【第二部-壱】誰かを見つめる時雨と大和進水 #見つめる時雨

第二部、開幕 矢矧×大和
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山城視点

とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

工廠の様子が慌ただしい。中を覗くと、工廠の妖精達がひとつの建造ドックに集結している様だった。…一体何事かしら。 「大和型戦艦の反応を検知しました」 妖精の1人が話す。私はその報に対し、思わず聞き返してしまった。…本当なの? 「はい、間違いなく、大和型戦艦の反応です」

2014-03-05 19:05:20
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

この話は主力である第一艦隊のメンバーには告知された。中でも矢矧の喜びようは半端ではなかった。無理もない、この娘はずっと彼女を待ち続けていたのだから。…その気持ちはよく理解できた。でも、 「…終了予定時刻まで随分あるわよ。ずっとここにいるつもり?」 工廠の入り口に、矢矧がいた。

2014-03-05 19:10:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「すみません、何だか落ち着かなくて…」 矢矧がそわそわしている様子は目に見えてわかった。全く、普段の落ち着きは何処へ行ってしまったのかしら。 「…でも、よかったわね、矢矧。ずっと待ってたんでしょ?」 …矢矧が胸に手をおいて、目を閉じる。 「…はい。本当に…長かったです…」

2014-03-05 19:15:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

私は矢矧の頭をぽんぽんと叩いた。矢矧が恥ずかしそうに顔を赤くする。あら、結構可愛いところあるじゃない。 「…最初に何て言うか、考えてる?」 「え…?えっと…ど、どうしよう…何て言えばいいのかな…」 矢矧が再びオロオロし始めた。こんな矢矧、本当に始めて見たわ…

2014-03-05 19:20:21
とある舞鎮の艦娘たち @S_side_story

「…そんなに難しく考えることはないわよ。時間はいっぱいあるわ。心を落ち着けて…しっかり迎えてあげなさい」 そう矢矧に伝えると、私は部屋へと引き返した。 「…あの!」 後ろから矢矧の声が聞こえ、振り返る。 「…山城さん、ありがとうございます」 私はそれに、笑顔を返した――

2014-03-05 19:25:21

時雨視点

誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

工廠の前で矢矧が落ち着きのない様子で立っていた。阿賀野と能代も一緒だ。 「能代姉さん、私、変じゃない?ちゃんとしてる?」 矢矧が能代に自分の身だしなみのチェックをお願いしてる。矢矧っていつも冷静なイメージあったんだけど…あれだとまるで恋する女の子だね。

2014-03-07 22:00:26
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「大丈夫よ。髪も乱れてないし、服に皺も寄ってない。うん、可愛いわよ、矢矧」 能代がそう言って矢矧の頭を撫でる。すると矢矧は途端に顔を真っ赤にした。 「え!?か、可愛いとかそういうんじゃなくって、変じゃないかなって…うん…」 矢矧が身を縮こませた。あ、照れてる。ふふ

2014-03-07 22:05:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

そんな様子を見て、阿賀野が矢矧に抱きついた。 「ちょ…!?阿賀野姉さん!?」 「んー!矢矧ってば、可愛いー!」 「やめて!服に皺が寄るってば!」 矢矧に頬ずりする阿賀野。ああ、折角髪も整えてたのに…

2014-03-07 22:10:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

工廠の扉が開き、担当の妖精が出てきた。 「大型建造、完了しました」 報告を受け、提督が中へ入っていく。僕達も続いて、中に入る。…いよいよだね。僕もドキドキしてきたよ。…一番ドックの前で沢山の妖精達が整列しているのが見えた。 「新造艦、進水します」

2014-03-07 22:15:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

進水といっても海に出るわけではない。艦娘としてここに下り立つことを、僕達は「進水」と呼んでいた。…ドックの扉が開き、中から艤装を纏った少女が姿を表す。その主砲は紛れも無く…あの戦艦だった。少女は、高らかに名乗りをあげた。 「大和型戦艦一番艦、大和。推して参ります」

2014-03-07 22:20:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「大和!!」 矢矧が大和に駆け寄る。そして大和の手を取った。感動で言葉が中々出てこないようで、只々、大和の手を握っていた。でも何とか、言葉を振り絞る。 「…えっと…大和…おかえ…」 「初めまして、大和です。これからよろしくお願いします」 ……あれ?

2014-03-07 22:25:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

皆お互いの顔を見合わせた。僕も、皆も…ひどい違和感を感じていた。僕達艦娘は、あの戦争で共に行動したことがあれば、艦娘としてここで再会した時も、お互いを認識することが出来た。…だから、あんな言葉は出てくるはずはないんだ。 「…大和?私が…わからないの?」

2014-03-07 22:30:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

大和が困った顔になる。 「すみません…私、ずっと秘匿されてて…。もしかして、何処かでお会いしましたか?」 「え?…え…え?私よ、矢矧よ。天一号作戦で…貴女と共に…」 大和は矢矧の言葉に対して、益々困った顔をするだけだった。…どうも様子がおかしい。もしかして、大和は…

2014-03-07 22:35:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「その…すみません…」 大和が頭を下げる。矢矧の顔は真っ青になっていた。 「えっと…そう!進水したばかりで、まだきっと混乱しているんでしょ?落ち着けば、きっと思い出すから!…そうだ!鎮守府を案内するわ。さぁ、行きましょう!」 あ、待ってよ矢矧…!

2014-03-07 22:40:10
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「…どういうことだ?大和は矢矧のことを覚えていないのか」 後ろを振り返ると、武蔵が立っていた。 「…そうみたいだね…。完全に初対面って顔してるよ」 「…おい、大和」 武蔵が大和の方へ歩み寄る。

2014-03-07 22:45:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

大和は武蔵の方を振り向くと、驚いた顔を見せた。そして矢矧の手を解き、武蔵へ駆け寄っていった。 「武蔵!貴女もここに来てたのね!また貴女と会えるなんて…」 「ん…?私のことは覚えているのか」 「大切な妹のことを忘れるはずないでしょう」 …矢矧は、その場に立ち尽くしていた…

2014-03-07 22:50:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

あの後、大和に鎮守府を案内することになったんだけど、それは矢矧がどうしても自分がやりたいと言って聞かないんだ。みんな矢矧が心配でどうしようか迷ったんだけど、結局、能代も一緒に付き添うということで、矢矧にお願いすることになったんだ。でも、大丈夫かな、矢矧…。

2014-03-07 22:55:09
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

「どういうことだと思う?扶桑…」 談話室のソファーに扶桑と並んで座る。扶桑の淹れてくれたお茶が温かい。僕はその温かさに少しの安心感を貰った。…扶桑は少し間を置いてから、口を開いた。 「…一時的な記憶障害、かしらね…」

2014-03-07 23:00:14
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

扶桑がお茶を一口飲み、そして言葉を続ける。 「…そもそも、私達はあの時の記憶を引き継げていることを当たり前のように思っていたけれど、今までそういう娘がいなかっただけで、決して不思議なことではないと思うわ。…私達は沈んだり、解体されて、一度は消えた存在なのよ」

2014-03-07 23:05:11
誰かを見つめる時雨 @rainshowers_bot

扶桑がふぅ、と一息ついた。 「…でも、武蔵のことはちゃんと覚えていた。おそらく記憶が部分的に欠けているのだと思う。…暫くここで過ごしていれば、戻る可能性も十分にあると考えていいんじゃないかしら。…そう信じましょう」 僕は扶桑の言葉に、静かに頷いた――

2014-03-07 23:10:10