『シェルタリング・スカイ』を分析しよう―坂本龍一の作曲技法  その2

あの名曲を、坂本の隠し子と噂されるくみかおるが分析します。そこから浮かび上がってくるのは『戦メリ』との思わぬ共通点。作曲までの思考過程を再現します。。(追記 分析にミスがありました。旋律(右手)の音階はニ短調ではなくホ短調でした。ただ、この曲が二つの調でできているという分析は本当です。論の続きは後日改めて)
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It happens sometimes @ElementaryGard

『シェルタリング・スカイ』の分析を続けます。ちなみにこの曲です。http://t.co/Vt7MOdPLJr 坂本龍一の代表曲のひとつ。

2014-02-01 14:07:17
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楽譜があります。冒頭の四小節。ト短調の曲。ただここでの分析ではイ短調にして行うつもりです。いわゆる移動ドでドレミ表記をしたいから。 http://t.co/Fn0WV0ciBZ

2014-02-01 14:09:46
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前回の分析ぶんがここで読めます。http://t.co/BpKM6qEkIM 要約すると左手はイ短調で、右手は二短調で音を奏でている曲と分析しました。両者のせめぎあいの上に美が生まれているのだ、と。

2014-02-01 14:12:26
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前回は右手の、つまり旋律の分析に偏ってしまったので、今回は左手の分析行きます。和声進行の分析です。

2014-02-01 14:13:23
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イ短調に置き換えると、和声はラm→ラm/ソ→ファ△7→シm/ミ。まず最初に気がつくのは、ベースがラ→ソ→ファ→ミと、全音階で下降していくこと。これ、坂本の楽曲では『エナジー・フロー』の出だしでも使われています。

2014-02-01 14:18:40
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これ、誰か「ラピュタ進行」と呼んでた。♪あのち~へい~せ~ん、かが~やく~の~わ~♪のあそこもこのベース進行してます。映画『コクリコ坂から』の主題歌もそう。作曲の定石なのです。

2014-02-01 14:20:37
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楽譜を改めて見てみましょう。左手パートに縦の干しぶどうがいくつも連なっています。四分音符ともいいますが。坂本のピアノ曲の特徴のひとつに、縦の干しぶどうの多さがあります。で、コード表記上は同じ和音でも、四分音符がひとつ、途中でずれる。 http://t.co/ebk296JjvS

2014-02-01 14:27:15
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一小節目の二拍目の和声は、干しぶどうがややキタナイ。三拍目も同様。四小節目でキレイになる。きれいに縦に並んでいますね。これ実際に音を鳴らすとわかるように、キタナイ並びの音符は音もキタナイ。やや濁って響く。音楽用語で「不協和音」といいます。100%の協和でないから不協和音。

2014-02-01 14:31:32
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二拍目と三拍目の干しぶどうがなぜキタナイのかというと、それぞれ一番下のぶどうが、上のふたつのぶどうに近づきすぎているから。「お前近づきすぎ。下の段に降りろよ」と言ってやりたくなります。それがほんらいの和声の姿だから。

2014-02-01 14:35:30
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ここの和声はラm。下から順にラ、ド、ミと音が並ぶのが筋ってもんです。が、二拍目と三拍目ではラ、シ、ド、ミと並ぶ。あ、ちなみにラの音は一拍目で既に鳴っていて二拍目、三拍目でもその音が残るのです。

2014-02-01 14:38:57
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なぜシが混じるのか。音楽理論では「テンションの音」と呼んでいます。ラ、ド、ミの縦の連なりにさらに協和音を積み重ねるとしたらソ。そのまた上をお望みならシ。ここまでくるともはや協和音と呼べなくなるのですが、とにかくラから一段とびで音を積み重ねればシが出てくるわけです。

2014-02-01 14:41:31
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この、協和音と呼べるかどうか微妙なシの音が、一オクターブ下にまわると問題のほしぶどうになる、と理論付けされています。ラ・シ・ド・ミね。ラとドはほどほどの間隔を保っていて、そこにシが割り込んでくるイメージ。窮屈そうですね。それで音もなんだかキタナイ響きになる。

