ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド #02
「美人で聡明な保安官殿ならきっと信じてくれると思うんだ。たとえばそう、今俺の目の前にいるような?」 ソフィアはひょいと肩を竦め返し、にっこり笑って――そのまま銃を引き抜いた! 「地獄に堕ちろ、クソ野郎!」 銃弾が連続して足元を掠め、ウィルは悲鳴を上げてダンスを踊る。 24
2014-03-26 19:25:35「危ない危ない危ない! 当たる当たる当たっちゃう! 悪かった! 身分を詐称したのは謝るからギブッ、ギブだって!」 銃弾の雨がやみ、ウィルはその場にへたり込む。ソフィアは完全に獲物を狩る目だ。 25
2014-03-26 19:26:18「ヘイヘイヘイ、騎兵隊のガンマン相手にシラを切ろうってのが間違いなんですよ。洗いざらい残らず吐く気になりました?」 「き、騎兵隊!? 保安官じゃなくて?」 「ハイ、ご覧下さい。こちら素敵な銃口です。質問してるのは、あなた? あたし?」 26
2014-03-26 19:27:11「ハイ! 尋問されてるのはわたくしです! ガンマン殿!」 熱々の銃口を目の前にかざされ、ホールドアップの姿勢でブンブン頷く。とんでもないことになった。 騎兵隊というのは、ガンマンたちによる私設の戦闘集団だ。 27
2014-03-26 19:27:58議会傘下の国軍とは一線を画し、自らの意志によって開拓者たちを守る組織である。その目的は西部開拓の続行、そして集落の防衛。 よって今日では『フライングデッドと戦うガンマンたちの集団』といえるだろう。その辺りは十年経っても変わってないはずだ。 28
2014-03-26 19:28:37もちろん相手がゾンビでなくても、開拓者に害なす者であるなら彼らは戦う。たとえば集落を荒らすコヨーテやハイエナの群れなんかがそうだ。 つまり彼らにとって開拓者でない者はすべて敵。 およそ今のウィルが一番出会ってはいけない相手であった。 そのソフィアが鬼気迫る笑顔で話を続ける。 29
2014-03-26 19:29:13「ねえウィル、今からあたしが懇切丁寧に教えてあげます。始まりはね、ある朝のことでした。その日の食事当番はライフル使いのアレシア・グレン。彼女はとても優秀な部下ですが、たった一つ欠点を上げるなら、毎朝必ずといっていいほどあたしの前にビーンズフライを並べること」 30
2014-03-26 19:30:38「あたしの! 朝は! パンケーキだ! 再三そう言ってるにも拘わらず、彼女はビーンズフライを並べてくるの。 まあね、アレシアの言う栄養面の重要さも分からないではありません」 31
2014-03-26 19:31:18「だからあたしはビーンズフライを食べる。我慢してビーンズフライを食べる。ささやかな抵抗として、搾りたてのミルクを『これでもかぁぁぁっ!』とぶっかけて。でも問題は今日。そう今日の朝起こった。いいですか?」 32
2014-03-26 19:31:40「ミルク・ザ・ビーンズフライを頬張ろうとしたその時でした。幕舎に駆け込んできたのは投げ縄使いのジェイコブ・パーカー。彼は言いました。あたしの背中を盛大に叩きながら。そう、盛大に叩きながらね?」 34
2014-03-26 19:32:52「『やべえぜ、お嬢! 補給馬車ん中にあったはずの黄金の銃弾がごっそりなくなってやがる! こりゃあ強盗団にでもやられたくせえな! あっはっはっは、シャレにならん!』。食事中に背中を叩かれたあたしはどうなったか?」 35
2014-03-26 19:33:22「そうです、顔面からいきました。お気に入りのブラウスは見事にミルクとビーンズでぐっちゃぐちゃ。せっかく首都で買ったのに! 高かったのに! ねえ、ウィル、考えてもみて? そりゃあ盗まれた黄金の銃弾の奪回任務を志願しますよね?」 36
2014-03-26 19:33:59「そりゃあ連絡役らしき若者を見たら容赦しませんよね? はい、ウィルにとってとってもお勉強になるお話でした。さあ選んでくれていいですよ? 今すぐ脳天風穴ショットされるのか、アジトの場所を喋ってから脳天風穴ショットされるのか、どっちがいい?」 37
2014-03-26 19:34:23「……えーと…………」 とりあえず懇切丁寧な説明でソフィアの事情はよく分かった。 というか、彼女は窃盗そのものよりも、自分のブラウスがダメになったことの方にお怒りではなかろうか。でもそれを指摘したら頭の風通しがよくなりそうなので黙っておく。 38
2014-03-26 19:35:05「あと三秒待ちます。カウント3であの世逝き。はい、いーち! にーい!」 「ちょ、ちょちょ、ちょっと待って! 待ってって!」 39
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