【生きている者】 福間健二 2factory56

「空気。水。食べ物。」からはじめて、人が生きるのに必要なものをならべていこうと思った。一回目を書いたところで題が「生きている者」になった。その朝は、二十年以上前にその題の詩を書いたことを忘れていた。夕方までに思い出してそれを読み、「話しかける相手」などの言葉を拾った。詩集『旧世界』(一九九二)所収のその作品の、後日談ならぬ前日談になってくれたらいいと思った。 人が生きるのに必要なもの。そのなかに抜かせないだろうけど、曖昧な紋切り型に流れそうにもなる「愛」をどうするか。終わりの方は、「愛」という言葉以外は白紙状態の頭にして、目をつむり、浮かんでくるものを書くという実験をやった。 音楽は、ずばり「愛」ということで、ビートルズが続きますが、「All You Need Is Love」。 http://www.youtube.com/watch?v=s-pFAFsTFTI
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福間健二 @acasaazul

空気。水。食べ物。そして何が必要だろう。謎めいて「よくない」皮膚に伝わる振動を解決するための、砂漠ではない。あるいは獲物への、自分の優位を直感したところで一気に狂暴になる旧体制の父親、それを閉じ込めるための、大きな袋でもない。生きている者。(生きている者1)#2factory56

2014-02-08 11:33:31
福間健二 @acasaazul

話しかける相手。ひとりずついなくなって、最後の、光の滴をつけた「不在」を目が追ったあと、テレビのない部屋でブランデーを飲む。シエント・トレス。小さな粒になった希望、でも一〇〇といくつか。酔いは厄介じゃない。急所の、さえずる小鳥にくらべたら。(生きている者2)#2factory56

2014-02-09 09:29:26
福間健二 @acasaazul

黒い液体。壁の、脱出できない「卒業式の、海賊たち」の傾く頭部から白いカップに注がれる。ひとくち飲んだだけで見つめていると心臓の鼓動がきこえてきた。封じ込めた手への、せつない訴えが描く点線のカーブ。きのう着ていたシャツ、どこに行ったんだろう。(生きている者3)#2factory56

2014-02-10 08:42:09
福間健二 @acasaazul

頭の見えない胴体と四肢への、カッターナイフ。側面、波状の、夜の寒さと悲しみ。アップ、イン、ダウン。襲いかかる者と獲物である影たちに。彼と彼女のかわりに。食べられない、悪いバナナが考える。汚れた手のなかに確保した小鳥以外の何を使うべきなのか。(生きている者4)#2factory56

2014-02-11 10:23:51
福間健二 @acasaazul

糸。からんで、とぎれても、たとえば石蹴りをする少女につながる。港町。未完結の、白線による図形の、流動性。きのうのシャツなんかどうでもいい。着ていなかったことにする。きのうの知覚、どう愛撫しても「死んでいる革命」とは別れて、この青空だ。 (生きている者5)#2factory56

2014-02-12 10:28:55
福間健二 @acasaazul

家賃や食費について、いくつか質問しただけ。動かなくなった訪問者。背中の下の方のプラグが汚れて濡れている。どうしよう。「灰色のなかに灰色で」描いたような坂道の、二重にずれる影に戻るには。会えない人のことを思う。会えなくても糸でつながっている。(生きている者6)#2factory56

2014-02-13 10:49:47
福間健二 @acasaazul

使えるものは使って、退屈な夢の入り込む内的生活をゼロにする冬の旅だ。読むもの、食べるもの、着地させるもの。旧世界の、逃走ルートの、痕跡を消そうとする何が悲しい目をした犬になるのか。壁の前。小鳥ちゃんを「粉砕」する。その壁に穴をあけるように。(生きている者7)#2factory56

2014-02-14 11:20:24
福間健二 @acasaazul

無人の学校。歪むキャビネット、性別にこだわる表現主義。「カラス引っ込んで、小鳥ちゃん前に出て、ぐるっと全員、時計と反対まわりに」。幸福な結末のむこう側からの、幽霊ダンスの指令。このあとにひどいことがおこる。まだ一番ひどいことではないけれど。(生きている者8)#2factory56

2014-02-15 08:52:02
福間健二 @acasaazul

頬とシャツの胸に星の印をもらって「囲まれている冬」に迷い込んだ人形たちのために。光のなかにいることは忘れて。空気を切る力を一歩ずつ試して。乱雑さと周到さ、どちらにも味方できない人形の動きから抜け出して、人が生きている街の音を好きになる。(生きている者9)#2factory56

2014-02-16 11:29:05
福間健二 @acasaazul

風たちが見えるという症状。腫れた親指を隠す雲、どうだめになるのか。針金と木でしかない二羽の孤独を濡らす雨になった。箱のなかで成長した傷の、棒の、水へのコーディネイション。穴から出てくるものと「あまり遠くへは行けないアリス」。愛を定義した。(生きている者10)#2factory56

2014-02-17 08:20:53