万能細胞作成技術の捏造をする人間の心理について

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アドリア海 @keizi80

リムストーン心理研究所 http://t.co/ZNXFuW9ho2 スカイプにて各種カウンセリングを行っております

2014-03-11 16:29:55
アドリア海 @keizi80

その日カメラのフラッシュに包まれ、一躍時の人となった中年の研究者の姿を、 その女学生は爪をかみ締めながら見つめていた。 中年の研究者が発見したのは培地の中にある今現在の細胞を世代をさかのぼる形で退行させ、より先代に位置する個体の細胞を再現する技術であった。 万能1

2014-03-11 15:35:45
アドリア海 @keizi80

「将来的には恐竜をよみがえらせることも可能ですよ」 閃光の中満面の笑みで中年研究者はこう大見得を切った。 マスコミもこぞって生物学を根本から作り変える偉業であると褒め称えた。 万能2

2014-03-11 15:37:13
アドリア海 @keizi80

「これはすごいこれはすごいぞノーベル賞は確実ではないか」 女学生の指導教官は顔を紅く染め唸った。 研究室の他の学生たちもテレビに噛り付き会見中継を見守っていた。 その中にあって件の女学生のみが爪を噛み食いぶるぶる震えていた。 万能3

2014-03-11 15:40:33
アドリア海 @keizi80

女学生はまず (その手があったか) と思った。 なるほど確かに実現すれば画期的な技術だ。 発展如何では恐竜はおろか地球に初めて誕生した当初の原始生命すら この現代によみがえらせることができる。 万能4

2014-03-11 15:41:52
アドリア海 @keizi80

これまで有象無象の仮説でしか処理することのできなかった進化学上の謎を 肉眼によって解き明かすことが可能となるのだ。 それはまさに進化学自体を次元違い高みへと進化させる革命といえた。 (私が手をつけていればよかった) 女学生は臍をかんで悔しがった。 万能5

2014-03-11 15:42:46
アドリア海 @keizi80

(あいつより先に私が手をつけていれば、今頃は私がフラッシュにたかれていたのに) 女学生は忌々しいニュースがさっさと終わることを切に望んだ。 しかしながら日頃芸能スキャンダルばかりを追いかけているその報道番組は、この日に限ってはやけに問題のニュースに執着し、 万能6

2014-03-11 15:45:43
アドリア海 @keizi80

また都会土産のおもちゃを手渡された 子供のように件のニュースに夢中になっている学生教官たちも、研究室の テレビを消そうとはしなかった。 (志の低い奴らめ) 女学生は腹のうちで彼らを軽蔑した。 万能7

2014-03-11 15:46:37
アドリア海 @keizi80

(いやしくも研究者の端くれならば、今回の知らせはむしろ苦々しく受け止めるべきでは ないか。自分の打ち立てるべき手柄がひとつこの世から消えうせたのだから。 その程度の野心も持てずして何が研究者か。大学にまで出てきてテレビの虫になるのならば お前らもうやめてしまえ) 万能8

2014-03-11 15:47:44
アドリア海 @keizi80

女学生は舌打ちすると一人テレビに背中を向け、デスクにて自分の研究を再開した。 女学生の専門もまた同じ細胞生物学であった。 そんな女学生に、テレビの前に座る一学年上のやはり女の先輩が横目をくれた。 万能9

2014-03-11 15:49:22
アドリア海 @keizi80

女学生にはそれが自分をせせら笑っているように感じられた。 <一人だけ熱くなって馬鹿みたい。昔からアンタは自意識過剰ね> そうみられているように思えてならなかった。 結局その日女学生は足早に研究室から退散した。 万能10

2014-03-11 15:50:23
アドリア海 @keizi80

自分がいなくなった後、他の連中が自分の悪口で盛り上がっているかと考えると胸糞が悪くて仕方がなかった。 女学生は途中レストランに立ち寄り、アルコールを一杯引っ掛けると、 よろけ足で帰宅した。 万能11

2014-03-11 15:51:16
アドリア海 @keizi80

趣味で集めたぬいぐるみに囲まれた自室で、女学生はしばし一人泣いた。 自分がかわいそうで仕方がなかった。 なぜこのようなことになってしまったのか。 昔思い描いた未来の自分はこのような姿ではなかった。 万能12

2014-03-11 15:52:38
アドリア海 @keizi80

現段階ですでにフラッシュの渦に飲まれてしかるべき存在であるはずだった。 そうでなくてはならないはずだった。 彼女は机の引き出しから高校時代につけていた日記を取り出した。 自我の洗浄をはからなくてはならなかった。 万能13

2014-03-11 15:53:45
アドリア海 @keizi80

このまま堕落した環境に漬かっていれば、いずれ自分もまた周囲と同じ志の低い 無能に同化してしまうと恐れた。 一刻も早く昔の自分を取り戻さなくてはならなかった。 万能14

2014-03-11 15:54:41
アドリア海 @keizi80

『将来私がなすべき発明No85 今ある細胞を、その遺伝情報を元に、先代の状態へと作り変える技術の構築』 その一ページに、彼女自身の文字でそう記されていた。 女学生ははっとした。 万能15

2014-03-11 15:56:22
アドリア海 @keizi80

彼女はその箇所の記述を何度も何度も食い入るように読み返した。 そういえば、かつてこのメモ書きにあるようなアイデアを自分の中に宿したような記憶が確かにあった。 万能16

2014-03-11 15:57:14
アドリア海 @keizi80

「なんということなの・・・」 女学生は呻いた。 「わたしのほうが先に見つけていたのに・・・」 万能17

2014-03-11 15:59:43