今夜のの川内　-二人の指輪-

魚・大湊川内提督／警備府隊の隊長 @dzurablk

舞台はいつもの執務室 「提督～、何かご用ですか～？」 いつもの捉えどころのない口調で龍田が聞く 「ああ …実は、折り入って頼みがあってな」「あら～、そういうのは『お嫁さん』に聞いては？」提督はギクリとした 「もう皆知ってますよ～？」 #今夜の川内

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提督が慌てる様子を見て龍田はますます笑顔になる 「そ、それがだな… 川内には秘密に…」「あら、挙式に関するサプライズの話かしら？」 提督が固まる 「指輪とか～？」 …提督は冷や汗が止まらない 「その様子ではサプライズは無理そうね～…」「大きなお世話だ!!」 #今夜の川内

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「じゃあ、私は失礼しますね～」 執務室を出て行こうとする龍田を提督は慌てて引き留める 「もう、冗談ですよ～」 …川内に負けず劣らず長い付き合いになるにも関わらず、未だにこの龍田というのは捉えどころがないというか手に余る、というのが提督の率直な感想だ #今夜の川内

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「…お前の言う通りだ 川内の指輪選びを手伝ってほしい」「お断りします～」 …挙げ句の果てには散々遊ばれた結果、これである 「そういうのは本人に聞くのが一番ですよ～ それに…」「それに？」「提督の性格じゃサプライズは無理ですよ～」 #今夜の川内

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龍田が先ほどと同じことを繰り返す 「し、しかしだな…」「全く、甲斐性がないですねー…」 ぼそりと呟く 「それじゃ私は、帰りますね～」「お、おい!?」「頑張ってくださいねー」そう言うと引き留める暇もなく龍田は出て行ってしまった #今夜の川内

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「…甲斐性、ね…」 提督はギシリと椅子にもたれかかりタバコに火をつけると、ふと思い立ったように電話へ手を延ばすのだった #今夜の川内

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「ねえ提督、急に呼び出してどうしたの？」タクシーを降りると唐突に川内が口を開く 「まあ、たまには２人で外出でも、と思ってな」 ２人は今、大湊警備府からほど近い駅前の繁華街にいた 「それって…」 川内が急にそわそわし出す 「デート…かな…？」 #今夜の川内

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「…まあ、そうなるな」 その様に思わず提督も、気恥ずかしさから目を逸らしてしまう 「ほ、ほら！ 行くぞ!?」「あ、待って！」 そのままさっさと歩き出そうとした提督を川内が引き止めた 「手… 繋いじゃ、ダメ…かな…？」 #今夜の川内

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「…手は恥ずかしいからダメだ」ポケットに手を入れたまま応える 隣で川内がしゅんと落ち込むのが見ずとも手に取るように分かった 「…だが」 提督は手を出さないまま、肘を少し動かし体と腕の間に隙間を作る 「…エスコートが必要なら、喜んで」 #今夜の川内

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その様子に川内はパアッという擬音語が聞こえそうなくらい顔を輝かすと、提督の腕に抱き付く 「お、おい」「えへへ～♪」「あんまりくっつくと歩きにくいぞ」「こっちの方がいいの！」「…まったく、しょうがないやつだな」 そう言うと提督は目的地に歩を向けるのだった #今夜の川内

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「ほら川内、着いたぞ」 大通り沿いにしばらく歩いた所にその店はあった 「…宝石屋さん？」てっきり食事に行くと思っていた川内はきょとんとする 「これってもしかして…」「ほら、早く入るぞ」 川内が最後まで言い終わらないうちに提督はドアに手を掛けていた #今夜の川内

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「いらっしゃいませ」 提督に続いて店内に入った川内を、落ち着いた声とかすかな花の香りが出迎える 店内には腰程の高さのガラスケースに区切られた通路が店の奥まで続き、壁に作り付けられたケースからは見るからに高そうな時計がこちらを見下ろしていた #今夜の川内

