古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #7

更新七回目のまとめです。 休みをもらった古鷹。一方衣笠は鬼怒に話を聞こうとする。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

深海棲艦の艦隊が鎮守府近海に出没し夜戦になった夜が明けて、私は青葉のベッドに腰かけてぼんやり物思いにふけっていた。青葉はもう部屋にいない。今さっき「取材がありますから」と言って逃げるように出ていってしまった。その頬は、泣きはらした涙で痛々しく腫れていた。

2014-03-15 02:33:03
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

一緒のベッドで眠っていた明け方近く、私は青葉のうなされる声で目を覚ました。「やめて」「ごめんなさい」「嫌だ」かすかに聞き取れたのはそんな言葉だけ。もしかしたら青葉は眠るといつもこうしてうなされていたのかもしれない。それを私に知られたくなくて夜間の当直や哨戒を志願していたのだろう。

2014-03-15 02:42:44
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉を揺り起こすと、一瞬だけほっと安心したような顔をした後、すぐにそれを取り繕うような笑顔で「あれー?やだなあ、変なところ見られちゃいましたね」と言いながらベッドから起き上がり、着替えを始めた。どこへ行くのかと問うと、明らかに嘘とわかる態度で取材だという。

2014-03-15 02:46:26
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この分では昨晩古鷹ねーさんにかばわれたことを相当気に病んでいるようだった。 ――青葉は、助けられちゃいけないのに。 昨晩海上で青葉がつぶやいた言葉が蘇る。青葉がどうしてそこまで古鷹ねーさんと関わることを気に病んでいるのか、私にはわからない。青葉はそれを私にわからせようともしない。

2014-03-15 02:53:07
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

いそいそと部屋を出ていく青葉を呼び止めた。 「青葉」 「……なんですか」 「衣笠さんはもう青葉がなんでそんなに古鷹ねーさんを避けるのか聞かないけど」 「……はい」 「それでも、私たちはずっと変わらず、青葉の味方だからね。それだけは、忘れないでいて」 「……はい」

2014-03-15 02:58:45
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青葉が部屋を出ていった。青葉にかけた言葉の『私たち』には私や加古だけでなく、古鷹ねーさんも含んでいるというニュアンスも込めたつもりだった。青葉に伝わったかどうかはわからないけど、今はひとまずこれでよかったと思うしかない。まだまだ先は長そうだけれど。

2014-03-15 03:02:52
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また眠る気にもなれずにしばらくぼんやりしていると、いつのまにかカーテン越しに外から朝日が差し込んできていた。気が付くとお腹もすいている。青葉はちゃんと食事をしたのだろうかと思いながら身だしなみを整えて部屋を出ると、廊下でばったり古鷹ねーさんと顔を合わせた。

2014-03-15 03:06:57
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「あっ、おはよう衣笠」 「おはよ、古鷹ねーさん。いま入渠あがり?」 「うん。結局朝の出撃までには修復が間に合わなかったから、加古を起こしに来たの」 古鷹ねーさんがちょっと申し訳なさそうな顔で言う。このひと、昨晩あれだけ言われたのにまだ出撃する気だったのかと私は内心あきれる。

2014-03-15 03:11:08
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ふと見ると、古鷹ねーさんが私に何か物言いたげな顔をしていた。いけない、呆れてたのが顔に出てたかと慌てると、古鷹ねーさんがおずおずと口を開いた。 「あの、……青葉のことなんだけど……」 大丈夫だった?と古鷹ねーさんが心配そうな顔で聞いてくる。さて、なんと答えたものだろうか。

2014-03-15 03:14:35
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「……んーまあ、心配ないかな。どこかケガしてたわけでもないし。今朝だって、ピンピンしながら取材だって言って飛び出して行っちゃったくらいよ」 「……そう。なら、良かった」 微妙にはぐらかした私の回答に、納得したのかしていないのかわからないけれど古鷹ねーさんが頷く。

2014-03-15 03:20:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

流石に「青葉は助けられちゃいけない」なんて言っていたとは古鷹ねーさんには言えない。余計に心配させるし、かばったことを気に病ませるかもしれない。そんなことを思っていた矢先に、またも古鷹ねーさんが言った。 「青葉に、迷惑かけちゃったね……」 「もう、またそういう事言う!」

2014-03-15 03:27:08
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「でも、私が近くにいると青葉が辛そうだし……。自分をかばって沈んだ相手が目の前にいたら、顔を合わせたくない気持ちになるのは当然でしょう?」 「そんなことないわよ!青葉が気にしてるのは……」 「それに、加古が沈んじゃってすぐだったから、あてつけみたいに見えたかもしれないよね……」

2014-03-15 03:34:32
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古鷹ねーさんはそんなことを思っていたのか。確かに、古鷹ねーさんが青葉をかばって沈んだサボ島沖夜戦は、加古が沈んだ第一次ソロモン海戦の約二か月後。その時は、撤退時にもう安全だと判断した青葉の指示で、魚雷の狙いを定めさせないための之字運動をやめた直後に潜水艦の雷撃で加古が沈んでいる。

