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喫茶店を出てスヴェルグさんとも別れたぼくは、ボマーと、ボマーに襲われてなお無事だったという男の手がかりを探してみることにした。といってもどこからどう手をつければいいのか皆目見当もつかなかった。こういうときは餅は餅屋。
2014-02-26 21:59:55ぼくの知り合いには情報屋という便利な職業の人がいる。とりあえずこの人のところに行って聞いてみよう。というかこの人が分からなかったらぼくなんかじゃ逆立ちしたって分からない。その人のところまで行くにしても結構歩いていかなきゃいけないので、ついでに他の仕事も済ませてしまおう。
2014-02-26 22:00:23ぼくの他の仕事というのはつまり、模放都市の記録だ。ボマー以外にもぼくが気を配らなきゃいけないものはそこら中にあるのだ。だいたいこの都市には、決まりきったものなんて何もない。みんなかなり気軽に模放するしされるので、道も建物も人もあっという間に変わってしまう。
2014-02-26 22:01:11模放というのはつまり変化だ。しかも、意外と思い通りに物事を変化させることが出来る。もちろん影響を受ける側が確固たる自分を持っている場合はその通りではないけれど、意志を持たない無機物なんかだと模放する側のイメージ次第で如何様にも有り様を変えることが出来る。
2014-02-26 22:02:32人間、どちらかと言うと変えられるよりも変えたがる。自分の思い通りの世界を作りたがる。でも今回ぼくの視界に入ったのは、この都市では珍しく模放されたがっている、一人の少女だった。この子には何度か取材をしたことがあるので、名前もよく知っている。【DAI】という名前の少女だ。
2014-02-26 22:03:09「あ、お兄さん! もしかしてようやくDAIのプロデューサーになってくれる決心を!?」この子が探しているのは、自分を【アイドル】に模放してくれる魔法使いだ。「ごめんね、ぼくはきみのプロデューサーさんにはなれないよ」仕事中なのでぼくは首を横に振った。
2014-02-26 22:03:52「そうですか……」しゅんとしてしまった。ぼくの見たままの感想を述べると、DAIちゃんは模放なんかで誰かの理想のアイドルにならなくっても、大変可愛らしい。なんていうか、うん、言葉に出来ないくらい可愛い。ラノベだったらメインヒロイン抜擢間違いないくらい可愛いのだ。
2014-02-26 22:04:21そんな女の子がしゅんとしてるところを見るとなんだかぼくの中でいけない感情がむらむらと湧いてきそうになる。ぼくの中の懊悩を嗅ぎつけたのか、DAIちゃんの隣にいた少年――【シュンキチ】くんが、ぼくとDAIちゃんの間に割って入ってくる。
2014-02-26 22:04:55「ああ、シュンキチくん。今日もDAIちゃんのバックバンド?」「そうですよ。おかげさまで、最近は見に来てくれる人も増えてるんです」シュンキチくんは、音の模放を得意としていた。彼の頭の中で鳴り響いている音楽と空気を繋げて、世界を音で満たすのだ。
2014-02-26 22:05:25DAIちゃんが歌って踊り、シュンキチくんが音楽を届けるミニステージは、ここらへんではちょっとした名物になっていた。じわじわと人気も加熱している。二人の人気が一気にバーニングする日も近いだろう。
2014-02-26 22:05:52中には熱狂的なファンも生まれている。さっきから物陰からこちらを見ている【まお】くんがそうだ。「スタァ……ハピなる! フリーダム!」謎の三段活用を唱えていた。彼のようにDAIちゃんたちを応援してくれている人がいると、なんだか自分のことのように嬉しくなってくる。
2014-02-26 22:06:29だから、まおくんがこの前「うぅーん……あれで“ツイて”いたら完璧なんだけどなぁ……」と呟いていたのは、ちょっと記憶から消しておきたい。
2014-02-26 22:07:04ああ、それと。きっとしばらく、DAIちゃんのプロデューサーさんは現れないと思う。だって、そのままのDAIちゃんがとても魅力的で、可愛いんだから。そのままのきみでいてほしいと、ファンならみんなそう思ってるに違いない。 ◆◆◆
2014-02-26 22:07:46【DAI】 @j1Wv59wPk2 アイドルを目指す女の子。 自分を理想のアイドルに模放してくれるプロデューサーさんが現れるのをずっと待っている。
2014-02-26 22:08:19【シュンキチ】 @marikin021 才能に溢れる少年音楽家。 頭の中で鳴り響いている音楽を、そのまま表現することが出来る模放の魅力に取り付かれている。
2014-02-26 22:08:55【まお】 @mao_nayuta DAIちゃんのおっかけアイドルファン。口コミでDAIちゃんの株を上げているファンの鑑。 だが実は、“ツイてる”アイドルが好きだという噂も……? ◆◆◆
2014-02-26 22:09:35そういえば、ボマーなんていう物騒な輩が放置されてるのは治安が悪い証拠じゃないかと言われるかもしれないので、そこらへんについても説明しておこう。そもそも、この都市が出来たのは、つい最近のことなのだ。
2014-02-28 16:50:05昔からこの地域に人は住んでいた。だが、都市を都市たりえる代物である都市理力――此処でいう模放――というものは昔からあったわけではなかった。いつの間にか模放は生まれて、そして未だによくわからないまま使われている。
2014-02-28 16:50:46その混乱の中で、二種類の人間が生まれた。秩序を守ろうとする者と、混乱を楽しもうとする者だ。前者は【連傑】、後者は【接賊】だなんて呼ばれて、一時期は相当危ない一触即発なときもあったらしいけど、今は結構安定している。
2014-02-28 16:51:14なんせ、この都市の理力は――強すぎた。しかも攻撃特化だ。模放される側が出来る対策といえば、最初から模放されないように引きこもるか、自分を強く持つかくらいしかない。だからナルシストは防御力が高かったが、そういう自分大好き人間はそんなに多くはいなかった。
2014-02-28 16:51:39このままじゃ共倒れでどうしようもないぞという話をしていたら、いつの間にか事態は沈静化して、いつの間にかそこそこの生活が出来るようになっていた。他人の迷惑にならない程度なら、好きに模放を使って自由に暮らしていい――そういう不文律(ルール)が出来上がったのだ。
2014-02-28 16:51:59その過程の物語はフィクション化されてこの都市の住人に大人気だった。ぼくもいくつか読んだことがあった。特に人気なのは、【プロトオーガ】が主人公の物語で、思春期の少年少女たちはみな愛読している。
2014-02-28 16:52:18プロトオーガは、この都市に模放の力が生まれるまでは、何の変哲もないただの高校生だった。ただ、他の人より少しばかり――自意識過剰というか、妄想力豊かというか、有り体に言えば、厨二病だったのだ。
2014-02-28 16:52:41自分のイメージを現実にすることが出来る模放という現象は、プロトオーガが心の底から待ち望んでいたものだった。そして――彼は、正義の味方として敵と戦う機会を、得てしまった。この物語はあらすじにするだけでも結構な長さになってしまうので、ここで詳細は語らない。
2014-02-28 16:53:00ただ言えることは、彼はこの都市における英雄になり、だけど今はこの都市にはいないということだけだ。「助けに行くぞ!」と言い残して何処かへ去っていってしまったらしい。よくわからないけれど、きっと彼は、今でも何処かで正義の味方をやっているのだろう。
2014-02-28 16:53:30