【twitter小説】水中に沈む花#4【ファンタジー】

スキュラの住む観光都市を訪れた二人の観光客。彼らはこの街の名物を観光しに来ましたが、二人はそこでアクシデントに見舞われます。小説アカウント @decay_world で公開したファンタジー小説です。この話はこれで終わりです
ファンタジー Twitter小説 減衰世界
rikumo 576view 0コメント
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  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:22:47
     その化け物は湖の底でまどろんでいた。化け物は赤い蛸のような生き物で、漏斗のような口から赤い靄を吐き続けている。パイナップルのような模様がついた赤斑の胴体には、幾つもの眼球が見える。それがうとうとと半分閉じられていた。 89
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:26:00
     傍らには紫色の蔓がたくさん伸びている水中花の花があった。もうすぐ咲きそうな蕾がはちきれそうに膨らんでいる。薄くピンク色に色づき、豊かなグラデーションを見せている。しかし化け物はその美しい花には興味が無いようだった。 90
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:29:25
     この化け物はかつて邪悪な思考を持った召喚師が異世界から呼び寄せたものだ。召喚師は水中花の実を手に入れるため、この化け物を使って湖を封鎖しようと思ったのだ。だがこの化け物は知能が高く、召喚師を裏切った。 91
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:34:12
     召喚師はもはや湖の藻くずと消え、この名前もついていない化け物は長らく湖の支配者となった。偽りの神託でスキュラ達を操り、近づくものあれば赤い靄で溺れさせてきた。そして、毎年のように生贄を食らい成長してきたのだ。 92
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:38:37
     今年も同じように生贄を手に入れるはずだった。約束の時間は近い……神殿で儀式が行われ、湖と繋がっている洞窟に生贄が投げ込まれるはずだった。だが、奇妙な振動が湖に響き渡った。これはどういうことか? 化け物はゆっくりと覚醒する。 93
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:41:33
     次の瞬間、轟音をあげながら大きな渦が湖に巻き起こった。水門が開かれたのだ! この水門は湖の水を流して漁をする祭事のときにしか開かれないはず……その際は化け物は安全な場所に避難するのだが、何故今水門が開かれたのか!? 94
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:47:52
     化け物は突然の出来事に動転しながらも、必死に岩にしがみついた。渦に巻き込まれたらひとたまりもない。凄まじい勢いで湖の水が流されていく……気がついたときには、辺りの水は無くなっていた。干潟のように浅い水が張られた泥の平原が広がっている。 95
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:52:13
     はやく逃げないと……化け物は焦った。赤い靄で誰かが近づく前に溺れさせてきたのだ。いまやその赤い靄の水はない。漏斗のような口から赤い靄を吐きだす。空気中を飛び交うタイプの物だ。だがこれは化け物を守れるほど強くはない。 96
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:54:53
     ダムのような形で水を溜めていた湖は、もはや水を失っていた。グレイソフィア神殿の外観がはっきりと月明かりに照らされた。暗いうちに逃げなければ……もし誰かに見つかったら化け物は殺されるだろう。あくまで無敵なのは水中でのみなのだ。 97
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 15:58:03
     化け物は泥をかき分けて逃げだした。だが、進行方向に蛍のような燐光が浮遊していたのを見つけてしまった。あれは光源だ。誰かが近寄ってくる……逃げなければ! 急いで化け物は方向転換する。ぱちゃぱちゃと足音を立てて誰かが追いかけてくる! 98
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-04 16:01:02
    「逃げちゃだめだよ、化け物さん。これから漁が始まるんだから」  追いかける足音の主は、そう化け物に告げたのだった。 99
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:06:02
     レッドは化け物を追いかける。化け物はたくさんの触手を這いずらせながら泥地となった湖を逃げる。どこに逃げるかも分からない。赤い靄を必死に吐きながら化け物は逃げた。必死に逃げては、後ろを振り返る。 100
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:13:09
     光源はゆらゆらと化け物を追ってきた。光源の光が泥地の水に反射して丸いスポットライトのような光のステージを作る。その上を走って追いかけるのはレッドだ。何故か彼の足は泥地に沈まず、硬い道路を歩いているように走っていた。足跡の代わりに水の波紋が広がる。 101
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:16:35
     洞窟のようなせまい場所では威力を発揮した赤い靄も、広い湖の底では風で流されて拡散してしまった。化け物はそれでも必死に靄を吐き、這いずり逃げる。しかしレッドとの距離は縮まるばかりだ。ふと、化け物は湖に空いた穴を見つける。 102
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:20:17
     水門だ! 化け物はようやく助かった気がした。水門の近くには地下神殿へと続くトンネルがある。地下神殿は水門を開けると水没する仕組みだ。トンネルに入って地下神殿に逃げおおせれば、赤い靄の水で絶対的な防御が完成する。 103
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:28:24
     もう少し……もう少しで水門だ。化け物は喜びでいっぱいだった。だが、彼は忘れていた。誰かが……水門を開けたと言う事実を。水門の近くにも神殿のような建物が泥を被って存在していた。水門も地下神殿と繋がっているのだ。その扉が闇の中で開く。 104
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:33:00
     化け物は闇の中深い水を湛える淀みの中へ飛び込もうとした。だが、何かにぶつかった。誰かがいる! 化け物は驚いてめちゃくちゃに触手を振り回す。だが、ぶつかった誰かには何故か当たらない。化け物はその誰かに蹴られて吹き飛ばされた。 105
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:39:50
    「フィル、そこにいるのか。てっきり水門の渦に流されたのかと思ったぜ」 「冗談きついよ。君が安全だって言ったのに」  フィルとレッドは闇を隔てて短い言葉を交わした。レッドは化け物に追いつき、光源は化け物の頭上に移動する。 106
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:46:51
     化け物を中心に光のステージ……いや、処刑場がこしらえられた。レッドは拳を握り、ゆっくりと化け物に近づく。 「水中花の甘い汁を吸ってた蝶が、こんな化け物だったなんてね」  レッドの拳が熱を帯びる! 107
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:51:54
     化け物はめちゃくちゃに触手を振り回すが、レッドには触れることすらできない。レッドは触手をかいくぐり、化け物の胴体に右拳をめり込ませた! 次の瞬間、化け物は身体中から火を噴き出し絶命した。 108
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 16:58:07
    「一件落着、ってな」 「観光を始めようじゃないか。僕らは化け物を退治しに来たんじゃない、水中花を見に来たんだろう?」  化け物の身体は火の粉を噴き上げながら、あっという間に灰になってしまった。 109
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-05 17:05:02
     火はすでに消え去り、光源がゆらゆらと揺れて、湖は闇に沈んでいった。 110
  • 減衰世界 @decay_world 2013-11-06 16:42:11
    ――水中に沈む花 エピローグ

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