トゥー・レイト・フォー・インガオホー #3
『いきなり何だよ。そう話があちこち飛んでも』「前の俺のクライアントが殺された時……現場に何か残ってたかもしれねえ。あのマークがよ……あの……マッポをハッキングすればきっと……」『なあ、話が見えな、アイエッ』ブツン。通信が再度途絶えた。スカラムーシュは慌てて装束に着替えた。 21
2014-02-13 16:29:01ニンジャソードを帯び、アサルトガントレットを身につけ、彼は病室を飛び出した。「ハン?まだ退院しちゃダメ!」ミラコが遮ろうとした。「急用だ!」「カネ!」「ああ畜生……」装束から円素子を取り出し、押し付ける。ミラコは目を白黒させ、「これ足りてるの?」「後、ZBRをくれ!早く!」 22
2014-02-13 16:44:43スカラムーシュは通りかかったタクシーの前に立ちはだかった。「アイエエエ!?ニンジャナンデ!?」「イヤーッ!」KRAAASH!助手席ドアを引き剥がす!「ニンジャ!ナンデ!?」「ダマラッシェー!」ガントレット爪で脅す!「クルマ出せ!」「アイエエエ!」23
2014-02-13 16:52:14彼は自宅マンションへ急いだ。ロヤマは……あの様子では、ダメならもう、ダメだろう。ロヤマがやられたなら当然、スカラムーシュの家にも……「クソッ!」ダッシュボードに拳を叩きつけた。「アイエエエ!」「黙って急げ!」「アイエエエ!」助手席ドアがないので風が吹き込む!「寒いぞ!畜生!」24
2014-02-13 17:12:29……30分後!「アイエエエ!」蛇行しながら逃げ去るタクシーを見届けたのち、スカラムーシュは用心深く警戒しながら、マンションの非常階段を上がって行った。ネオサイタマの曇天は常に重苦しい。この街は常に呪われている。スカラムーシュはニンジャソードに手をかけ、住居の鉄扉の前に立つ。 25
2014-02-13 17:16:36鉄扉には……施錠されていない。スカラムーシュのニューロンをニンジャアドレナリンの濁流が巡る。玄関には血が跳ねていた。スカラムーシュは呼吸を平静に保とうとする。ノバラは居ない。パチンコだ。絶対にそうだ。彼は祈るように足を進める。寝室を横切る。いない。リビングへ。「おかえり」26
2014-02-13 17:20:45声は男のものだった。テレビがついていた。「スゴイ!スゴイショッピング!今日はなんと三つも手に入る!なぜ登録」コマーシャルプログラム。声の主はソファーでテレビの光を受けている。ニンジャがソファーでくつろいでいる。足元で女が死んでいる。ノバラ。ああ。一目でわかる。 27
2014-02-13 17:23:17「早かったな。スカラムーシュ=サン」ソファーにかけたまま、ニンジャは言った。スカラムーシュはカラテ警戒も忘れ、死んだ女の名を呼んだ。「ノバラ」「情けないクズニンジャ……冷静になれ。くくく」ニンジャはソファーから立ち上がった。そしてオジギをする。「ドーモ。サーガタナスです」28
2014-02-13 17:30:13「ドーモ。スカラ……スカラムーシュです」スカラムーシュは震えながらオジギを返した。「俺は……俺はハメられたのか」「ハメられた?」サーガタナスは小首を傾げるようにした。「ハメられた、か。そうだな。くくく」嘲る犬めいた意匠のメンポと低く押し殺した笑いが嫌らしく整合していた。 29
2014-02-13 22:22:02「お前はルール違反を犯した。チャンピオンがドヒョーを降りてマス席の人間を調べたら……もしお前が客ならどうだ。全く興ざめだろうが」「何故殺した。ノバラを」「このモータルの名前か?」サーガタナスはノバラの死体を見下ろした。「何故とは?」「おれの女房だ……」 30
2014-02-13 22:28:15「それが何か?」サーガタナスは肩を揺すって笑った。「話が噛み合わんな、スカラムーシュ=サン。お前の女房を殺すことをためらう理由が俺にあるのかね?何を言っているのやら」「ウ……」スカラムーシュの身体が動いた。「ウオオーッ!」ニンジャソー「イヤーッ!」「グワーッ!?」 31
2014-02-13 22:34:10スカラムーシュはゆっくりと床に傾きながら、サーガタナスが……腕先から何かを射出した動きを戻し、再び物憂げに腕組みするさまを……見ていた。自分の頭が床を打つ音が骨に伝った。「スゴイ!今度の商品は……全ての車用洗剤が完全に過去のものに!夢物質!」コマーシャルプログラム……。 32
