「千の想いを」~第一章・出撃命令・固定イベント#1~
- mamiya_AFS
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窓から入り込む陽光で、書類の文字が見辛くて仕方がない。 …うん、不備は無いかな。 支援艦隊は全ての業務に報告書の提出義務がある。救助・保護をしたのなら、そのされた相手側のサインが必要なのだ。暁達4人の名前が記された書面を束に重ねてから、隣であくびをしている天龍に顔を向ける。
2014-02-24 23:20:01「でもいいのかな。救助者の欄にあたしの名前書いて」 並んで書かれているあたしの名前と、殴り書きの相方の名前を見て呟く。 『何の話だ』と言いたげな天龍の細めた瞳から、つい目を逸らしてしまう。 「だって、助けたのは天龍だけじゃん。あたしは放棄して離れたんだからさ」
2014-02-24 23:25:25気取る様子も無く、いつもの調子で返される。 …。 天龍ならそう言うだろうな、ってわかってる上で聞いたなと自覚する。 「あんたがそう言ってくれるのは…ありがたいんだけどさ…。悪かったと思ってる。ごめんね」 目は逸らしたままで告げる。 ああ、あたしってば最高に卑怯者。
2014-02-24 23:32:48…うん。 一字一句違わずに予想通りの言葉だわ。 付き合いの長さのおかげだという気はしなかった。天龍の性格とボキャブラリの貧困さを知っている人なら誰にでも予測できると思う。 だからこそあたしは卑怯者なんだ。
2014-02-24 23:36:54数分前の光景を思い出す。 病室に入った途端に、飛び掛らん勢いで寄ってきた暁達の姿を。 色違いだけど同じ柄のパジャマを着た4人は、昨日の今日とは思えない程に元気に騒がしくあたしと天龍にくっついてきた。 全身包帯だらけの少女達は『ありがとう』と何回口にしていただろうか。
2014-02-24 23:44:09貼顔の半分を斜めに包帯で覆った雷は『天龍とお揃いになった』と笑っていた。 腫れ上がった頬のせいで喋り辛いに決まっているのに、暁はずっと言葉を止めなかった。 電に至っては泣き始めて、響の包帯ぐるぐる巻きの手で撫で続けられていた。 見てる方が痛いくらいの怪我なのに。
2014-02-24 23:53:10『あたしは助けてない』とか言い出すのなら、あの子達にそもそも会いに行くべきじゃない。 感謝の雨あられを受け止めてから、今更何を言ってるんだと自分でも思う。 多分、というか間違いなく本当に天龍は気にしてないんだろう。そんな相方の性質にあたしは甘えている。
2014-02-24 23:58:38まぁ、もういいけど。 気を取り直し、改めて天龍に顔を向ける。 「さっ、次の仕事をとっとと終わらせちゃいましょ。得意の力仕事よ、よろしく天龍」 目的地は工廠の資材庫の1つ。午後にある搬入の為に、整理と在庫数確認を命じられていた。支援というより雑用な気もするけど、うちの日常だ。
2014-02-25 00:04:02本来は夕張と常盤が担当なんだけど、常盤は演習に行っているし、夕張はお姉の代わりにお偉いさんに呼び出された提督に付いていくらしい。 人手不足もいいとこだ。 天龍がいるから心配はしてないけどね。 「うし、行こう」 長い廊下を歩き出す。
2014-02-25 00:11:53ちなみに。 うちが『第十五』なのだから他にも支援艦隊は複数いる。輸送・搬入等がメインの艦隊も勿論いるわけなんだけど…『一』から最低『十五』までずらりといるわけじゃないのだ。 現在活動しているのは『八』と『十一』、そして『十四』から『十六』の5艦隊のみだったりする。
2014-02-25 00:15:45永久欠番制とでも言えばいいのかな。 艦隊が事実上解散して存在しなくなったとしても、新しく結成された艦隊がその穴を埋めるわけではない。使われていない番号を支援艦隊の頭に戴く事になるのよ。 輸送を専門としている第十一支援艦隊も人数が少なく、全員が出払っているのでうちの出番なのだ。
2014-02-25 00:21:13支援艦隊同士は基本的に仲が良い。メインの業務は違っても、足りない及ばない力や手の数は横のつながりで助け合うしかないからだ。 ただ1つ、曲者揃いで支援艦隊に回された事を喜ばしく思っていない『十四』の連中だけは別だけど。 その話は今度にしておこうか。
2014-02-25 00:26:46背後からの声に驚いて振り返ると、天龍は逆方向へとすたすた歩き始めていた。 「ちょっ…、何言ってんのよ! あたし1人じゃ無理! 大砲の弾よ大砲の! 止まっ…! どこに行くのよ!」 声を荒げる。荒げるしかないじゃない。 重い危ない終わりが見えない、の仕事の代表だもの。
2014-02-25 00:32:51にべも無く言われる。にべってなんだろう。 取り付く島も無い、でもいいけど。 いや、そんなのはどうでもよくて。 「天龍っ! 何よ、やっぱり置いていった事を怒ってるの!?」 その言葉に、彼女が足を止めた。 あう、やっぱり怒ってるの…? 止まったまま振り向かない背中を見詰める。
2014-02-25 00:36:25声色は怒気を含んでいなかった。 あたしの言葉なんて最初から聞いてなくて、深い考え無しに本当に今思い出した、という感じだった。 2人ずつ? 電と響、暁と雷の2人ずつ別になってた事? 本人達に聞いてはいないけど、予想はついた。
2014-02-25 00:40:48「退避の時は分かれるのが基本だからでしょ」 艦隊行動の基礎の1つだ。固まっていては挟み撃ちや囲まれる恐れがある。相手側が、同じく手分けをするか又はどっちを追うかで迷わせ止らせる狙いもある。 戦力が分断するので危険も孕むけど『全滅』の可能性は減らす事ができるからだ。
2014-02-25 00:44:21「死っ…」 死ぬつもりだった? 2人を助ける為に? 暁と雷が? 思ってもいなかった答えに、口と思考が止まる。 その間にも天龍は再び歩き始め、遠ざかっていく。 「え、マジなの…? ほんとにあたし1人にやらせるの? 嘘でしょ…」 あの4人の誰かが欠けている絵が想像できない。
2014-02-25 00:52:42