古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #1

更新第一回目のまとめです。 古鷹を徹底して避ける青葉と、それに何も言えない衣笠。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あ、衣笠聞いてください!今朝の戦艦寮での謎の爆発音の原因、青葉が突き止めてきましたよ!」 いつも作業に使っている背の低いちゃぶ台に原稿を広げながら、青葉が楽しげに話しかけてきた。ここはとある鎮守府の重巡寮。青葉型の私と青葉に割り当てられた二人部屋だ。

2014-02-25 22:23:52
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉は私に話しかけながら原稿を書き進める手は止めない。我が姉ながら器用なものだと思う。 「原因ねえ……どうせまた、伊勢さんと日向さんのケンカじゃないの?」 「いやまあそうなんですけど、話は最後まで聞いてくださいよ」

2014-02-25 22:28:18
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「二人とも提督の執務室に連れてかれて叱られてたんで、誰も伊勢さんたちのケンカの原因を知らなかったでしょう?なんで青葉忍び込んで盗み聞きしてきたんですけど」 忍者かこの姉は。 「最初はこないだ初めて手に入った試製晴嵐の取り合いだったらしいんですよ。どっちが装備するかでモメて」

2014-02-25 22:33:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「装備品の取り合いでケンカして、戦艦寮の壁ぶっ飛ばしたってわけ?」 「いえ、その場は収まったらしいんです。じゃんけんで勝った日向さんが装備することになって。だけど、よほど悔しかったんでしょうね。伊勢さんが、日向さんの寝てる間に……」 青葉の肩が震えだす。

2014-02-25 22:37:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「言うに事欠いて、晴嵐に『日向のバカ』って落書きしたっていうんですよ!」 青葉がいかにも愉快そうに笑いながら続ける。 「で、それを知った日向さんが激怒して、寮の中なのに伊勢さんに晴嵐で急降下爆撃を敢行!伊勢さんも噴進砲で反撃して、巻き添えを食ってあわれ戦艦寮の壁は撃沈!」

2014-02-25 22:44:50
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「もう傑作ですよね!仮にも戦艦なのに毎日のようにケンカしてるだけでもどうかと思うのに、その理由がまるでおもちゃの取り合いなんですもん!これは記事にしないわけにはいかないですよね!」 話の間中も筆を止めずにいたおかげで、青葉の目の前の原稿はすでに六割がた形になっていた。

2014-02-25 22:49:12
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

おそらく今晩中には鎮守府の掲示板という掲示板に、ガリ版刷りのこの記事が貼られることだろう。この鎮守府で起こった椿事は、細大漏らさず青葉の手でこうして新聞記事にされてしまう。まあたいていはこうした他愛もない記事なので、読み手も真剣には読んでいない。これ自体青葉の趣味のようなものだ。

2014-02-25 22:55:56
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そして、私は毎回青葉の記事の校正に付き合わされている。まあ、青葉が楽しそうだからいいんだけどね。 「あ、もうちょっとで出来ますから、衣笠目を通してもらえ――」 不意に青葉の言葉が尻切れトンボになる。何事かと青葉の顔を見ると、さっきまでの笑顔が消え失せ、顔色が青白くなっていた。

2014-02-25 23:03:05
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ああ、彼女が来たんだ、と私は覚った。 「青葉、ちょっと急用を思い出しました!」 バレバレの嘘を口にしながら慌ただしく青葉が立ち上がり、原稿やらペンやらをかき集める。そしてそのまま窓を開け、中庭に飛び出していった。この部屋が一階にあるとは言え、靴も履かずに飛び出さなくてもいいのに。

2014-02-25 23:12:37
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉が飛び出して行って間をおかずに、この部屋のドアがノックされた。ノックの主はわかっている。 「はい、どうぞ」 「お邪魔します……」 遠慮がちな挨拶とともに、古鷹ねーさんが私たちの部屋に入ってきた。そして、おずおずと私に尋ねる。

