ヒフウ・イン・ナイトメア・フロム・リューグー#4

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@nezumi_a

「アタシャ反対したんだ、あんな工場。こんな天気が続いちゃ花火も上げられないヨ」「夏なら台風で天気が荒れるのは当たり前だ」「アンタのオヤジさんだって今回の漁で」「オヤジは海で死んだ、漁師ならそういうこともある……」海神。工場。海の事故。その単語に蓮子とメリーは目配せをする。25

2014-03-29 21:29:52
@nezumi_a

「その、海神さまのお話、詳しく聞かせて頂いてもよろしいでしょうか」店内がネガポジ反転する。ガガーン!そして雷鳴。「帰れなくなりましたし」すぐに外から激しい雨音が聞こえてきた。26

2014-03-29 21:31:09
@nezumi_a

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2014-03-29 21:31:42
@nezumi_a

白い光が無機質な室内を照らす。タタミ二十枚程度の部屋は、数台のUNIXの稼動音とタイピングの音が静かに響き、ここが最新鋭の施設であることを物語っている。ここはバイオマグロ養殖施設の指令センター。今はヨロシサン製薬の研究員と思しき男が通信をしていた。28

2014-03-29 21:33:13
@nezumi_a

スクリーンの前に立つ白衣の人物はこの施設の責任者兼主任研究員だ。通話モニターに映る人物が問う。「サザジマ先生、進捗はどうなっているか」白衣の人物、サザジマ先生が答える。「ハイ。バイオマグロの養殖、並びにマグロ爆弾プラントは快調に稼動しています。売り上げノルマ達成も余裕です」29

2014-03-29 21:39:35
@nezumi_a

「そんな事はどうでもいい。そちらには重要な仕事を任せてあるはずだぞ?」通話の相手はヨロシサンキョート支部の部長代理だ。「その点も大丈夫です!こちらのデータの通り、クローンヤクザの局地的対応計画は基礎研究が終わり、試作のマリンヤクザ二十体も完成しました!」30

2014-03-29 21:41:16
@nezumi_a

「ううむ、予定通りだ。素晴らしいぞサザジマ先生!マリンヤクザは光合成タイプや都市部向けのバイオ鹿兵士と合わせた来期の目玉商品となる。くれぐれも納期遅れなど無いようにな!」「ハイっ!そこはもう万全です!」ナムサン!マリンヤクザとは一体!?31

2014-03-29 21:43:11
@nezumi_a

「ハイっ!そこはもう万全です!」「今回の査定次第では君の配属も変わるかもしれん。ガンバリたまえ。以上だ」「アリガトウゴザイマス!」「ドーモ、オツカレサマデシタ」「ドーモ、オツカレサマデシタ」二人はモニターごしにオジギをする。そこで通話は終了した。32

2014-03-29 21:45:29
@nezumi_a

サザジマ先生は通話を終えるとモニターのひとつを操作した。映し出されたのは通常のクローンヤクザ培養槽よりもふた回りほど大きなクローン槽。中には……おお、なんだあの影は!読者の皆様は心を強く持っていただきたい!33

2014-03-29 21:48:08
@nezumi_a

培養水槽の中を泳ぐのは、上半身が屈強な成人男性、下半身はイルカめいた姿という異形存在!これは古事記に伝わる人魚か!?否!水槽を泳ぐその姿は、水中ゴーグルを兼ねるサイバーサングラスを装着しており、紛れもなくクローンヤクザY-13型!34

2014-03-29 21:48:51
@nezumi_a

これこそは先の会話の焦点にして、クマノイセ近海における漁船事故の主因、マリンヤクザ!ヨロシサンの暗部が産み出したサイエンティッククリーチャーだ!サザジマ先生は館内音声のスイッチをオンにした。「ドーモ、お待たせしましたスキュレー=サン、実験を始めたいのですがよろしいですか?」35

2014-03-29 21:52:08
@nezumi_a

モニターの向こう側は広いプールめいた区画になっている。バイオマグロの生簀と、その端に立つターコイズブルー装束のニンジャが見える。そう、ニンジャである。「こちらは準備完了だ先生。いつでも始められる」「それではよろしくお願いします。まずは前回の続きの二十匹同時制御から」36

2014-03-29 21:55:13
@nezumi_a

「いきなり百匹でも構わんぞ」「いえいえ、段階的にデータを集めたいので、お手数ですがお願いします」「分かった。では始めるとしよう」スキュレーと呼ばれたニンジャはズルズルと足を引きずるように歩くと、「イヤーッ!」華麗な回転ジャンプを繰り出し、そのまま生簀へと飛び込んだ。37

