当世のファシズム解釈について交差する笠井潔氏の考察とWKT氏の考察【補足版】

同じ時を生きる一人として、耳の側で息遣いまで感じるほどの内容です。 特に、安倍自公政権が事実上の集団的自衛権の行使容認を閣議決定し、解釈改憲を断行した今にあって。
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笠井潔 @kiyoshikasai

集団的自衛権から武器輸出三原則にいたるまで、戦後平和主義の「見直し」を猛烈な勢いで進めつつある安部政権は、あれこれと反動攻勢をしかけて戦後左翼と小競り合いを演じてきた従来の自民党タカ派政権とは、もはや異次元の存在である。「来た」とすれば、それは狼以外・狼以上のなにかだ。

2014-02-17 17:36:08
笠井潔 @kiyoshikasai

自民党改憲案に歴然としている立憲主義の否定や反人権の理念は、反近代的な保守主義に由来するが、天皇主義や神国思想の要素は見られない。それほど激烈でも革命的でもない。通俗的な大衆的保守主義の産物にすぎず、せいぜいのところ、「美しい国」という類の微温的な水準でしかない。

2014-02-17 17:42:58
笠井潔 @kiyoshikasai

自民党改憲案の反近代主義は国粋主義的というより、アジア的なものを根拠とすることになるだろう。人権問題をめぐる批判に中国が、中国には中国の民主主義がある、欧米的なそれの強要は不当な干渉だと反論するように。ただしウルトラ化された精神主義や根性主義は、いまだに命脈を保っているようだ。

2014-02-17 17:51:50
笠井潔 @kiyoshikasai

たとえば特攻隊の讃美にも見られるように。

2014-02-17 17:52:36
笠井潔 @kiyoshikasai

20世紀後半の世界戦争は、米ソ冷戦という形態で継続された。ソ連崩壊とイスラム革命勢力の9・11アタックのあと、21世紀的な世界内戦の時代が到来する。戦後日本という半国家は、アメリカに従属することで20世紀後半を無難に生き延び、「平和と繁栄」を謳歌さえしてきた。

2014-02-17 18:00:48
笠井潔 @kiyoshikasai

世界内戦の21世紀に、半国家日本がそのまま存続しうる条件は失われた。東アジアの政治情勢としては、アメリカの後退と中国の膨張が決定的だ。国家再編(戦後レジームからの転換)の必然性は、安倍の妄想の産物ではない。仮に安倍が失敗しても、第二、第三の安倍が登場するだろう根拠がここにある。

2014-02-17 18:06:26
笠井潔 @kiyoshikasai

新自由主義政権の暴力的な社会再編に対し、第二次大戦後の豊かな社会の復活を夢想しても無力だ。それは特権的労働者階級による自己保身と、非正規不安定労働者など弱者の切り捨てに帰結する。20世紀的な福祉国家でも、21世紀的な新自由主義国家でもない道を探求するしかない。

2014-02-17 18:13:10
笠井潔 @kiyoshikasai

同様に、戦前の帝国主義的ナショナリズムを引き継いだ世界内戦国家に、護憲平和主義で対抗することはできない。スペイン人民戦線で共産党は、反ファシズムを口実にリベラル派と妥協し、農村アナキストが自然発生的に開始した土地革命を弾圧した。この辺の事情は映画「大地と自由」でも描かれている。

2014-02-17 18:21:55
笠井潔 @kiyoshikasai

失われた20年を通じて進行した、戦後社会の経済的空洞化と内的崩壊は、「このままでは生きていけない」社会層を分厚く堆積させた。戦後社会の経済的既得権益層は、「このまま」が続くことを熱望しているとしても。また国家の側もまた、「このままでは秩序と支配が維持できない」と考えはじめた。

2014-02-17 18:44:59
笠井潔 @kiyoshikasai

「このままでは生きていけない」層から、戦後社会を構成した既成勢力とは異質な政治勢力が登場しつつある。その一部が、支配層による国家再編に希望を託す新排外主義だ。新排外主義と街頭で闘う人々もまた、一人一人が非正規労働者であるかどうかはともかく、同じ層に属しているはずだ。