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「本日は、何をお探しで？」 きっちりと制服に身を包んだ若い女性店員が２人に声をかける 「ああ、結婚指輪を探してるんだが」 それを聞いた川内の顔が真っ赤に燃え上がった 「でしたら、こちらに」 気恥ずかしさから半ば提督の背に隠れるように、店員の後に続く #今夜の川内

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川内はガラスケース沿いに歩きながらもすぐ隣で輝く宝石や貴金属につい見とれてしまう こういった店に入ったことのない川内にとってはどれも名前も知らない宝石ばかりだが、その色とりどりの輝きにはなるほど確かに数多の女性を虜にする理由も納得できた #今夜の川内

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「…ほう、ガーネットか」 いつの間にか隣にいた提督が川内と一緒にショーウィンドウの中をのぞき込んでいた 「こちらは１月の誕生石ですね」 すかさず店員が説明する 「エルサレムの城壁に因んで、月ごとに宝石が割り振られているんですよ」 #今夜の川内

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見渡してみると確かに、並んだ指輪の前に月を書いた札があった 「なんだ川内、これが気に入ったのか？」「あ、いやそういう訳じゃ…」川内が慌ててかぶりを振る 「こちらはペアにはなっていないので、結婚指輪にすると少々割高になってしまうんですよ」 #今夜の川内

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「そうそう、結婚指輪買いにきたんだよね！」そそくさと店員の方へ向かう川内に提督も続く 「この辺りの棚が、結婚用のペアのものになります」 ガラスケースを見ると先程とは異なり落ち着いた雰囲気の、大きさの違うペアリングが並んでいる 「こっちは色は付いてないんだ…」 #今夜の川内

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「そうですね 結婚指輪はずっと付けたままですので、あまり派手な色は…」「お、これなんかはどうだ？」提督が中の一つを指した 「なんか金色で光ってるぞ！」「…提督、話聞いてた？」「それじゃ、こっちは？」「石が大きすぎない？ 10カラットって…」 #今夜の川内

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宝石に疎い川内も流石に呆れ顔だ そもそも 「…提督 これ、値段」 …８桁ともなると、とてもじゃないが提督の安月給で買える代物ではない 「もうちょっと安いの、あります？」「はい、こちらに…」 「早速、主婦みたいになってきたな…」 #今夜の川内

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ため息混じりに提督 「この辺りですと、だいぶリーズナブルに…」「うーん… まだ高いかな…」唸る川内 「ですが結婚指輪ともなると、一生の記念品ですので…」「…あ、これ！」 川内が一際シンプルな指輪を見つける 「これがいいな！」 #今夜の川内

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「オイオイ、そんなのでいいのか？」提督が値札を見ると６桁、それも前半の値段 「こんなの、いつでも買えるぞ？」「これがいいの！ 出撃しても目立たないし」「もう少し宝石とかデザインだって…」「こーれー!!」 #今夜の川内

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…川内がこう言い出したら聞かない性格なのは提督が一番よく知っている 「…仕方ないな じゃあ、これを」「かしこまりました」 再度ため息混じりに、苦笑いしている店員に告げる 「まったく、今からこんなじゃ先が怖いな…」「いいの！ 大事なのは値段じゃないの！」 #今夜の川内

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…なにやら、将来はカカア天下になりそうな雰囲気にげんなりしつつも提督は川内とは別にふらりと店内を見て回る …と 「あ、そういえば…」 提督が突然足を止める 「すみません、これも１つ」「ん？ どしたの？」 川内が提督のもとに駆け寄ると… #今夜の川内

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「はい、こちらの指輪ですね？」 そこにあったのは、先程川内が見とれていたガーネットの指輪 「え？ なんで!?」「…いや、俺が欲しいからだが」「だって、値段…」 見ると値札は７桁 「せっかく安い結婚指輪にしたのに！」無論、川内はご立腹だ #今夜の川内

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そんな川内は気にもとめず 「ああ、あとその指輪なんだが…」 「ちょっと提督、聞いてんの…!?」「先にプレゼント用にラッピングを頼む」「…え？」 川内が固まる 「…ほれ」 店員から渡されたガーネットの指輪を提督は事も無げに川内に渡した #今夜の川内