2014-03-29 21:58:20
@nezumi_a

サザジマ先生はプールのモニタと、何らかの計測データを映し出している画面を神経質な動きで交互に監視する。十秒が経過し、二十秒が経過したところで生簀プールに変化が生じた。水面に円を描くように波が立ち始めている。渦の中央にはスキュレーと呼ばれたニンジャのシャチ型メンポ頭巾が見える。38

2014-03-29 22:01:16
@nezumi_a

額からは鋭角のツノが突き出し、ジゴクのオニめいたアトモスフィアを醸し出している。「イヤーッ!」スキュレーがキアイのシャウトを放った。すると、渦を巻いていたプールが突如乱れ、そして見る間に逆回転を始めたではないか!これは一体何が起きているのか?「先生、ケージを開けてくれ」39

2014-03-29 22:03:33
@nezumi_a

「ヨロコンデー」先生はスキュレーの要請に従い手元のレバーを倒す。ガゴン!スキュレーの居た生簀プールの一部が開放された。「ゆくぞ、イヤーッ!」スキュレーが叫ぶと渦が弱まり、何かが生簀プールの開放ブロックへと流れ出す。スキュレーの周囲で波を起こしているのはバイオマグロの群れだ。40

2014-03-29 22:05:48
@nezumi_a

いかなるジツの作用か、バイオマグロはスキュレーの意思に従って泳いでいるのだ。スキュレーと二十匹のバイオマグロは生簀プールを出て、入り江へと進出。スキュレーの動きは先ほどのプールサイドでの鈍重さを感じさせない素早さだ。スキュレーはバイオマグロを意のままに操る。41

2014-03-29 22:10:40
@nezumi_a

マグロは複雑な航跡を描き、時には海面から跳躍もする。「スキュレー=サン、ケージを四つ開放しました。四十匹はただのバイオマグロですが、残りの四十匹は爆弾加工済みです。爆弾マグロだけを標的ブイに命中させてください」ナムサン!バイオマグロ爆弾は衝撃が与えられると爆発する仕組みだ!42

2014-03-29 22:13:51
@nezumi_a

いかにニンジャといえども四十匹ものマグロ爆弾の炸裂に巻き込まれれば無事では済まない!アブナイ!そしてサザジマ先生の言葉の通り、スキュレーの元に集うマグロの魚影が見える。「たやすい事だ、イヤーッ!」スキュレーは両手の人差し指と中指の二本の指を額のツノにかざす!43

2014-03-29 22:15:45
@nezumi_a

スキュレーに向かっていた爆弾マグロは進路を変更、スキュレーにアイサツするように至近距離を回ると入り江の出口付近に浮かぶ標的ブイへとまっしぐらに泳いでいく!直後、KRATTTOOOOOOOOMM!!水中に巨大な閃光!轟音と共に水柱が立ち上がった!その高さ三十メートルは下らない!44

2014-03-29 22:19:06
@nezumi_a

恐るべきマグロ爆弾の威力!残りの通常バイオマグロはスキュレーを取り巻くように泳いでいる。その数、六十匹きっかり!何たる精密制御!「素晴らしい結果ですスキュレー=サン、今日の試験はここまでです。オツカレサマデシタ」「オツカレサマデシタ」サザジマ先生の声は喜色に満ちていた。45

2014-03-29 22:22:16
@nezumi_a

モニター室にいても分かるほどの爆発。散発的な効果になりやすいマグロ爆弾を、一点集中の兵器として運用する事が出来るようになったのだ。これで漁船など問題ではない。湾岸警備の装甲艇をも一撃で粉砕することだろう。これによって商品価値が上がり、当然自分の評価も上がるだろう。46

2014-03-29 22:24:34
@nezumi_a

次の査定を待ち遠しく思いながら通信をオフにした。サザジマ先生はスキュレーの事をキョート支社に報告をしていない。「これはサプライズなのだ。マリンヤクザ完成に加え、バイオ生物制御テクノロジーの足掛りが得られたとなれば、私の評価は上がり、こんなイナカ研究所とオサラバだ!」47

2014-03-29 22:28:42
@nezumi_a

チャイムが鳴り、画面を見るとスキュレーがバイオマグロを引き連れて生簀プールに戻るところだ。「スキュレー=サンのキネシスは実際タナからオハギだったが、最大限に活用させて貰うとしよう」サザジマ先生はキョート暮らしを思い描きほくそ笑んだ。48

2014-03-29 22:30:31
@nezumi_a

施設に戻ったスキュレーを出迎えたのもニンジャだった。ネイビーブルー装束のニンジャは、名をテルビューチェという。体格に対しアンバランスな大きさの頭部からは不穏なアトモスフィアが漂う。腰に提げた長さ五十センチ程のノコギリめいた得物は、彼の名と同じテルビューチェという名前の武器だ。49

2014-03-29 22:36:25