ゴールドラッシュ・オブ・ザ・デッド #06
雪崩のようなゾンビの猛攻をせき止めながら、ソフィアは言葉を失った。 今、ウィルはどこから現れた? 完全に包囲されたこの状況で、一体どこからどうやって? いや、そもそも――。 「フライングデッドを殴って斃した!? どういうことですか!?」 1
2014-04-04 19:18:24ウィルに殴られたゾンビ共は黄金の炎に焼かれて灰になっていた。それは黄金の銃弾と同じ効果だ。 黄金にはフライングデッドの不死を無効化する力がある。それを銃弾の形に精製したのが黄金の銃弾だ。だが銃弾以外の形で黄金の力を用いる方法など、開拓者には存在しない。 2
2014-04-04 19:18:52「ギュルァァァァ! どうしてあの女を選んだのあたしじゃいけなかったのずっと一緒にいるって言ったのに殺してやる殺してやる殺してやるぁぁぁぁぁッ!」 「しまっ――」 いつの間にか囲まれていた。オシャレな格好のゾンビがこちらへ牙を剥く。 3
2014-04-04 19:19:28「危ない、ソフィア!」 「え……っ!?」 横から現れたウィルがゾンビを殴り、すかさずソフィアを抱えて飛び退いた。 「あ、あなた今あっちにいたはずじゃ……っ」 4
2014-04-04 19:19:59ウィルは今、ケヴィンの隣にいたはずだ。それがなぜ一瞬で自分のところに移動しているのか。 「それは二番目の俺だよ」 「は? 何言って……、――って、あれ!?」 見ると、あっちにもウィルがいた。 5
2014-04-04 19:20:30自分の目の前と、ケヴィンのところ。ウィルが二人いる。 「え? え? なに、なにこれ? あなた、双子だったんですか!?」 「何を言ってるんだ、双子なわけないよ。ここまで馬車で一緒にきたじゃないか」 「だ、だってあっちとこっちで二人いるじゃないですか!」 6
2014-04-04 19:21:05「二人じゃない! 三人目もいるぞ!」 「はいっ!?」 あらぬ方向からした声に目を向ける。右の通路からやってくるゾンビをウィルがぶん殴っていた。三人目だ。ウィルが三人いる。 「ど、どういうこと!?」 7
2014-04-04 19:21:32「それなら左の通路は俺が食い止める! ソフィアと俺は早くケヴィンのところへいってくれ! 守りやすいように一塊になってほしい!」 「よ、四人目!?」 「オーケィ、なら正面は俺の担当だな!? COOLに決めるぜ!」 「五人目もきた!?」 8
2014-04-04 19:22:03「よし、残りの俺は遊撃隊だ! 絶対にソフィアとケヴィンを守りきれ!」 「「応ともよッ!」」 全部で七人。どこからともなく現れた七人のウィルが武器庫の前に集結していた。 他のウィルたちが作った活路を通り、ソフィアはケヴィンの前で下ろされる。 9
2014-04-04 19:22:36「おい、なんで変態彼氏がこんなたくさんいるんだよ!? これは一体如何なることだ!? ひょっとしてアタシは頭がどうかしちまったのか!? 自分でもちょっとそんな気がして怖いんだよ! なんでもいいから説明してくれ!」 10
2014-04-04 19:23:02「あ、あたしにも何がなんだか分かりませんよ!? ワケ分かりません!」 「落ち着つくんだ、ソフィア。騎兵隊の君にならたぶん分かるはずだ。心配することはない。増えた分は全部、俺の分身だ」 「分身……?」 11
2014-04-04 19:23:35「ブンシンってなんだ? アタシにも分かるように言えって!」 「分身って……、――えっ、分身!? まさか……っ」 ソフィアに笑みを見せ、ウィルは背中を向けた。正解だと言うように。 「ごめん、入口のゾンビ共を食い止めてて遅くなった。でも、あっちはもう全滅させたから大丈夫だ」 12
2014-04-04 19:24:15「空いっぱいにいた、あのゾンビ共を全滅させた!? 冗談でしょう!?」 信じられない、とソフィアは声を上げる。だが自分の推測が正しいなら……目の前の少年にはそれだけの力があるはずだ。けれど、まさかそんなことが……。 13
2014-04-04 19:24:33「それじゃあ見ててくれ、肉体とはまた別の――俺の十年の修行の成果を」 背負っていたライフルバッグをウィルが開いた。そこから現れたものはライフルではなく――黄金に輝く一振りの剣。ソフィアの推測が確信に変わる。 「あれは……黄金の刃(ムラサメガタナ)!」 14
2014-04-04 19:25:25ケヴィンが眉を寄せて叫ぶ。 「ムラサメガタナ!? なんだ、それは!?」 「この新大陸では長きに亘り、開拓者とゾンビが争ってきました。西部開拓史とはガンマンとフライングデッドの戦いの歴史です。人々はそう理解している。でも事実は少しだけ違うんです」 15
2014-04-04 19:25:52「この新大陸には一般の人々には伏せられている、第三の存在がいます。彼らは歴史の表舞台には出てきません。開拓者とゾンビの戦場にふいに現れる謎の存在。ある時は半裸の美女、ある時は禿頭の大男、ある時は化粧顔の子供」 17
2014-04-04 19:27:30「ジ、ジパング!? アタシも噂だけは聞いたことがあるぞ!? なら、あいつはまさかっ!」 「そうです! 黄金の銃弾を担う秘装銃士と同じく、黄金の刃を振るいし黄金郷の戦士、彼の名は――」 19
2014-04-04 19:28:26「忍者ぁぁぁぁぁぁぁっ!?」 バサァとウィルがシャツを脱ぎ捨てる。 「今、颯爽とハラキリ御免――ッ!」 そして、黄金の刃を自らの腹へ突き刺した。 光が迸る。刺した刃が腹のなかへと溶けていき、額当て、手甲、草履が出現する。 20
2014-04-04 19:29:01そうして眩いばかりの光と共に立ちたる者、その名は忍者。荒野で実しやかに囁かれる、伝説の戦士である。黄金に輝く拳を握り、忍者となったウィルは叫ぶ。 「さあ、ご覧じませい! 忍びて奏でる鎮魂歌(レクイエム)ッ!」 21
2014-04-04 19:29:30