2014-03-15 03:41:32
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

だからと言って、古鷹ねーさんが青葉を恨んでサボ島沖夜戦であてつけで青葉をかばうなんてことするわけがない。青葉だって古鷹ねーさんがそんなことをするひとじゃないことはよく知っている。それなのに。 「古鷹ねーさんは前『青葉に恨まれてると思う』って言ってたわね。それだけはないわ。絶対に」

2014-03-15 03:50:36
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

これだけは確信を持って否定できる。青葉はむしろ、古鷹ねーさんを恨むくらいなら自分を恨むだろう。それも、際限なく。 「そうかな……」 「そうなの!はい、この話はおしまい!ほら、加古を起こしに来たんでしょ?」 古鷹ねーさんの背を押して古鷹型の部屋の前に連れて行く。

2014-03-15 03:55:57
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あれ?加古?」 古鷹ねーさんがドアの鍵を開けて部屋に入ると不思議そうな声を出した。部屋の中には加古の姿はどこにもなく、ベッドはもぬけのからだった。 「加古?どこに行っちゃったの?」 古鷹ねーさんが不安げに部屋の中を見渡す。ふと見ると、テーブルの上に書置きがあった。

2014-03-15 04:03:27
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『出撃してくる 加古』 シンプル極まりない書置きだけれど、どうやら加古は珍しく一人で起きて、古鷹ねーさんの穴を埋めるべく今朝の出撃に参加した様子だ。この鎮守府が今攻略中の南方海域前面は、重巡洋艦の艦娘が羅針盤を回さないと羅針盤が狂って敵の前線司令艦隊にたどり着けないことが多い。

2014-03-15 04:09:29
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

書置きを読んだ古鷹ねーさんが椅子に腰かけてほうと息をついた。 「加古、ちゃんと朝ご飯食べたかなあ……。出撃中にお腹すいてふらふらになってないといいけど」 普段の加古を見ていると古鷹ねーさんがいないとずっと寝てるんじゃないかと思うことはあるから、まあ古鷹ねーさんの心配ももっともだ。

2014-03-15 04:16:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「まあ大丈夫でしょ。長門さんとか他の攻略メンバーもいるんだし。それよりせっかくの休みなんだから、加古の心配ばっかりしてないで古鷹ねーさんも自分のやりたいことやったら?」 苦笑しながら言うと、思いがけず古鷹ねーさんがきょとんとした。 「私がやりたいこと、なにかあるかな……」

2014-03-15 04:21:16
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意外な反応に私も戸惑う。 「えっ、だって、古鷹ねーさん休みの日はだいたい加古の世話焼いてるか、次の作戦海域の資料読んでるかじゃない。普段やりたくてもできないこととか、ないの?」 「あんまりそういうこと考えたことがなくて……」 古鷹ねーさんが無垢な瞳を私に向ける。

2014-03-15 04:25:52
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知ってはいたけどいざ目の当たりにすると、古鷹ねーさんの真面目さというか人らしい欲のなさみたいなものが心配になってくる。今南方海域に加古と出撃しているであろう摩耶がいつか「古鷹ってなんか機械みてーだな」と言っていたのを思い出す。私はその時はそんなことないわよと言い返したけれど。

2014-03-15 04:33:47
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ふと思いついて、私は自分の部屋から雑誌を適当に見繕って持って来て、古鷹ねーさんに渡した。古鷹ねーさんはそれを1ページごとに広告まで隅から隅まで目を通しながら読み始めた。興味を持ってくれたのはいいけれど、雑誌ってそんな読み方をするものじゃないと思う。

2014-03-15 04:40:10
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんたちの部屋を出て、朝食をとりに食堂に向かう。古鷹ねーさんは入渠中に済ませたそうなので、私一人だ。前途多難な先行きに頭を悩ませながら歩いていると、突然亜麻色の風のようなものがお腹にぶつかってきた。すきっ腹に衝撃が堪える。 「痛ったたた!」 「ぶつかっちゃったっぽい!?」

2014-03-15 04:48:31
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目の前でうずくまって涙目で頭をおさえているのは、白露型駆逐艦娘の夕立だ。その後ろから、同じく白露型の時雨が駆けてくるのが見える。 「夕立、大丈夫?だから走っちゃダメって言ったのに。ほら、衣笠さんにごめんなさいは?」 時雨に助け起こされた夕立が言う。 「うう~、ごめんなさい……」

2014-03-15 04:53:11
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夕立の改二になって頭の両側にぴょんと跳ねた髪の毛が頭を下げながら萎れている。大丈夫よと言おうとすると、夕立が私の肩越しに何かを見つけて顔を輝かせた。 「ゆらーっ!お帰りっぽい!」 夕立はそのまま私とすれ違って駆けていく。時雨もぺこりと頭を下げてからあわててそれを追っていった。

2014-03-15 04:58:07