投げ込み寺の冬(投げ込み寺の主４)

お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「かーじろーさーん！」甲高い声が男の名を呼んだ。男は一気にお茶をあおると、寺の主に会釈した。「すみません、子供たちに本を読んであげる約束をしておりまして」「商人よりも庭師よりも、君には先生の方が似合いそうだね」「そうかもしれません」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 男ははにかんだ笑いを浮かべて、立ち上がった。「掃除の続きは帰ってからやります」「気にしないで、行っておいで」寺の主はひらひらと手を振った。「ありがとうございます」男は軽く身を屈め、小さな声で優しく囁いた。「おきぬ、行ってくるよ」と。 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 夫の背中を見送り、女の幽霊は尋ねた。「あの人、どこまでわかっているのかしら？」寺の主はお茶を啜った。「さあね。気配はわかるみたいだけれど」「彼ったら、寝言で私を呼ぶのよ。私を抱くように手を伸ばして」「ふぅん、よかったね。ご馳走さま」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 「体はないのに、彼に触れたくなったわ」幽霊が淫らなしぐさをして見せると、寺の主は頬を赤らめて咳ばらいした。「椎崎、君はいつまでここにいるつもり？」幽霊はふふと笑い歌いだした。「おまえ正宗 わしゃ錆び刀、おまえ切れても わしゃ切れぬ」 #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団

お菊 @sara_yashiki

@mt_tl 寺の主は眉をひそめた。「彼に一生付き纏うつもり？」幽霊は呆れてため息をついた。「野暮な男。あなたの恋人は、こんな鈍ちんを残して、よく化けて出ずに死ねたものだわ」寺の主は子供っぽく、あっかんべーをした。「ふん、僕は純朴なんだよ」(完) #投げ込み寺の主 #日刊調査兵団