ヒフウ・イン・ナイトメア・フロム・リューグー#4

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@nezumi_a

テルビューチェとは古くは江戸時代から存在し、木製の棍棒にサメの牙を取り付け刃の代わりとした武器が源流である。テルビューチェが持つ武器も、強化PVC製のバトンにバイオサメの牙が接着されているものだ。 「ドーモ、スキュレー=サン、お疲れ様です」50

2014-03-29 22:38:19
@nezumi_a

「ドーモ、テルビューチェ=サン。そんなに堅苦しい挨拶はなしでいいだろう」プールから上がりながらスキュレーが苦笑する。「分かっている……」テルビューチェはスキュレーから目を逸らす。その異形の身体から。水から上がったスキュレーはズルズルと這いずるような音を立てて移動する。51

2014-03-29 22:41:33
@nezumi_a

ニンジャ装束から出るスキュレーの足は何かが寄り集まったような形状をしており、歩行ではない移動で進んでいるのだ。テルビューチェはザイバツからヨロシサンへと派遣されたニンジャである。アデプト位階へと昇進した矢先に、ガイオンから僻地ともいえるこの研究所の連絡員としての辞令を賜った。52

2014-03-29 22:43:17
@nezumi_a

メンターであるマスターニンジャ、ブルーオーブは「これは面倒な任務ではない。すべき事を済ませれば後は任期が終わるまで楽な仕事だ。バカンスのつもりで行って来い」と言っていた。実際、このプラントへ異動になって半年ほどで師の言う「すべき事」は済み、それ以降はこれと言った厄介もなかった53

2014-03-29 22:46:34
@nezumi_a

仕事といえば定時連絡と報告書作成程度で、危惧されるヨロシサンと敵対するメガコーポの襲撃もない。パトロール任務のあったアプレンティス時代の方が忙しいくらいだが、いかに暇を持て余していようともテルビューチェはザイバツニンジャであり、ヨロシサン職員からもそのように扱われてきた。54

2014-03-29 22:51:45
@nezumi_a

前任者の根回しもあるのだろう、ヨロシサンはザイバツに対して畏怖と敬意をもって接している。テルビューチェは、ヨロシサン勤務を格差社会実現の為と割り切り、ゲスト待遇に踏ん反り返っていた。サケとスシとオイランには困らない生活だったが、二ヶ月ほど前に起きた事故によって平穏は破られた。55

2014-03-29 22:53:47
@nezumi_a

ある日、研究員の一人がバイオマグロの生簀に落ちるという事件があった。それだけならチャメシインシデントだったが、瀕死で引き上げられた職員にはニンジャソウルが憑依していたのだ。テルビューチェは直ちに新たなニンジャの出現をザイバツ本部に報告した。56

2014-03-29 22:59:23
@nezumi_a

貴重なニンジャ資産を失わない為その日の内に緊急手術が施された。幸か不幸か、この施設はマリンヤクザの研究をしていたこともあり、義肢や臓器、移植手術に慣れた医師に不足は無かった。身体の大半を失っても死ななかった強靭なニンジャ生命力は、バイオ義肢の移植手術にもよく耐えた。57

2014-03-29 23:02:59
@nezumi_a

そしてその職員はバイオニンジャとしてICUから自分で出てきたのだ。監督役として来ていたマスター・ブルーオーブも、新たなザイバツニンジャの誕生をブッダオハギだと喜んだ。その時のテルビューチェは後輩が出来た事を深く考えずに喜んだが、実のところ報告しなかった事がある。58

2014-03-29 23:06:35
@nezumi_a

研究員がマグロ生簀に落ちたのは、事故ではなく自分が退屈しのぎに軽い気持ちで足場のロックを解除して落とした事を。元研究員は入団の儀式を受け、スキュレーというコードネームを与えられた、ヨロシサンとの提携の問題と上層部のゴタつきにより受け入れ先が無く、すぐにこの施設へと戻された。59

2014-03-29 23:08:12
@nezumi_a

その為、テルビューチェがアデプト位階でありながら、身元預かりを任されているのが現状だ。「術後の経過はどうだ。スキュレー=サン」「問題ない。ジツの使い方もだいぶ馴染んで来たところだ」「それは何よりだ。サザジマ先生は報告を遅らせているようだが」60

2014-03-29 23:11:18
@nezumi_a

「自分の手柄を大きく見せるタイミングを見計らっているんだろう」スキュレーはシャチの頭部を模したメンポの奥で軽蔑的に笑った。元上司が自分に敬語を使うようになった事を笑っているのだろうか。自分も嘲笑われているのではないか。テルビューチェはスキュレーの頭巾から突き出す角を見る。61

