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【ぼく】はこの都市――【模放都市(パロディシティ)T.L】の住人だ。模放都市は全てを受け入れる。何処か別の街から流れ着いてきた余所者も、この都市には多く住んでいる。ぼく自身、此処ではない何処かからやってきた存在だ。しかし余所者だった期間は短く、今はこの都市に順応している。
2014-02-26 12:20:16この都市の理力(ルール)は一つ。【模放(パロディ)】だ。今、ぼくの前には一つのコーヒーカップがある。その中身は注がれて随分と時間の経ってしまった冷めたコーヒーだ。ぼくはそれを見て――『自分ならば、コーヒーは淹れたてのものにする』と解釈した。
2014-02-26 12:22:34――今、ぼくの目の前にあるのはうっすらと立ち昇る湯気と鼻孔をくすぐる芳しい香りの両方を備えた熱々のコーヒーだ。ぼくはそれにそっと口をつけた。ぼくの思う、理想のコーヒーの味と香りが口内に広がっていく。
2014-02-26 12:22:58ぼくが特別な能力を持った存在であるという話ではない。この都市では、誰もが――何もかもが、【模放】し、【模放】されている。ぼくが【放】ったコーヒー像を、世界が【模】したわけだ。
2014-02-26 12:23:29ぼくの中の世界がぼく以外の世界を塗り替えて、ぼくもまた他の世界に塗り替えられる。そんな、何処にだってあるありふれた関係がこの都市では少しばかり強い力を持っているという、ただそれだけの話。繋がることで、人と都市は営みを変えていく。時にゆっくり、時に早足で。
2014-02-26 12:23:53「お待たせ」出されたコーヒーが冷めるまで喫茶店の一角で待たされていたぼくの前に現れたのは、一人の男性だった。お待たせなんてレベルじゃないですよと憤慨するぼくをなだめながら、彼もコーヒーを注文する。彼の名前は【スヴェルグ】。ぼくの、依頼人ということになる。
2014-02-26 12:24:43ぼくの仕事は、どんどん形を変えていくこの都市を記録することだ。人と、街並みと、そして時折起きる事件を、ぼくはこの目で見て記録する。スヴェルグさんはその記録を、想い出として残したいらしい。変な話だ。想い出にしたいなら、ぼくに頼むなんて回りくどいやり方をしないで自分でやればいい。
2014-02-26 12:26:25「僕が一人で想い出を抱えていてもしょうがないんだよ。僕以外にも、この都市のことを覚えている人が欲しかったんだ」 ぼくが一度聞いてみたら、彼はそう言って微笑んだ。もっと多くの人たちで想い出を共有できるように、カードゲームにしてみるなんてことも考えているらしい。
2014-02-26 12:26:56まぁ、おかげさまでぼくも食い扶持が稼げているわけだから、依頼主様に文句をつけるなんてことはしない。 「それで今日はね、君に調べてほしいことがあるんだ」 かちゃり、とスヴェルグさんはコーヒーカップを置いて、ぼくのほうを見つめてきた。
2014-02-26 12:27:22「【ボマー】を知ってるかい?」「ああ、最近よく話題になってる、原因不明の……でもおそらく人為的な、無差別傷害事件でしたっけ」「そうだね。でも、怪我をした人は誰もいない。肉体的にはね」
2014-02-26 12:28:55そう、肉体的には。精神的には大怪我してる人ばかりだ。なぜだかふとした拍子に過去の古傷を抉り出される人が続出している――というのが、いわゆる【ボマー事件】のあらましだ。なんで人為的なものだと分かったのか。ボマーなどという物騒な名前がついているのか。
2014-02-26 12:29:37それは、被害者には共通して【爆弾】のイメージが植え付けられていたからだ。破裂する寸前に、被害者はようやく自分の中に爆弾が埋め込まれていることに気付く。そしてその時にはもう遅い。過去のトラウマごと、ドカン。
2014-02-26 12:30:15「そんな時限爆弾を模放して、知らない間に埋め込んでいるやつがいる――いつの間にかそいつは爆弾魔/ボマーと呼ばれるようになった」「さすがだね。僕が言わずとも、だいたいのことは知っている」スヴェルグさんは、にやりと笑った。
2014-02-26 12:30:41ぼくが訝しげになるのも仕方がない。ボマーが恐れられているのは、爆弾が破裂するそのときまで自分がターゲットになったことすら気付かない巧妙さ故にだ。隠蔽が、巧すぎるのだ。事前の検査で見つかった試しもない。
2014-02-26 12:31:56破裂するまで気付かない――ならばつまり、襲われたと分かった人間は、みな一人の例外もなく爆弾を破裂させられていることになる。なのに――無事だった人間がいるというのは、俄には信じがたい話だった。
2014-02-26 12:32:18「それが本当なのかどうかを調べるのが、今回の君の仕事だ」「なるほど」「といっても、僕もこれ以上のことは何も知らなくてね。あとは君に丸投げになってしまう」「気にしないでください。それがぼくの仕事なんですから」
2014-02-26 12:32:46そこで一息ついて、ぼくとスヴェルグさんは揃ってコーヒーに口をつけた。また少しばかり微温くなってしまったけれど、それでもここのコーヒーは美味しい。模放なんて使わなくても、ここに来ればいつでも本物のコーヒーが楽しめる。いつも店内がお客さんで混み合っているのも納得だ。
2014-02-26 12:33:15そんな人気店で、コーヒー一杯だけでいつまでも粘っていたのがぼくだ。こういう客は、「コーヒーのおかわりはいかがですか? ご一緒にケーキなどもありますよ」店からはあまり歓迎されない。
2014-02-26 12:33:39この店の名物ウェイトレスの【トモカ】さんだった。いつもパワフルな彼女はぐいぐいとセールスを仕掛けてくる。「いつもコーヒー一杯だけ飲んで帰るんですもん。たまにはもっと注文してくださいよ~」
2014-02-26 12:34:25はははと微笑みではない微妙な笑みを浮かべて、なんとか彼女の怒涛の攻勢をやり過ごす。噂ではトモカさんは連続30時間くらい接客をし続けたことがあるらしい。信じられない。人間じゃない。というか、人間じゃない。
2014-02-26 12:34:57トモカさんは自動人形なのだ。つまり、機械仕掛けの身体を持った鋼のロボットなのだ。異様なタフネスも納得だ。自動人形なのに自分の趣味をしっかり持っていて、割と散財もしてしまうタイプらしい。そういう人間臭さがトモカさんの人気の秘密なのかもしれない。
2014-02-26 12:35:17◆◆◆ 【スヴェルグ】 @6XQgLQ9rNg 都市の想い出を記録し守ろうとする、【ぼく】の雇い主。 アナログからデジタルまで遊戯全般を趣味にしている。
2014-02-26 12:36:11【トモカ】 @0UUfE9LPAQ 喫茶店のみならずファミレス、ファストフードetcで奮闘するバイト戦士。 疲れを知らない自動人形の特性をフルに使い、ライブにグッズに自分の趣味をひた走る。 ◆◆◆
2014-02-26 12:36:43