モーサイダー!~Motorcycle Diary~One Year Before III~
- IngaSakimori
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「……ひょっとして、思っていたほど性格最悪のクズ野郎じゃない、とか?」 「俺をなんだと思ってるんだ……お前こそ、口だけの最低女じゃないってことは分かったよ。 すごいよな、どうやったらあんなに速く走れるんだ。 そのバイク……えっと、XRがすごいのか?」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:21:04「ふぅん……まあ、いろいろ問題はありますけれど、素養は十分ですし……こちらも気になりますし……候補としては十分かもしれませんわねえ……」 「おい質問に答えろよ。なに一人で勝手に納得してるんだ?」 「ねえ、志智」 そのとき、少女は初めて少年の名前を呼んだ。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:21:22(……ははっ) 青と黒。左右色違いのくりくりした瞳が見つめている。 思わず息を飲み込みながら、志智は自分の体が硬直していることに気づいた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:21:42「もし、あなたにその気があるなら、わたくしがレッスンしてあげます」 「レ……ッスン? どういうことだよ」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:21:55「あなたの走りは最悪です。 まずアクセルの開け方がダメです。それとクラッチをつなぐときにもラグがありますわね」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:22:12「タイヤの減り方をみれば分かりますけど、フルバンクしているのに全然パワーを伝えられていませんわ。それにそのフロント……なんです? ちゃんとボトムさせてコーナリングしてます?」 「お前が何を言ってるのか、三分の一もわからない」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:22:22「つまり、そんなあなたでも半分くらいはわかるようにしてあげようと言ってるのです」 「………………」 志智はその質問には答えず、スパーダのエンジンをかけた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:22:34「むっ」 「……なあ、一つ聞いてもいいか」 「なんです?」 やはりダメだったか。でもまあ最後の言葉くらいは聞いてやろうか。 亞璃須の表情には、そんな落胆があふれている。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:22:46「お前、年は? 大型バイクなんて乗ってるってことは、案外、大学生とかだったりするのか?」 「ハズレです。あと半月ほどで18になるところですわ」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:23:03「半月……そっか。俺と同い年だけど、俺よりは早生まれなのか」 「それがなんだと言うんです?」 「まあ……俺より長く生きてるやつなら、別にいいかな」 ヘルメットの中で、志智は黒い瞳を笑わせた。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:23:13「いいぜ、その提案受けた。教えてくれよ。あっという間にお前より速くなって、ぶっちぎってやるからさ」 志智はその言葉を、せいぜい数週間。あるいは数ヶ月でお前よりうまくなるという意味で使ったつもりだった。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:23:25「意気込みだけはいいですわね。もっとも、わたくしに追いつく頃には、あなたの寿命がきているかもしれませんね」 亞璃須はその言葉を、何十年。あるいは百年経っても自分の方がうまいのだという意味で使ったつもりだった。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:24:02「それもいいかもな……ちょうどいいかもしれない」 「はい?」 「何でもないよ。また来週の土日でいいか? その後はすぐに春休みだよな」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:24:37「そうですわね。休みの間もみっちりしごいてあげますから、覚悟なさい。 それと、夕方のほうが走りやすいですし、この時間でお願いしますわ」 「わかったよ。じゃあ、その時にな。 ああ、それとさ」 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:24:45「まだありますの、志智?」 「お前さ……日原院━━いや、亞璃須、さ」 少女は知らない。 少年がその名前を口にしたとき、結構な勇気をふるったことを。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:25:17「すこし似てるわ」 「………………は?」 「じゃあな」 「ちょ、志智!? なんですの! 何が似てるっていうんです!?」 叫ぶ亞璃須には答えず、志智は走り出す。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:26:48「すこし似てるわ」 「………………は?」 「じゃあな」 「ちょ、志智!? なんですの! 何が似てるっていうんです!?」 叫ぶ亞璃須には答えず、志智は走り出す。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:26:50時速40kmも出ていない。老人のようなのろのろとした速度で赤いマシンが行く。 (ああ、そうだ) 今日はこのまま都民の森をぬけて、さらに先へ行ってみよう。たしか、地図ではこちらからも自宅の方へ向かえるはずだから。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:29:08「……似てるんだよな」 そんなことを考えながら、開けっ放しのシールドを閉めることも忘れて、三鳥栖志智はつぶやく。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:29:23「お前が……『志智』って言うの……母さんの言い方に、そっくりだ……」 風に舞った小枝が、左の膝でパシリと散った。 #mor_cy_dar
2014-03-23 20:29:34