2014-02-13 22:36:29「アバッ、アバッ、アバッ」「ああそうだ、アサルトガントレットを返してもらおう、スカラムーシュ=サン」サーガタナスは思い出したように言うと、痙攣するスカラムーシュの横にしゃがみ込んだ。「この手のプロトタイプが放置されるのはあまり気持ちのよいものではない」「アバッ、アバッ」 33
2014-02-13 22:42:45(((俺は何をされた)))意識がチリチリ灼け、視界の端にはうつろな目を開いたまま事切れたノバラの顔が見えた。(((アマクダリ。畜生……どこで間違った、俺は)))装束を、包帯を、胸筋を裂き、肋骨を割りながら、螺線形のワイヤーが抉り進む。スカラムーシュはかろうじてこれを掴んだ。34
2014-02-13 22:48:31サーガタナスは淡々とスカラムーシュの腕からアサルトガントレットを剥ぎとった。スカラムーシュは血を吐きながらその手に力を込め、ワイヤーを外へ引きずり出そうとする。「アバッ。アバッ」ワイヤーの逆刺が肉を噛み、決して抜けようとしない。ワイヤーは鞭のように暴れ、身体をさらに苛む。 35
2014-02-13 22:51:22「その武器はワームだ。スカラムーシュ=サン」サーガタナスが言った。「シンプルな名前だろう。そうやってスリケンがわりに使う他、地面や壁に撃ち込んで設置型の武器にする事もできる。奥が深い。ゼンだな。たゆまぬテックの努力がモノにした、非常に洗練されたニンジャの武器と言えよう」36
2014-02-13 22:58:27「オマエ、黒幕カ、アバッ」スカラムーシュはワイヤーと格闘しながら血を吐き、言葉を絞り出した。「何ガ、ドウナッテ、ヤガル、アマクダリ、」「黒幕?俺はエージェントだ。物事を円滑に進める役目だよ」彼はスカラムーシュを見下ろし、「そろそろ……」ベランダ窓を見た。不意に影がさしたのだ。37
2014-02-13 23:06:17スカラムーシュの意識が途絶した。ほんの数瞬だ。彼はどんどん力の失せる右手でワイヤーを抜こうとしながら、左手ではZBRのアンプルを懐に探っていた。視界が白くなり、戻ると、サーガタナスはもはや彼を見下ろしておらず、ベランダ窓に向かってカラテ姿勢を取っていた。また視界が白くなった。38
2014-02-13 23:08:49視界復帰。サーガタナスは警戒を解いていた。「ははは、バイオムクドリだ」彼は冷蔵庫を開き、パック・スシを見つけ出した。それをテーブルに置くと、もう一度スカラムーシュを見た。「ZBRを打ちたいのか?手伝ってやろうか」「アバッ、アバッ」白。復帰。白。復帰。「アバッ……ノバラ」 39
2014-02-13 23:13:56白。復帰。嘲る犬。白。復帰。再び窓へカラテを構えるサーガタナス。何か叫んだ。スカラムーシュにはもう聞き取れない。五感が失われる。白。白。復帰。ZBR。刺す。動脈。ドクン!彼は己の心臓の音を聴く。時間が圧縮されスローになる。窓ガラスが外から押され、飴細工めいて歪み、ひび割れる。40
2014-02-13 23:16:11スカラムーシュはその光景を横から眺めている。サーガタナスが後ろへ跳び下がる。ガラス片が宙を舞う。何かが飛び込んできた。人型の影が。赤黒い。ガラス片が宙を舞う。白。復帰。白。復帰。復帰。血流。ニンジャアドレナリン。スカラムーシュは目を見開く……「イヤーッ!」「グワーッ!?」 41
2014-02-13 23:19:16赤黒のニンジャは、遠心力の乗った強烈な蹴りをサーガタナスのカラテ防御に叩き込んだ。サーガタナスはガードごと跳ね飛ばされ、キッチンカウンターに叩きつけられた。その後バイオムクドリが二羽、続けて室内へ飛び込み、狂ったように飛び回った。白い羽が室内に散乱。赤黒のニンジャが着地する。42
2014-02-13 23:21:50ジゴクめいたニンジャは掴んでいたロープから手を離した。窓の外、上階から垂らされたと思しきロープは、振り子じみて戻っていった。「イヤーッ!」スカラムーシュは右腕にありったけの力を込め、ワームを引き抜いた。血と肉が爆ぜた。「アバーッ!」彼は床をのたうった。「アバーッ!」 43
2014-02-13 23:26:53