2014-02-17 18:51:10
笠井潔 @kiyoshikasai

ファシズム革命を弾圧して、既成国家がなし崩し的にファシズム化するという戦前日本の事態は、またしても繰り返されようとしている。田母上支持層は自前のファシズム革命など望んでいない、自民党政権による国家再編の後押し部隊、補完物として機能するだろう。では、反排外主義の新興勢力はどうか。

2014-02-17 18:58:29
笠井潔 @kiyoshikasai

リツイートしたWKT氏の発言は妥当である。ここまで書いてきたことも、しょせんは「ミネルヴァの梟」にすぎない。ヘーゲルによれば哲学は灰色で、現実こそが生い茂る緑の樹木なのだ。この先は、街頭の理論に耳を傾けることにしよう。

2014-02-17 19:08:53
笠井潔 @kiyoshikasai

出かけるまでに、なんとか終わらせることができた。これでファシズムをめぐる連続ツイートは打ち止めにしたい。

2014-02-17 19:09:51
笠井潔 @kiyoshikasai

田母上→田母神でした。

2014-02-18 07:42:14
笠井潔 @kiyoshikasai

外出中に考えた「ファシズム」連ツイの補足を、以下何点か。

2014-02-20 15:36:06
笠井潔 @kiyoshikasai

もう一度整理する。ファシズムの第一の意味は、世界資本主義の危機に直面し、生存圏の確保と世界再分割のため侵略戦争を企てる後発帝国主義の国内支配体制で、これにはドイツを典型に枢軸三国が多かれ少なかれ当てはまる。この意味でのファシズム概念が、すでに失効していることは明らかだろう。

2014-02-20 15:41:49
笠井潔 @kiyoshikasai

ホブスン/レーニン的な帝国主義概念は、第二次大戦が終わり冷戦が開始された時点で原理的に失効したからだ。西側諸国を従属的な同盟国として支配した「半世界国家」アメリカを、古典的な意味で帝国主義と規定することはできない。もうひとつの「半世界国家」ソ連にしても同様である。

2014-02-20 15:46:33
笠井潔 @kiyoshikasai

ファシズムの第二の意味は、第一次大戦や1929年恐慌として到来した、19世紀的資本主義(自由資本主義)の危機を超えるために試みられた国民社会主義運動と、その国家体制である。侵略戦争を戦う後発帝国主義の国内体制というだけなら、立憲国家の体制を暴力的に破壊する必要はない。

2014-02-20 15:53:13
笠井潔 @kiyoshikasai

実際、第一次大戦期のドイツでは戦前からの欽定憲法体制が維持されていた。自由や民主主義などの近代的理念と、その政治的フレームを徹底的に破壊したのは、ファシズムが「超近代」をめざす運動だったからだ。経済的には近代=資本主義だから、ファシズムは超近代=社会主義を標榜することになる。

2014-02-20 15:57:00
笠井潔 @kiyoshikasai

体制に批判的な勢力や個人を、近代的な法治や人権など完全に無視して徹底弾圧し、根絶し、かつて目撃されたことのない異様な警察国家を築いたのは、ファシズムが「前近代」だったからではない。「超近代」めざしていたからだ。「超近代」にとって、近代的な自由や人権は超克の対象である。

2014-02-20 16:08:22
笠井潔 @kiyoshikasai

近代の産物である立憲体制も、ファシズムは超克しようとする。ナチス国家がワイマール国家の欄外の空白に存在したこと、憲法が停止される例外状態の永続化を目指したことは、その必然的な結果だった。日本でも事態は同様で、昭和新体制=戦時天皇制は明治憲法体制の「例外」である。

2014-02-20 16:14:37
笠井潔 @kiyoshikasai

この点で安倍政治の解釈改憲路線はファシズム的である。改憲の難度を引き下げることで、改憲を強行しようとする発想も同様だ。しかも自民改憲案は、とうてい近代的な憲法とはいえないシロモノだ。それを採択することは、立憲体制の外的な「否定」ではない。立憲体制のファシズム的な例外状態化なのだ。

2014-02-20 16:23:30
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