稲川淳二 つぶやき怪談#3

稲川淳二さんによるTwitter上でのつぶやき怪談
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稲川淳二 @Junji_Inagawa

(ちょっとまてよ---)今、自分の前を傘をさして歩いて行く女。その傘で、隠れて見えていない肩から上の状況が、フーッと浮かんできた。 #kaidan3

2010-01-25 22:33:23
稲川淳二 @Junji_Inagawa

首を深々と刺され、今にもちぎれて落ちそうになっている頭。ザックリと開いた傷口から吹き出す、おびただしい鮮血が、傘の内側を真っ赤に染めて、ポタポタとしたたり落ちている-----。 #kaidan3

2010-01-25 22:33:42
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(おい、よせよぅ。じゃぁ今、自分の前を歩いてるこの女は、あの例の女なのか?ということは、こいつは殺された女の幽霊なのか?!生きてる女じゃないのか?どうしよう-----) #kaidan3

2010-01-25 22:34:03
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ここまで来て今更戻れないし、他に行くあても無い。やがてマンションの前に来ると、女がピタッと足を止めたんで、瀬戸さんも立ち止った。   女がゆっくりと振り向いてきた。 #kaidan3

2010-01-25 22:34:53
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(こうなったら、女の横を走ってすり抜けて、マンションに飛び込もうか、それとも、女を先に行かせてから)などと思ったんですが、だんだんと、女が体の向きをこっちに向けてくるんで、どうする事もできずに自分は固まったまま、ただ黙ーって、そこに立っているしかない。 #kaidan3

2010-01-25 22:35:49
稲川淳二 @Junji_Inagawa

常夜灯の明かりに照らされた笠の下から、長い黒髪がのぞいて、やがて服の胸から肩にかけて、真っ赤な血に染まってるのが見えた。呆然と立ちすくんでいると、女が静かに傘を持ち上げた。     その途端!! #kaidan3

2010-01-25 22:36:26
稲川淳二 @Junji_Inagawa

咽の奥で声にならない悲鳴を上げて、瀬戸さんが、女の脇を走り抜けた。  その時、後ろから女の声がしたような気がした。 #kaidan3

2010-01-25 22:38:46
稲川淳二 @Junji_Inagawa

タントンタントンタントンタントン    ハァ-ハァ-ハァ- #kaidan3

2010-01-25 22:39:05
稲川淳二 @Junji_Inagawa

一階からそのまま一気に階段を駆け上がっていった。  トントントントントン  靴音がコンクリートの壁に反響している。二階に上がると、通路を走って自宅のドアの前まで来た。 #kaidan3

2010-01-25 22:39:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

ポケットの鍵を探すのがまどろっこしい。慌てているんで、鍵穴に鍵がなかなか差し込めない。で、どうにか入って、鍵が開くと、ノブを掴んで、グゥンと回して急いで引いて、玄関に飛び込むと扉をドーンと閉めた。 #kaidan3

2010-01-25 22:39:39
稲川淳二 @Junji_Inagawa

明かりをつけて、鍵を掛けて、ふーっと深い息をついた。まだ呼吸が荒い。心臓がドックン、ドックン鳴っている。 #kaidan3

2010-01-25 22:39:58
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(あーあぁ、あーまいった。嫌なもん見ちゃったなぁ---。いや、もう寝ちゃおう!寝ちゃえばなんにも恐くなんかない。明日になれば、すべて終わってんだから。もう寝よう) #kaidan3

2010-01-25 22:40:14
稲川淳二 @Junji_Inagawa

部屋に入って蒲団をひくと、上着を脱いで、そのまま蒲団にドスーンとしりもちをついた。しばらくの間があって、気が付けば、酔いもすっかりさめてしまって頭がスッキリとしてきた。多少、落着きを取り戻すと、今度は、別の事が頭に浮かんできた。 #kaidan3

2010-01-25 22:40:45
稲川淳二 @Junji_Inagawa

それは、夜寝ていて時々部屋の中を這いずり回ってるような人の気配を感じることがあるのと、女のうめき声のようなものを聞いたことがある事。自分では、何かの音が、そう聞こえるんだろう、と思っていたんですが、それと玄関のドアの前までずーっと続いていたあの雫の跡が思い出され #kaidan3

2010-01-25 22:41:28
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(もしや、例の姉妹が住んでいた部屋っていうのは、この部屋じゃないだろうか!?)と思った。でも、すぐに打ち消した。(いや、そんなことはない。そりゃあ違うさ!)と自分に思い込ませようとしたんですが、でも、そう思えば辻褄が合うんで、急に怖くなってきた。 #kaidan3

2010-01-25 22:41:56
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(おい、勘弁してくれよ)と思いながら、思わず玄関に視線がいった。 #kaidan3

2010-01-25 22:42:27
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(あれ?なんかおかしい・・・あれっ?!ない!ドアに貼ったあのお札がなくなってる。えっ?どうしたんだろう?) #kaidan3

2010-01-25 22:42:49
稲川淳二 @Junji_Inagawa

もしかすると、奥さんが玄関を掃除していて、何かのはずみで、お札が落ちたのを、気づかないで、掃いて捨てちゃたのかもしれない。それはありうるわけだ。(どうしよう、、、、お札がない。女の幽霊は近くまではきてるだろうし----) #kaidan3

2010-01-25 22:43:07
稲川淳二 @Junji_Inagawa

今にも、通路からハイヒールの靴音が近づいてきて、玄関のドアが突然、開くんじゃないだろうか?今、外へ飛び出していったら、通路を這いずってくる、血塗れの幽霊と出くわしてしまう。(どうしよう、逃げ場がない・・・)で、咄嗟に掛け蒲団を頭からかぶると、そのまま横になった。 #kaidan3

2010-01-25 22:43:38
稲川淳二 @Junji_Inagawa

うつ伏せの恰好で掛け蒲団をかぶって、で、枕に顔を隠すようにうずめて、掛け蒲団と枕の間の隙間から、目だけ出してジーッと玄関を覗いた。 #kaidan3

2010-01-25 22:44:35
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(もしかすると、女の幽霊は、もう玄関のドアの向こう側に立っているかもしれない。今にも玄関が開くかもしれない---)こめかみを冷汗がつたっていく。体中が総毛立って硬直している。耳をそばだてて気配をうかがう #kaidan3

2010-01-25 22:44:58
稲川淳二 @Junji_Inagawa

辺りはただシーンとして静寂につつまれている。ハイヒールの音も聞こえてこない。聞こえてこない。全く何も聞こえてこない。次の瞬間にでも、ドアが開くんじゃないだろうかと、恐怖をこらえてジーッと見詰めているんですが開く様子がない。 #kaidan3

2010-01-25 22:45:21
稲川淳二 @Junji_Inagawa

(----開かない。ドアが開かない----) #kaidan3

2010-01-25 22:45:40
稲川淳二 @Junji_Inagawa

噴き出した汗で、全身がジットリと濡れてる。枕をつかむ指先が、かすかに震えている。 #kaidan3

2010-01-25 22:47:30