孫泰蔵さん、「完本 桑田真澄」を読んで考えたまとめ

taizoson.eth @TaizoSon

巨人、パイレーツで活躍した桑田真澄投手は、「人生には理不尽な時期も必要だ」という。

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桑田真澄氏「日本には兵役もないし、普通にいけば厳しく鍛えてもらえる時期も場所もないじゃないですか。でも男として、そういう経験は必要だと思うんです。やっぱり強くなりますよね。」

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彼がそう言う理由は、小学校での厳しい「理不尽」な野球の練習が、理不尽極まりないのだけれど、自分が強くなれたひとつの契機となったことはまちがいないからだという。当時彼はキャプテンで、チームの誰かがエラーをしたらキャプテンが代表してケツバットをされるという練習があったそうだ。

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桑田真澄氏「僕は一回もミスしないのにみんなの分、しばかれて、あれほどの理不尽はないですよね。ケツが痛くて、帰りの自転車でサドルに座れないんですよ。自転車でいつも片側のケツを上げてると、『僕、なんでケツあげてんの』『ケツバンされて・・・座られへんのよ、おっちゃん』なんてね」

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この例に限らず、PL学園での寮生活や、ドラフトのときのメディアの毀誉褒貶、巨人のエースとして最高の状態で襲われた突然のケガなど、彼の野球人生は様々な理不尽に直面する人生だった。

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桑田真澄氏「（PLの寮生活は）本当に大変でした。何億もらっても、二度とやりたくない。とにかく、すべてのことに理由を必要としないんです（笑）説明はない、抵抗できない、いつ、どこで何をされるかわからない。それでも僕は、できることをやるしかないと思いました。」

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考えてみれば人生には理不尽なことばかり起こる。災害や病気、離別など、特に悲しいことや辛いことは突然にやってくる。しかし、桑田真澄氏はポジティブだ。「厳しい環境に置かれるほど、人間はどうやって生きのびるか、工夫するんです。人間って本当は強い生き物なんですよ。」

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理不尽さについてディテール豊かに語る一節を読んでいて、僕はアルベール・カミュの随筆「シーシュポスの神話」を思い出した。理由なく神々の怒りを買ったシーシュポスは、罰として大きな岩を山頂に押して運ぶ役を課せられるが、山頂に運び終えた瞬間岩が転げ落ち、それを永遠に続けるという物語だ。

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「あらゆる努力が水泡に帰すこの単純作業の労役は、人間にとってまったく何の価値も意味も見いだせない。人間にとってこれほど残酷な責苦はあるだろうか！」とシーシュポスは絶望する。しかし、この労役を重ねに重ね、苦しみに苦しんだある日、シーシュポスは気づく。

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人間の人生には人それぞれ所与の条件や制約がつきものであり、人生とは理不尽そのものではないか。まさしくこの大岩を山頂に押し運ぶ労役のように。私は、自らの意思でこの岩に立ち向かっていくとき、この労働はもはや労「役」でなくなる。その瞬間、私は自分の運命にたち勝ったのだ！と。

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そう悟ったシーシュポスは、山頂から転がりゆく岩を眺め、笑みを湛えながら、ゆっくり山の麓へ降りていった、というものなのだが、この作品は若き日の僕に多大なる影響を与えた。そして今もなお、シーシュポスの神話は僕にとって色褪せていないものだということを改めて思い出した。

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桑田真澄氏「結局、人間はひとりで生まれてひとりで死んでいくわけですから、自分自身を信じてどれだけ挑戦できるかと言うことが一番、大事だと思うんです。自分を一番、応援してくれるのは父親でもなく、母親でもなく、家族でもなく、友達でも彼女でもない。一番の応援者は、自分自身なんです。」

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「人生は右肩上がりにどんどん上がっていかないといけないんです。僕は大器晩成型なんですから。これから伸びていくんですよ」と言う桑田真澄氏が、僕にはシーシュポスに見えた。信じる力。スポーツ・グラフィック ナンバー編「完本 桑田真澄」（文春文庫）を読んで、今朝はそんなことを考えた。