2014-02-01 14:44:13
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ただ坂本はこういうキタナイ響きをむしろ好んで使います。よく坂本と比較される久石譲の曲は、こういう響きをあまり使わなくて、キレイなほしぶどうを好む。それで聴いていて風通しがいい。わかりやすい。万人に好かれる響きになる。坂本はそういうのむしろ嫌がる。あえてキタナイ響きにする。

2014-02-01 14:46:43
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キタナイがゆえに、そこに屈折感が表現できる。ひとの表情だってとことん笑顔、とことん怒り顔、とことん悲しみ顔になることは実際にはまずなくて、たいていは複数の感情が入り混じる。そういえば竹中直人の持ちネタに「笑いながら怒るひと」というパフォーマンスがありましたね。関係ないか。

2014-02-01 14:49:13
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久石の響きはキレイだから、感情表現もパターン化される。ジブリアニメもそうですね。心理描写は表情よりもキャラクターの全身の動きで行う。部屋のなかなのにアシタカの髪の毛が風でなびく、とか。久石と宮崎アニメの相性の良さはこんなところに秘密があるのかも。

2014-02-01 14:53:01
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坂本は違う。喜びの表情であっても、そこにふっと不安の影が入る、そういう表情を音楽でする。そのためにはキタナイ響きが欠かせない。喜びという色彩に、不安という絵の具がそっと混じる、絵画でいえば印象派でしょうか。

2014-02-01 14:56:53
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一小節目の楽譜を見直してみましょう。旋律は♪ドシレドミ♪、和声は縦にラ・ド・ミ(+シ)。さらに拍ごとに分析すると、一拍目は旋律が(つまり右手が)シ・ドの縦の響きを作り、左手はラのみ鳴らす。ということは両者合わせてラ・シ・ドの響き。 http://t.co/Po3jqcYmjm

2014-02-01 15:03:18
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二拍目は右手がド・レの響きを、左手がラ・シ・ド・ミの響きを鳴らす。合わせるとラ・シ・ド・レ・ミ。先程はラ・シ・ドでした。ラ・ド・ミなら協和するところにシにくわえレが加わり、不協和の響きが強くなる。

2014-02-01 15:08:20
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三拍目は右手がミ、左手がラ・シ・ド・ミだから全体の響きはラ・シ・ド・ミ。やはり不協和音。

2014-02-01 15:09:54
It happens sometimes @ElementaryGard

4拍目で右手はやはりミ、左手はラ・ド・ミ。シが消えていますね。全体の響きもラ・ド・ミとなって、協和してる。

2014-02-01 15:11:25
It happens sometimes @ElementaryGard

1~3拍目で不協和の音が混じり、4拍目で不協和がなくなる。ある種の「解決」感が生まれるわけです。

2014-02-01 15:13:11
It happens sometimes @ElementaryGard

が実はここまで微分的に分析しなくてもいいのです。試しに右手はシ・ド・レ・ミの音を一度にならし続け、左手はラ→ソ→ファ→ミと順に弾いてみてください。これでもう『シェルスカ』の冒頭四小節のふいんきが出せてしまうから。

2014-02-01 15:23:37
It happens sometimes @ElementaryGard

旋律の基本骨格はシ・ド・レ・ミでできています。長調とも短調ともつかず、どれがトニックの音かもわからない、不安で揺れ動く旋律を作るのに適した音の組み合わせ。弾いてみてくださいな。体感できます。

2014-02-01 15:25:50
It happens sometimes @ElementaryGard

しかもこの旋律の骨格音、二短調と考えても成り立ってしまう。シ・ド・レ・ミではなくミ・ファ・ソ・ラ。一方で左手ははっきりとイ短調でラ→ソ→ファ→ミ。無理に二短調で考えるとレ→ド→♭シ→ラつまり♭の音が混じってしまう。イ短調と考えるしかないわけです。

2014-02-01 15:30:34
It happens sometimes @ElementaryGard

この曲を作るにあたって、坂本の頭(というか耳)にあった発想の種(モチーフ)は、右手はシ・ド・レ・ミの縦の連なり、左手はラ→ソ→ファ→ミの移動。実際にピアノかキーボード楽器で鳴らしてみてください。これが『シェルスカ』の作曲構想の種になった、と私は考えます。

2014-02-01 15:34:31