「千の想いを」~序章・第十五支援艦隊(前半)~
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騙城式読者参加型艦これ二次創作ストーリー 戦う妹シリーズ第三弾「千の想いを」開始。 ~序章『第十五支援艦隊』~
2014-02-11 20:05:04土台無茶な話なのよ。こうなるのは最初からわかってたじゃない。 わかっていながら戦力を分断されたのは、誰のミスと言えばいいのかな。 仕方ないとは思う。捜索の範囲を拡げざるを得なかったんだから。 とりあえずあたしは『アタリ』を引いたみたいだ。 …いや。 『ハズレ』かしら。
2014-02-11 20:16:19もう邪魔でしかない雨合羽のフードを外して叫ぶ。顔に当たり、口に入り込む大粒の雨と風の音に負けない声量で。 「この先にうちの艦がいるわ! まっすぐ進んで!」 同時に指先は通信機に備え付けられているボタンを手早く叩く。 【目標発見。至急救援ト応援サレタシ】。 昼なのに、暗い。
2014-02-11 20:22:36現在位置のGPSによる座標も一緒に送信し、通信回線を全チャンネル開放する。すぐにお姉達が駆け付けてくれるはず。 「まだ! まだ曙と雷が向こうにいるのです!」 ボロボロになった制服から軽くはない傷を覗かせた電ちゃんが、声を荒げた。 初めて見た、などと感想を持つ余裕は無い。
2014-02-11 20:29:37電ちゃんの小さな肩に担がれた、銀の長髪を垂らす少女は動かない。呼吸に肩が上下しているが、意識は無いみたいだ。だらりと揺れる両手からは、血が雨水と混ざりながら滴り続けていた。 「曙と雷が…まだ向こうにっ…!」 雨に負けないペースで涙をぼろぼろと零して、あたしに縋り付いてくる。
2014-02-11 20:34:40「…電ちゃんは響ちゃんを助ける役目だよね?」 濡れそぼっても柔らかい髪を撫でてあげて、問い掛ける。 綺麗な大きい瞳にあたしが映っている。 「大丈夫、必ず助けるから。それが…」 撫でていない方の左手を、甲を上に向けて挙げる。 「あたし達『第十五支援艦隊』の役目だから」
2014-02-11 20:41:36爆発。炎上。 手負いの獲物を追ってきて、隙を伺っていた敵艦隊が爆ぜて甲高い悲鳴を上げる。 左手の袖から飛び立ち、指示通りに爆撃を行った艦載機達から送られる、リアルタイムの情報を頭の中でまとめながら、電ちゃんと響ちゃんに背を向ける。 「行って! 航空母艦千代田、出撃します!」
2014-02-11 20:49:10『支援艦隊』。前線に赴き、敵である深海棲艦を索敵・攻撃・駆逐・排除する目的ではなく、それらを行う艦隊の名前通りに支援する事を任務とする艦隊の総称。 また、補給や援護、補佐や救助から始まり、遠征や配給等、幅広く幾つかの役割を艦隊毎に分担、細分化される。
2014-02-11 21:00:46千代田の所属する『第十五支援艦隊』の最たる役目は【救護】と【露払い】。 撤退を余儀なくされた艦隊の救助や回収、依然敵に追われているのなら実力行使を以て救援する部隊である。 今回の任務はキス海沖に突入させられた曙・雷・電・響の4名からの要請に基づく、安全確保および保護であった。
2014-02-11 21:08:10潮流が早く、独特の『うねり』を持つこの海域に於いて、船足(あし)の速い駆逐艦以外はまともに航行する事ができないのは支援艦隊だとしても同じ事。 第十五支援艦隊は各員手分けをして、通信の途絶えた4名の捜索を行っていた。 そして、一番最初に千代田が負傷した電と響を発見する。
2014-02-11 21:12:48《――千代田、次ノ指示ヲ》 「前に出た奴からぶっぱして。でも回避を最優先。行動ルーチンは各機に任せるわ」 艦載機からの『声』に肉声で返す。実際は言葉にしなくても伝わるのだけれど、口にしてしまうのはあたしの癖だ。 《――了解》 8機の艦載機が雨煙を裂いて展開する。
