古鷹青葉を見守る衣笠さんbot #10

更新十回目のまとめです。 衣笠を案じる古鷹。そして衣笠の前に現れた利根の話とは。
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古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

手で顔を拭いながら重巡寮の廊下をとぼとぼ力なく歩く。涙はどうにかおさまったけれど、泣きすぎで頭は重いし鼻も鳴らしたまま。かなり長い間階段の下にいたので夜もだいぶ更けていて、誰かに見咎められて心配される恐れがないのが救いだった。

2014-03-26 01:50:44
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉のために、私に何ができるだろう。あんなに辛い目に遭って、罪悪感に苦しめられて、この世界で再会した古鷹ねーさんをすら避ける青葉に私がしてあげられることなんてあるのだろうか。私の頭の中はそんな思いで一杯で、自分たちの部屋の前まで戻ってきた時、そこに誰かがいることに気付けなかった。

2014-03-26 01:56:27
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

そこにいたのは、私が今、最も自分の姿を見られたくなかったひとだった。 「衣笠!どうしたの、大丈夫!?」 尋常ならぬ私の様子を見てとった古鷹ねーさんが駆け寄ってくる。咄嗟に顔をそむけるけれど、時すでに遅し。古鷹ねーさんが私の手を取って心配そうな声をかけてくる。

2014-03-26 02:03:26
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「ね、何があったの!?」 私の左手を握る古鷹ねーさんの両手に力がこもる。残った右手でそむけた顔を覆うけれど、涙で腫れぼったくなった頬は片手でとても隠しきれるものではなかった。 「な、何でもないの!平気ですったら!」 それでも古鷹ねーさんは私の手を放してくれない。

2014-03-26 02:10:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「そんな、どう見ても何でもないことないよ!衣笠、一体どうしたの!?」 顔をそむけたまま目の端で古鷹ねーさんを見る。私より少し背の低い古鷹ねーさんが私を見上げている。その心から私の身を案じて気遣ってくれている表情を見て、私の心は鉛のような自己嫌悪に押しつぶされそうになった。

2014-03-26 02:14:59
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

いつだって他人の痛みを自分のことのように感じてくれる古鷹ねーさん。誰よりもやさしくて、あたたかいひと。だからこそ、古鷹ねーさんにだけは心配をかけたくなかった。青葉や私のことで、古鷹ねーさんにこんな顔は絶対にさせたくなかった。古鷹ねーさんには、いつだって笑っていてほしかった。

2014-03-26 02:21:08
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「あの、本当に大丈夫ですから!その、目にゴミが入っただけで!」 出まかせが口をついて出るけれど、当然古鷹ねーさんが信じるはずもない。右手で私の手を握ったまま、古鷹ねーさんの左手がそっと私の顔に添えられる。 「嘘だよ……ねえ、私には言えないことなの?私じゃ、衣笠の力にはなれない?」

2014-03-26 02:26:23
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

ああ、また古鷹ねーさんを悲しませて。こんなことを言わせて。こらえきれない涙があふれそうになる。 「ねえ、衣笠……」 らちがあかないと思った古鷹ねーさんが私の手を引っ張って引き寄せようとしたその時、ガラス容器の割れる鋭い音が古鷹ねーさんと加古の部屋の中から聞こえた。

2014-03-26 02:33:20
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

古鷹ねーさんがはっと音のした方向を振り返った。 「あ~……やっちゃった……古鷹ー、古鷹ー?」 続いていかにも眠たそうな間延びした声で古鷹ねーさんに助けを求める加古の声が聞こえてくる。それを聞いた古鷹ねーさんは加古の元に行くべきか私の前に留まるべきかちょっと逡巡した。

2014-03-26 02:38:49
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「衣笠、ちょっと行ってくるからね、すぐ戻ってくるから、ここにいてね?絶対だよ」 幼子に言い聞かせるようにそう言い残すと、古鷹ねーさんは小走りに部屋に戻った。漏れ聞こえてくる古鷹ねーさんと加古の会話を聞くと、どうやら書類作業中の加古がペンのインク壺を床に落として割ったらしかった。

2014-03-26 02:44:46
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

おまけにあたりに飛び散ったインクで書類の大部分が真っ黒に染まったらしく、古鷹ねーさんが慌てている。悪いとは思ったけれど、私は正直なところ古鷹ねーさんの目がそれて助かったと思いながら自分の部屋のドアを開け、室内に戻った。後ろ手に鍵をかけ、自分のベッドに倒れこむ。