2014-02-25 23:18:33
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あの、青葉が部屋に帰ってきてるって聞いたんだけど……」 「ええ、今さっきまでいたんですけど、ちょうど入れ違いになっちゃいまして……」 「そうなんだ……それじゃあ仕方ないね」 少し悲しそうに笑いながら、古鷹ねーさんが肩を落とす。その顔を見ると、ちくりと心が痛む。

2014-02-25 23:21:59
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

もう何度同じようなやり取りを繰り返しただろう。古鷹ねーさんがやってくる前に青葉が部屋を飛び出したのは、決して偶然じゃない。 青葉は、古鷹ねーさんを避けている。

2014-02-25 23:26:06
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

第六戦隊の古鷹型・青葉型のうち、この鎮守府に来た順番は古鷹ねーさんが最後。そして古鷹ねーさんが来て以来、青葉は今まで一度も古鷹ねーさんと顔を合わせていない。ううん、それだけじゃない。古鷹ねーさんの話すら、しようとしない。

2014-02-25 23:32:42
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

艦娘になる前、第六戦隊で古鷹型・青葉型の私たち4人はいつも一緒だった。戦いの中で加古を失い、古鷹ねーさんが沈み、私が沈んで最後に青葉一人が取り残された。だから、艦娘になって青葉たちに再会できたときはすごく嬉しかった。また昔のように4人で一緒にいられると、無邪気に喜んだ。

2014-02-25 23:40:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

けれど青葉は、古鷹ねーさんを避ける。どういうカンが働くのか、古鷹ねーさんが近くに来ると即座に察知して逃げ出し、提督には一緒に出撃させないでくれと幾重にも頼み込んでいるらしい。

2014-02-25 23:46:17
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

一度、どうしてそんなに古鷹ねーさんを避けるのか問い詰めてみたことがある。そして、すぐに後悔した。青葉が顔面蒼白の泣きそうな顔になったからだ。 「青葉には、古鷹さんに会わせる顔なんて、ないんです」 両手で顔を覆って絞り出すように呟いた青葉に、私は何も言えなかった。

2014-02-25 23:52:51
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それ以来、青葉が逃げ出した後の古鷹ねーさんのフォローは私の役目。いつまでもこのままでいいとは思わないけど、他に出来ることなんて思いつかない。 「あの、青葉も悪気があってのことじゃなくてですね……」 「うん、わかってる。タイミングが合わなかったんだもん、しょうがないよ」

2014-02-25 23:56:52
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんも口ではそう言っているけれど、その悲しそうな顔を見れば青葉に避けられていることに薄々気づいているだろうことは傍目にもわかる。私は無理やりにでも話を変えた。 「そ、そう言えば、今日の出撃は南方海域だったんですよね?大変じゃなかったですか?」

2014-02-26 00:04:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「うん、加古と長門さんたちと駆逐艦の子たちと一緒でね。敵の前線司令艦隊までたどり着いて、撃破してきたよ。すごいんだよ、夜戦で加古が大活躍してMVP取ったの!」 妹の活躍が心底嬉しいらしく、古鷹ねーさんは珍しく興奮した面持ちで熱っぽく加古の活躍ぶりを語る。

2014-02-26 00:09:00
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「それじゃ加古はもうぐっすり?」 「そうなの。『MVP取ったんだからとにかく寝かせて』って艤装も外さずに寝ちゃった。また提督に怒られちゃう」 あはは、と古鷹ねーさんと声を揃えて笑う。

2014-02-26 00:17:13
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ああ、昔もこんな感じでいつも楽しかったなあ。青葉が何か面白そうなものを見つけて一目散に走っていって、私が急いで追いかけて、加古は寝ぼけてて、それを古鷹ねーさんが起こして手を引っ張って……。そんな懐かしい思い出に浸っていると、古鷹ねーさんがぽつりと呟いた。

2014-02-26 00:21:48
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「また、4人で一緒にいられたら、いいね……」 私は何も言い返せず、古鷹ねーさんのつぶやきは部屋の静寂に吸い込まれていった。

2014-02-26 00:23:24