく握りしめて、寺の主はぼやいた。「勘違いしないで。歌を聞きたくて協力するんじゃない。君に興味をもったから」「じゃあ、飽きさせないように、じらさなくちゃね」幽霊が笑うと、寺の主はため息をついた。「君も私をじらすつもり?」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 12:37:42
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 件の男「古屋加次郎」は、すぐに見つかるかと思われた。しかし、住み込みで働いていた油問屋を訪ねると、五日ほど前から失踪していた。店の者の話では、酒も煙草も女も嗜まないケチな堅物だったという。番頭に昇格し、その祝い金と共に消えたそうだ。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 15:39:12
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は雪を下駄で踏みしめ、隣の幽霊に話し掛けた。「ねぇ、そいつは何故消えてしまったんだろう?番頭だなんて、大出世じゃない。…それに、遊女である君との接点もわからないし」幽霊はおどけてみせた。「あい、野暮なお人は好かぬでありんす」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-06 15:54:41
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「君は太夫だ。生活に不自由はないし、好かないお客は断れるぐらいの高級遊女だよ。そんな君が、何故死を選ぶ?」遊女は微笑んだ。「私は尼さんの方が気になるわ。袷は綿が詰まって、生地は上等。鬘の髪の結い方にも品がある。いい家のお嬢さまね?」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-07 12:00:04
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は白い息を吐いた。「否定はしないよ」「なら、もうひとつ。その頭巾の色…あなたは未亡人ではない。例えば、親が決めた許婚が気に入らない。もしくは、許されない相手を愛してしまった。あなたが出家した理由は、恵まれたお嬢さまの我が儘?」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-09 01:26:48
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 幽霊はふふと笑った。「違うかしら?」「イイ線いっている。でも、その言葉はそっくり君に返すよ」寺の主もニィッと笑った。「君が死んだ理由だって、似たようなものでしょ?君は必要以上に自分の体を傷つけている。もう誰にも抱かれたくないから?」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-10 01:42:39
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は突然立ち止まって、身震いした。「ううう、どうりで寒いと思ったら…ここだ。古屋加次郎が目撃された場所」辺りに建物はなく、風は好き勝手に吹きまくっていた。凍った川面を見て、肉体がないはずの幽霊もぶるっと震えた。「…見て、橋の下」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 12:03:38
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 橋の下には火が焚かれ、暖をとる男たちがいた。「ちょっと聞いてみるか」寺の主が橋に向かって歩き出すと、男たちはピューと口笛を吹いて「女だ!」「オラたちを温めてくれよ!」と口々に囃し立てた。「柄の悪い男たちね」幽霊が眉をひそめて呟いた。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 15:26:59
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 男たちはニヤニヤ顔で、寺の主を取り囲んだ。寺の主は立ち止まって、肩を竦めた。「落ち着いて。一度に全員のお相手はできないよ」しなを作って、流し目で男たちを見回すと、ふうっと笑った。「あなたの奥さん、お梅さんって言うの?色白の美人だね」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 15:37:55
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「ひぃ…!」と声を上げ、体格のいい男が後ずさった。「あなたのお母さん、可哀相。あなたが役者になるのを楽しみにしていたのに」寺の主と目が合うと、面長の男は腰を抜かした。「ふぅん、子沢山だね。次男はあなたにそっくり。…それから、あなた」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 23:01:54
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 指差された赤ら顔の男は、手を上げて降参の合図をした。「お嬢ちゃん、勘弁してくれ!」寺の主は肩を竦めて尋ねた。「『古屋加次郎』という男を探しているの。知っている?」男たちが顔を見合わせると、面長の男は言った。「あの若いのじゃないか?」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 23:17:38
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「ねぇ、その若いのに会わせてよ」寺の主が顎をしゃくると、男たちは一目散に駆けて行った。「あなた、便利ね」幽霊がふふと笑うと、寺の主は唇を尖らせた。「そうかな?子供の時は、周囲に気味悪がられて村八分。おかげで、暗い奴になっちゃったよ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 23:28:10
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「その割に、よく喋るわね」「暗い奴が無口って、誰が決めたの?」寺の主は傘を畳んで足元に置き、焚火に手をかざした。「私が見ている世界と、みんなが見ている世界は違うんだ。寂しかったよ…彼女も、私と同じ世界を見ていたことに気づくまではね」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-11 23:55:06
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 幽霊の顔から笑みが消えると、寺の主はぽつりと呟いた。「でも、彼女は逝ってしまった。振り向きもせずに」「…笑うて悲しい 座敷をぬけて、泣いてうれしい 主のそば」幽霊は恋の歌を口ずさみ、静かに囁いた。「あの人が私を買いに来たのは四日前」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-12 02:00:14
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 幽霊はため息をついた。「揚げ屋からお呼びが掛かったの。とても羽振りがよいお客が、私をご指名だってね。くだらない男だったら、冷たくあしらってやろうと思ったわ。案の定、座敷で私を待っていたのは、成金趣味に身を包んだ、冴えない小男だった。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-13 00:27:20
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 気に食わなかった。特に顔つきが。誰もが欲しがる、この椎崎太夫を前にして白けた顔。そのまま座敷を去ればよかったのに、その時の私はどうかしていた。人払いをして、その男と二人きりになった。そして、問い詰めたの。私の何が気に入らない…とね。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-13 01:06:46
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl すると、男は小さな体を更に小さくして言ったの。「申し訳ありません。私は本来ならば、あなたとこうして会えるような男ではありません」と。今にも泣き出しそうな…いいえ、男のくせに半ベソをかいて…私にはなにがなんだか、よくわからなかったわ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-13 01:16:52
お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 幽霊は目を閉じた。「彼は鼻を啜りながら言ったわ。十数年前…まだ丁稚だった彼はお使いに出て、偶然に見かけた幼い禿に恋をしたの。それから何年かが経ち、彼は手代に昇進し、稼いだお金を持って遊郭街を訪れた。そして、見世を端から端まで物色した。#投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

2014-01-13 02:56:14