2014-02-11 21:19:36基本的に空母艦娘の操る航空機は全て人工知能を積んでおり、主の指示・命令をオートで最適化して遂行する事ができる。 「全部任せる」と命じれば自己で判断して行動する事すら可能だ。 過去に積んできたデータを洗って、現在の味方や敵の総力・天候を壱とする状況から【最善】を考慮するレベルで。
2014-02-11 21:27:08無論、やろうと思いさえすれば、航空する為のエンジンの駆動回転数や尾翼の稼動部のミリ単位での角度調整から【操縦】する事もできる。 けれども、複数の機体を同時に操る事なんて、超天才の正規空母か、あるいは『鬼』くらいにしか堪えられるものではない。 少なくともあたしには無理。
2014-02-11 21:32:06人工知能は空母1人1人で、それぞれに適したカスタマイズを行われているので、同じ性能を有した同一の『型』である航空機であっても、判断の序列や行動の方針といった【性格】は全然違ってくる。 姉妹である千歳お姉とあたしですら、積む機体を交換したら全然操れない程に。
2014-02-11 21:37:20弱く小さくなった赤と橙の炎の隙間から、2体の軽巡ト級が姿を覗かせる。 目視できる範囲でも、機体からの連絡も揃って「被害は軽微」だ。 先程の派手な爆発によるダメージは全然無い、と言える。 …わかってはいたけどね。 あたしの子達が搭載している武装は、爆発に指向性を持っていない。
2014-02-11 21:44:12火薬だけは無駄に多く使っているので爆発こそ大きく派手だけど、威力となる為の処置と計算は元から行われていない。 ただの人間や脆い建造物程度なら容易に破壊できるものの、奴ら深海棲艦の装甲と皮膚は、炎に炙られた程度ではびくともしやがらないのだ。
2014-02-11 21:48:45じゃあどうして、まともな『武器』を積んでこなかったか。 決まっているじゃない。あたし達の武装目的は戦闘じゃないもの。 仲間を助けてとっとと逃げる。それがベスト。 なので、爆発は派手で大きく、目眩ましとなればいいのだ。 怯んで逃げてくれれば御の字、なわけなのよ。
2014-02-11 21:52:01普段であれば、それで充分だった。 だけど今回はいつもと違う。 1つ、まだ要救助者がこいつらの向こうにいる。 1つ、怯むどころか躊躇い無くあたしに突っ込んでき――あぁもうっ! 全力で回避。指示はさっき与えたので出す必要も無く、あたしがいた地点へと艦載機達が瀑布をばら撒く。
2014-02-11 21:56:55腰の通信機から提督の声が聴こえる。返事の代わりにマイクをオンにして今の状況を伝える。 頭上から降り注ぐ爆発の元に気付いていながら、奴らは濁った2対の瞳を降ろしてあたしを見据える。 ただの1度。たった1回の前例から既に『放っておいて良し』と判断している。 していやがる…!
2014-02-11 22:02:05eliteか…! 思考し、それを基に行動を選べる特異個体。 そんな奴らを相手にするなんて。 それも両方ともだなんて…! 更にたった1人で戦わないとなんて! つまりは今あたしピンチだし…! 駆逐艦娘を相手にかっこつけたのは、ついさっきの出来事だというのに。
2014-02-11 22:08:39生物と機械、両方を半々ではなく掛け合わせた特徴と性質を持つ奴らの巨体の、歪に牙の並んだ顎が大きく開いて、あたしを噛み砕こうとしていた。 ミイラ取りがミイラになる。 浮かんだけど面白くも笑えもしないし、今はそろどころじゃなくて! ああっ…! 助けてお姉…!
2014-02-11 22:17:28