【艦これ】艦娘に優しい眠りを~那智編~【SSを】

悪夢で目を覚ました那智が提督に慰められるお話。
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三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

那智の表情を見て提督は軽く笑った。 「殺したりはしてないさ。だが……死なせかけたことがある。あれは俺が子どもの頃……」 カップを膝元に置き、遠い目をして提督は語る。 「仲間と数人で裏山で遊んでいた。そこでだな……」 苦い記憶を語ろうとする提督の顔が歪む。25

2014-04-15 18:44:10
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「……ほんの悪戯のつもりだった。崖を覗き込む友だちの背中を自分は押したんだ」 結果、その友だちは崖下に頭から落ちたらしい。 「もう一人いた友だちが大人の助けを呼びに走り、俺はその場に残った」 深いため息を提督はつく。26

2014-04-15 18:52:54
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「大人が来るまで、ほんの数十分だっただろうな……だが自分にとっては永遠のように長く感じられた。そしてその間、ずっと自分を責めていた。お前が殺したんだ、人殺し、自刃せよ、ってな」「……」 那智は黙って聞き続ける。27

2014-04-15 18:59:41
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「結局その子は……?」「無事だったよ。あちこち打撲していたが、他は特に問題なし。今は所帯持ちで幸せらしい。今年の年賀状では子どもも生まれたと言っていた」「そうか……」 良かったと、と那智は言えなかった。いや、確かに結果は不幸中の幸いである。28

2014-04-15 19:06:03
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

しかし、提督はそうは行かなかったのだ。 「それ以来、俺は夢を見るようになった。血まみれのそいつが自分に迫ってくる夢とかな。そして……」 自嘲気味な笑みを浮かべ、息をつきながら提督は言った。 「この鎮守府を預かってから、夢のそいつはお前ら、艦娘に置き換わったりした」29

2014-04-15 19:11:50
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

それまでカップに目を落としていた提督が天井に顔を向けた。だがその目は何も見ていない。 「つまるところ、自分は恐れているんだ。自分が死んだりするより、自分のせいで誰かが死ぬことをな」 「……」 那智は何も言わない。提督の横顔を見つめ続ける。30

2014-04-15 19:22:58
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「つまらない話をしたな」 そう言って提督はホットミルクを一息に煽った。 「いや、そんな事はない……司令官の話は、その……」 那智の言葉が尻すぼみになり、消える。何か言葉を紡ぎ出そうと彼女の口が動くが、何も出てこない。31

2014-04-15 19:37:04
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「那智? どうした?」「……いや、何でもない」 結局のところ、何を言っても無意味、空虚な慰めなのだ。自分の悪夢と同じだ。 ごまかすように那智は提督と同じようにカップを煽る。中のミルクはだいぶぬるくなっていた。 ……いや、本当に無意味か?32

2014-04-15 19:46:43
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

立ち上がろうとした提督の手を那智はとり、強引にソファに座り直させた。自分の苦い過去を淡々と語っていた提督も驚いた声を漏らす。 「那智? どうしたんだ?」「いや、この行為は特に……いや、その……」 しどろもどろになる那智。姉妹の妙高や足柄なならもっと滑らかに言えただろうか?33

2014-04-15 20:09:57
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「慰めなんて空虚だ。所詮、私と貴様は違う存在。抱える悩みも違う。共有だなんて空々しいとは思う……」 だから、気安い慰めの言葉なんか要らなかった。今でも要らない。しかし、提督には横にいて欲しかった。何故か。自分でも考えを整理しながら那智は続ける。33

2014-04-15 20:12:22
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「そのだな……内容こそ違えど、同じように悩んで悪夢を見ている私がここにいるんだ。同じようにな。同じようなのにその自分の話を『つまらない』と言うのは、どうなのだ、司令官?」「……一理はあるな」 提督は頷くがその表情はまだ固い。 「それが、那智の手とどう関係あるんだ?」34

2014-04-15 20:17:34
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「その……なんだ。同じように悩んでいる貴様が横にいたら、その悩みは適当に投げずにいるべき物だと実感できる……」 「普通は『悩んでいる他人を見て、同じように悩んでいる自分の姿を考えて滑稽に思う』じゃないのか?」 那智の言葉に苦笑した提督だが、ソファに座り直し、腰を据えた。35

2014-04-15 20:22:49
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

何も言わず、手を取り合ったまま悪夢に悩める二人は居続ける。手を通して互いの存在を感じ合う。相手も自分と同じように真剣に悩んでいる人なのだと。 横に同じような存在がいると、不思議と心強く、少しだけ楽になれた気が二人はした。36

2014-04-15 20:30:38
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

そのためだろうか? しばらくすると那智が提督の肩に頭をもたせかけた。そのまま寝息を立て始めた。 「おいおい……」 提督は苦笑するが、苦くない物も混じっている。那智の寝顔は提督をそうさせるだけ、穏やかな物であった。37

2014-04-15 20:33:48
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

手を離してソファから立ち上がろうとした提督だが、思い直した。代わりにソファの手すりに畳まれて置かれていたブランケットを手に取る。それを那智と自分にかけた。 二人並んで座ったままの態勢。寝心地としてはベッドより遥かに悪い。38

2014-04-15 20:40:12
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

だが、悪夢を見て起きてしまった今夜くらいは枕を変えてみるのもいいかもしれない。あの自他共に厳しい那智もそう思ったから、ここで眠りに就いたのではないだろうか。 もぞもぞと提督は動き、少しでも寝やすい体勢をとる。那智は起きない。寝たばかりなのに熟睡している。39

2014-04-15 21:09:18
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

「おやすみ、那智。いい夢を」 那智の温もりもあったからだろうか、すぐに提督も眠りに誘われた。 翌朝、慣れない態勢で寝た二人は身体の節々か傷んで仕事に支障を来したことや、二人が一緒に寝た事実に多大な尾ひれがついた噂が鎮守府に回ったのは蛇足である。40

2014-04-15 21:13:37
三鯖アキラ(旧:沈黙の天使) @silent_aries

★★『艦娘に優しい眠りを~那智編~』これにておしまい★★

2014-04-15 21:14:32