ホロコースト否定論と『黒書』の意義

【関連まとめ】「ワシーリー・グロスマンの『人生と運命』とその周辺」(http://togetter.com/li/219146
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直立演人 @royterek

歴史修正主義の一形態であるホロコースト否定論の主張のひとつに、ホロコーストは第二次大戦に勝利した戦勝国によるプロパガンダの産物であったという説があるが、これはソ連当局が早くも第二次大戦末期の時点でホロコーストの事実を部分的に隠蔽しようとした事実ひとつだけでも十分に反駁可能である。

2014-02-28 19:27:01
直立演人 @royterek

独ソ戦の最中、ソ連のユダヤ系作家のイリヤ・エレンブルクとワシーリー・グロスマンは、戦時中にソ連政府の傘下に設立された反ファシスト・ユダヤ委員会の命を受け、ソ連領内でのナチによるユダヤ人絶滅作戦の模様を記録する作業に着手した。その報告が『黒書』( Черная книга)である。

2014-02-28 19:33:39
直立演人 @royterek

『黒書』は1944年秋頃に完成し、反ファシズム・ユダヤ委員会に提出されたが、ソ連市民によるナチ協力の記述に難色を示された上、当局に没収された挙げ句、結局お蔵入りとなった。代わりに、国外に送られたイディッシュ語版の不完全なコピーが1946年に米、ルーマニア、パレスチナで刊行された。

2014-02-28 20:18:49
直立演人 @royterek

その後、1980年代後半まで、ソ連領土内でのユダヤ人虐殺のみならず、ポーランド等の強制収容所の歴史について、ソ連では自由に語ることも書くことも叶わず、ホロコーストの記憶は分厚いタブーに包まれることになった。『黒書』のロシア語完全版は、1993年にヴィリニュスでようやく刊行された。

2014-02-28 20:25:03
直立演人 @royterek

グロスマンが生存者や看守らの証言に基づいて書いた『トレブリンカの地獄』(1944)はニュルンベルク裁判の際に使用されたが、赤軍が解放したもう一つの重要な強制収容所であるマイダネクについては、グロスマンではなくロシア人作家のシーモノフが担当した。そこにユダヤ人の言及はほとんどない。

2014-02-28 20:29:07
直立演人 @royterek

The Complete Black Book of Russian Jewry http://t.co/OIlZB9oq1j 英語版『黒書』。残念ながら、この重要な歴史文書が日本語に訳される見込みは今のところ低い。せめてグロスマンの故郷ベルディーチェフの章だけは訳したいと思う。

2014-02-28 20:32:32