2014-03-29 23:14:24
@nezumi_a

それは六回目の手術で追加になった物だ。ニンジャソウルを宿す遺物。施設拡張工事の際に発掘された物らしい。「テルビューチェ=サン」「な、なんだ」テルビューチェは内心の動揺を隠して答える。「私は……何者なのだ?ヨロシサンのバイオニンジャなのか、ザイバツのニンジャ戦士なのか」62

2014-03-29 23:17:47
@nezumi_a

「それは俺にも分からん。お前も知っているだろうが、俺も見習いを卒業したばかりなのだ」「新人研修明けでこんな所に配備か、出世コースは明るいな」「ウルセェ!」ニンジャとしての経験は上だが、組織に属する者としての経験は相手の方が上なのだ。63

2014-03-29 23:21:48
@nezumi_a

暫定辞令から二ヵ月が経つ今でも、何の連絡も進展もない。「ザ、ザイバツもお前の能力に興味を持っている」内心を隠しつつテルビューチェは言った。「だが聞いたぞ、ザイバツはサイバネやバイオ義肢のニンジャをよく思わないらしいじゃないか」とスキュレー。64

2014-03-29 23:24:25
@nezumi_a

「フン、耳聡い事だな。確かにそれある。ニンジャは貴い存在であり、その肉体は故意に損なわれるべきではないという考えだからだ。とはいえイクサの負傷やオヌシのように事故で義肢を使う事になったニンジャも少なからず存在している」65

2014-03-29 23:25:45
@nezumi_a

スキュレーの身体はヨロシサンの技術に大きく依存している。しかし身体がどうあれ、そして憑依の経緯がどうあれ、スキュレーのロードへの忠誠は厚い。人間性を捨て、格差社会の実現のために粉骨砕身の覚悟を持っている。テルビューチェはそう見立てていた。66

2014-03-29 23:29:35
@nezumi_a

だが、その肉体が彼の忠誠を阻む。ヨロシサンという枷が。それをスキュレー自身も感じるのだろう、時折こうした焦りともつかぬ感情を見せる。開発中のマリンヤクザやマグロ爆弾は、水路まで管理されているキョートではあまり有効ではない。これらは網の目のように運河が走る場所で効果を発揮する。67

2014-03-29 23:32:05
@nezumi_a

つまり、ネオサイタマ。テルビューチェは、この施設の研究はネオサイタマ侵攻の為だと理解している。アマクダリを打倒し、ネオサイタマも支配下に置くためのオオイクサ。その戦いにおいて、バイオ水軍を率いる先鋒としての栄誉を賜るのは水上戦を得手とするニンジャ。つまりは自分だと思っている。68

2014-03-29 23:34:23
@nezumi_a

テルビューチェは自分がニンジャになった時の事を覚えている。人間時代のテルビューチェはコケシ工場で働く下層労働者だった。オスモウ賭博のイカサマで借金を背負い、臓器も売るだけ売ってもどうにもならなくなり、遂にビルから飛び降りた所でアセンションが起きた。69

2014-03-29 23:36:27
@nezumi_a

ザイバツニンジャとなっても使われる側だったが、自分にはむしろ馴染みのあるシステムだった。ハグルマ気質の自分が、ザイバツの大仕事の一助となれる。偉大なるロード・オブ・ザイバツの支配する格差社会の礎となる。辞令はまだだったが、適任は自分だと信じていた。70

2014-03-29 23:38:27
@nezumi_a

しかし、弱者であるはずの人間の研究員が、ある日突然自分よりも強大なニンジャになった。しかも自分が請け負うであろう任務に、自分よりも高い適正を示している。テルビューチェはスキュレーに宿ったソウルが強大さから、マケグミ本能的に自分が虐げられる可能性を嗅ぎ付けていた。71

2014-03-29 23:40:34
@nezumi_a

そして、いつの日かマグロ生簀に落としたのが自分だと発覚し、復讐されるのではないかという恐怖に怯える日々が続いていた。「一度マスターに相談してみる。だが身体がどうあれ肝心なのは手柄の積み重ねとロードへの忠誠心なのだ」「うむ。偉大なるロードのために」「ロードのために」72

2014-03-29 23:42:20
@nezumi_a

「「ガンバルゾー!」」バンザイチャントを唱えた二人のザイバツニンジャは研究所の通路へと消えていった。73

2014-03-29 23:44:08
@nezumi_a

#4 終わり #5 へ続く

2014-03-29 23:45:07