『シェルタリング・スカイ』を分析しよう―坂本龍一の作曲技法
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http://t.co/Vt7MOdPLJr パクリ疑惑もあるけれど、名曲です。これを少し分析してみます。
2014-01-30 01:38:57楽譜を見てみましょう。冒頭の四小節ぶんです。ト短調。分析にあたっては移動ドで表記します。つまりイ短調に移調するわけです。 http://t.co/SyTH80Svim
2014-01-30 01:40:06旋律は♫ドシレドラ、ドシレドミファ、ドシレドミ、レミラシ♯ファソ♪ 終わりの方でファではなく♯ファが唐突に鳴る。それなのに違和感がないのはなぜでしょう。
2014-01-30 01:40:27作曲者そのひとが不思議がっています。インタビュアーにうまく説明できないでいる。 http://t.co/845b00htBt
2014-01-30 01:41:11そこで私が謎を解いてあげましょう。この旋律、調を変えれば♪ファミソファラ、ファミソファラシ♭、ファミソファラ、ソラレミシド♪とも歌える。つまり「終わりで唐突にファ♯が鳴る」ではなく「半ばで唐突にシ♭が鳴る」と言うこともできる。
2014-01-30 01:42:10ミクソリディアン音階でできた旋律、と分析してもいいし、もっと愚直に二短調だから(つまり♪ドシレドミ♪解釈)と分析してもいい。が、ここでもっと大胆な解釈を提案します。
2014-01-30 01:42:242小節目は♪ファミソファラ♪に、「うっかり」シ♭が混じってしまった、と解釈するのです。うっかりですよ。うっかり。
2014-01-30 01:42:53右手は二短調で演奏しているのに、左手は(つまり和声)はイ短調で演奏している・・・そう考えるのです。問題のシ♭は、本来は右手では鳴らない音なんだけど左手では鳴ってもいいとされる音なので、うっかり右手で鳴らしちゃった、と。
2014-01-30 01:43:25私たちの耳はこのシ♭の音について「ああこれはイ短調の『ファ』だな」と認識するので、違和を感じない。ところが実は二短調の「シ♭」。うまく耳のツッコミをすり抜けているわけです「ファ」だと思わせることで。
2014-01-30 01:43:57和声(左手)上許される音階と、旋律上の音がなじまないときは、和声上の音階が優先される。それで旋律上はシ♭ではなくシでないとおかしいんだけど和声上許される音階に属するシ♭の音が優先されて鳴る、と。
2014-01-30 01:44:51イ短調で歌うと四小節目の旋律は♪レミラシファ♯ソ♪で、ありえない音であるファ♯が唐突に鳴る。ところがこのありえないはずの音が鳴っても違和を感じないのは、この旋律は一貫して二短調音階(自然的短音階ですちなみに)で構成されているので、別に矛盾はないから。
2014-01-30 01:45:51「その解釈だと二小節目のシ♭はどうなるの?外れた音じゃない。一貫してないよ」 あはは、そのシ♭はちょうどそのとき左手が奏でていた和声の音階に属するんですよ、それで和声の音階優先の法則によって鳴ってもOKとしたんですよ、あくまで例外的見逃しです、というわけ。
2014-01-30 01:46:21旋律は二短調を維持している。それでいて和声はイ短調を維持。これだとファなのかファ♯なのか(二短調で表記するならば「シ♭なのかシなのか」)で両者が衝突してしまうはずなんですが、①和声上許される音階の音と、旋律の音階上許される音とがずれる場合、前者をたててあげるの法則と(続く)
2014-01-30 01:47:06②左手が奏でる音階と右手が奏でる音階が違っていても、和声上許される音階と旋律上許される音階とが部分的にでも一致していて、その一致部分の音であれば左手で右手の音階を奏でてもよいの法則(長っ!)を重ね合わせることで、複調を可能にしているのですこの曲は。
2014-01-30 01:47:23スマホのどうということもない操作も、マニュアルとして文字で説明しようとするととんでもなく長ぁーい代物になってしまうのと同じ。音楽は聴けば善し悪しが反射的に判断できるのに、ではなぜそう判断できるのかを論理に置き換えて語るのは難しい。そのうえ言語化に成功してもひとに伝わらない。
2014-01-30 01:47:39面白いことに、以下私が言語化してみせたことを、作曲者そのひとが言語化できていないのです。作った当人が「なんでこの音なんだろう。理論的にはおかしいよね」と白旗を振ってる。 http://t.co/x47T8YIE5x
2014-01-30 01:48:22作曲者である坂本龍一先生は「繋留音」とこじつけていますが、無論間違いです。キーワードは「複調」。面白いね、作った本人が実はよく分かっていなくて、私ごときが分かっちゃうんだから。 http://t.co/ygeP5mrc1E
2014-01-30 01:49:00右手が奏でる音階と、左手が奏でる音階がずれていて、ときには衝突も。そこで①と②の法則を使って「あ、今の音はうちの音階から外れているけど、これは合法的特例ってことでよろしく。あちらさんの音階に音を譲ったってか?ノンノン。それはぐーぜん!」と整合性を保つの。
2014-01-30 01:49:40印象的なあの旋律の骨格をなすのは、移動ドで言うならばシドレミ(ミファソラ)の四つの音。右手の音階で鳴らしても、左手の音階で鳴らしてもバッティングしない。ソラの音もバッティングしないのですが、シドレミの連なりは完結しない感覚があるので、繰り返す旋律モチーフに向いている。
2014-01-30 01:55:49試しに鳴らしてみてください♪シドレミ♪の連なりを下から上に、上から下に。どんぶらこどんぶらことただよう感じしませんか。これがラをくわえて♪ラシドレミ♪だと、どんぶらこ感覚が消えてラに揺れが引き戻されてしまいます。
2014-01-30 01:56:02さらにソをくわえて♪ソラシドレミ♪にすると、ソラシの連なりによって長調風に聞こえてしまって、悲しみが果てなく揺れ続ける♪シドレミ♪の感覚がもはや完全に消えてしまう。果てしない砂漠のなかを延々と旅する、美しくもくたびれた白人夫婦の心象風景が台無しです。
2014-01-30 01:56:19四小節目でようやくラの音が鳴る。この音はトニック音だから旋律がここで完結してしまう・・・と思いきやその後にソが鳴って、これもトニックに聞こえてしまう。ソとラのどっちがトニック(引力源)なのかわからず、そのため完結しているような、それでいてどんぶらこ感覚も持続。
2014-01-30 01:56:38恐ろしいのは、この緻密な計算のうえに成り立つこの曲の美を、作曲者がうまく説明できないでいること。つまり緻密な計算で成り立っているこの美を作るにあたって、作曲者は緻密な計算を行っていないのです。歩行という力学的行為を、ひとは力学的にいちいち計算して行っていないように。
2014-01-30 01:56:58教訓。数学的に構築された美は、数学的に思考することでは作れない。けれども美の裏に構築された数学を読み取っていくことでこそ、数学的美を作る能力は身についていく。
2014-01-30 01:57:09右手は二短調、左手はイ短調。そしてどちらもそれぞれの「ラ」の音がなる。左手は初っ端からラmの和声。右手も♪ファミソファラ♪(二短調での移動ド表記)と「ラ」が最後に鳴る。
2014-01-30 01:57:22