2014-03-26 02:51:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

青葉は部屋にいない。また夜間の当直に出ているのだろうか……古鷹ねーさんを避けるために?古鷹ねーさんが私たちの部屋の前にいたことを考えると、その想像はおそらく当たりだろう。古鷹ねーさんは、ねーさんにかばわれてから様子のおかしかった青葉のことが心配だったのに違いない。

2014-03-26 02:58:45
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

でもそれ以前から青葉には避けられ通しだったし、自分が見舞うことが青葉のためになるのかどうかも分からない。そう悩んでしまった古鷹ねーさんが私たちの部屋の前をうろうろしていたところにわたしが帰ってきてしまったのだろう。姉妹揃って迷惑かけて心配させて、情けなさに消えてしまいたくなる。

2014-03-26 03:05:22
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

また涙がにじみ出てきて、枕が濡れる。階段の下の埃っぽい場所に長いこと座り込んでいて制服が汚れているから寝る前に着替えなきゃなどとどうでもいいようなことが頭をよぎる。けれど、再び体を起こす気力もなく私は眠りに落ちていった。

2014-03-26 03:11:48
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

翌日朝、私は食堂で一人で朝食をとっていた。古鷹ねーさんや加古がいつも朝食をとる時間とはわざとずらした。昨晩「ここにいて」と言われたのに心配されたくなくて部屋に戻ってしまったのがうしろめたく、古鷹ねーさんと顔を合わせづらかったこともあるし、しばらく一人でいたかったせいもある。

2014-03-26 03:23:02
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「はあ……」 何度目か知れないため息が漏れる。食欲なんてないけれど、明日は出撃の予定が入っていることを考えると、少しでも食べ物をお腹に入れて気力を取り戻しておかなければならない。そうは思うけれど、どうにも箸は進まない。さらにもう一度ため息をついた時、私は視線を感じて顔を上げた。

2014-03-26 03:29:21
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

見ると、私の座った長いテーブルの対角線の位置から、重雷装巡洋艦娘である大井さんが私にじっと視線を投げかけていた。最初は大井さんに睨まれていると思い、また私何かやったかと頭を巡らす。けれど、よく見れば大井さんは私を睨むと同時に何か別の感情も混ざっているような複雑な表情をしていた。

2014-03-26 03:39:24
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それを不可解に思いながら見返していると、大井さんの隣に座っていた同じく重雷装巡洋艦娘の北上さんがふらふらと立ち上がった。大井さんが慌ててそれを支え肩を貸しながら食堂を出ていく。血の気が引いてかすかに震えていた北上さんの顔が妙に心に残った。そして、その場で二人を見送った艦娘が一人。

2014-03-26 03:47:37
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

黒髪のツインテールがくるりと振り返って私の方を見た。利根型重巡洋艦娘の利根だ。そして、そのまま私の方に近づいてくる。 「お早う、衣笠。ご機嫌いかがかの?」 ああ、うんと曖昧な返事を返す。私と格別仲がいいというわけでもない利根が、一体何の用だろうと訝しむ。

2014-03-26 03:54:38
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

それに、いつも利根と一緒にいる筑摩の姿が見えないのが気になった。そんな気持ちが顔に出ていたか、利根が苦笑しながら言った。 「そう怪訝そうな顔をするでない。ちと衣笠に用があっての。すまんが、時間をもらえるか」 「ええ……」 そう答えながらも、私の心臓はある予感に早鐘を打っていた。

2014-03-26 04:00:25
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「鬼怒から話を聞いた。お主、青葉の過去を調べとるそうじゃの」 ああ、やっぱり。利根の方からその話を持ち出してきたということは、つまり。 「それで、吾輩らも協力できるかと思ってな……呉で青葉と一緒におった艦娘たちを集めた」 本来なら、向こうからの協力を喜ぶべきところだった。

2014-03-26 04:07:43
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

けれど、私の心は喜ぶどころか冷たく凍りついていくかのようだった。利根は話の間中斜め下に目をやり、わずかに話しづらそうにしている。その態度が、私に暗澹たる未来を暗示している。そして、その予感を裏付けるかのように利根が言った。 「じゃが……お主には、かなり辛い話になるやもしれん」

2014-03-26 04:15:22
古鷹青葉を見守る衣笠さんbot改 @dairokusentai

「それでも……聞く気があるかの?」 利根の問いに、私は一瞬ためらった。そして、ほんのかすかに首を振り、頷いた。 その選択を、悔やむことになるとも知らずに。

2014-03-26 04:22:26