本田由紀『教育の職業的意義』まとめ

本田由紀『教育の職業的意義』まとめ
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H.Takano @midwhite

担当する職務範囲が不明確な日本の正社員の世界では、人員削減や業務量全体の増大や変動により、一人当たり担当する仕事量は際限なく増加しかねない。日本的な働き方を温存したままで、その人口が絞られれば、長時間労働が必然的に生み出される。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-01 20:41:53
H.Takano @midwhite

90年代以降の日本社会では、正社員も非正社員も、各々の意味で極めて苦しい状態に置かれている。これには、正社員と非正社員の世界が、それぞれ全く相対立する原理に立っているという背景がある。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-01 20:45:36
H.Takano @midwhite

日本の正社員は企業に所属するということのみを定めるメンバーシップ型の雇用契約を雇用主と結んでいるため、職務の輪郭が不明確であり、担当する仕事の中身が俗人的かつ曖昧に決められる。そのため仕事量こ歯止めが効かず、長時間労働に追いやられる。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-01 20:48:36
H.Takano @midwhite

それと対照的に、日本の非正社員は担当する職務が明確である代わりに、企業へのメンバーシップが極めて希薄である。ただし近年、正社員並みの職務に従事する非正社員の割合が増加しており、それにも拘わらず両者の賃金には大きな格差が存在している。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-01 21:19:31
H.Takano @midwhite

明治維新以降の近代日本社会においては、学制や教育令などを経て学校教育体系が整備された。その過程では、まず西洋文明を日本に導入する役割を担うエリート養成のための高等教育と、国民として不可欠な基礎的知識や規範を教える初等教育の制度化が進んだ。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 07:27:32
H.Takano @midwhite

また富国強兵の一環として「実業教育」の拡充は明治期から進んでいたが、次の2つの意味で順風満帆ではなかった。第一に、一般の人々は「普通教育」を強く志向していた。第二に、実業学校生徒数の伸びは普通教育を担う中学校の生徒数の伸びより遅れていた。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 07:31:57
H.Takano @midwhite

産業構造の変化に伴い、実業学校の性格も、自営が中心の在来産業のリーダー養成と、近代産業の雇用者育成との間で曖昧に揺れ動いた。実業学校は都市の大企業や官庁に就職する道の役割を果たし、また教員による研究開発が地域産業の発展にも寄与していた。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 07:39:56
H.Takano @midwhite

戦前期の実業教育には臣道実践や職域奉公といった発想も強く、これは二次大戦に近付くに従い濃度を増していく。1930年代後半には「皇国の興隆に貢献する」労働統制政策として産業報国運動が高まり、やがて国民精神総動員運動や大政翼賛運動に合流した。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 07:49:45
H.Takano @midwhite

1950年代から特に顕著だった、経済発展のための「教育の職業的意義」の振興という政策課題は、60年代後半から急速に停滞する。それは政策的意図を社会や産業の現実が裏切るという事態を、政策が追認していったことを物語っている。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 08:02:17
H.Takano @midwhite

1963年の経済審議会の答申は、「教育計画論」と「経営秩序近代化論」の2つの論理から構成されていた。前者は労働力養成のための教育の計画化、後者は職務給制度を中心とする、仕事内容と処遇を厳格に管理する近代的労務管理への移行を主張した。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 08:07:21
H.Takano @midwhite

職務給とは個々人が担当する職務に対して賃金が支払われる制度だが、実際に60年代の企業内部に普及したのは、労働者の「職務遂行能力」に応じて賃金を定める職能給であり、これは年功や一般的能力など属人的性格が強い日本特有の制度だった。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 08:11:11
H.Takano @midwhite

高度成長に伴う労働力需要の急激な増大により、企業は労働力の流動化よりも定着化を志向し、労働者の企業組織そのものへの帰属意識を重視した。また職能給に基づく一元的かつ抽象的な「能力」観が、学校教育に偏差値競争的な一元的序列化をもたらした。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-03 08:18:16
H.Takano @midwhite

経済同友会は2008年に提唱した「21世紀の働き方」の中で、新時代の「三種の神器」として、職務に基づく個人と会社の契約、流動化を前提とした人材育成と活用、多様な人材の多様な働き方、の3つを掲げた。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-05 10:52:10
H.Takano @midwhite

日本の大学教育の職業的意義は低く、このことが大学教育そのものの正当性や、そこへの資源の投資の合理性を揺らがせている。大学教育が卒業後の仕事に活用される度合いが低いのは、学生とその家族にとって無駄な出費を膨大に強いられていることを意味する。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-05 13:34:04
H.Takano @midwhite

荒川葉は生徒が将来就きたい職業の中で、人気が高く、稀少で、学歴不問のものをASUC職業と呼ぶ。具体的には俳優、ダンサー、ミュージシャン、デザイナー、作家、画家、スポーツ選手、漫画家、ゲームプログラマ、カメラマン、トリマーなどである。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-05 16:29:31
H.Takano @midwhite

「趣味や好きなことを生かせる仕事」を希望する生徒の多くはASUC職業を志望しているが、実現の可能性は極めて低く、いざ他の職を志望した時に就職が難しくなってしまう。自分の関心に基づく進路選択を促すキャリア教育にはこのような危険がある。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-05 16:37:58
H.Takano @midwhite

佐々木英一はキャリア教育の問題として、労働市場や雇用問題を回避し、労働者のエンプロイアビリティのみを問題にする心理主義的傾向、また教育指導の範囲と対象が拡散してしまう危険性を「決定的弱点」と指摘している。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 11:57:01
H.Takano @midwhite

川喜多喬は、真っ当な雇用・就業機会を用意できない社会、真っ当なキャリアを市民の権利として考えず市場原理に任せようとする社会に対する自然な抗議が、キャリア選択の前にたじろぐ学生の姿の意味するところであると指摘している。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 12:00:44
H.Takano @midwhite

苅谷剛彦は、「自分らしさの追求」や自己実現という欲求が強化されるにも拘わらずその達成手段が社会に提供されていない状態を「自己実現アノミー」と呼ぶ。キャリア教育がこれを昂進する問題性を色濃く孕んでいる点について、反省的な認識が必要だ。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 12:09:50
H.Takano @midwhite

筒井美紀は大学生に対する調査データの分析から、労働の実態・制度・構造に関する知識が不足しているほど、成果主義を信奉するほど、労働行政の役割を等閑視するほど、将来の就労に自信があるほど、自己責任論に賛成であると結論している。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 12:15:38
H.Takano @midwhite

筒井美紀によれば、若者が現実のリアルな認識や実感を持つには、労働の実態・制度・構造に関する厳然たる知識を伝え、「事実漬け」にすることが有効である。若者の就きたい職業の現実を社会への興味の契機として労働の世界全体の「事実」を伝えていきたい。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 13:05:20
H.Takano @midwhite

浮ついたスローガンや理念から、地味でも着実で堅牢な知識や技術へと教育現場を引き戻すこと、それによって若者を外の世界に向けた「適応」と「抵抗」の両面で力づけること、そのような意味での「職業的意義」についての検討こそが、喫緊の課題である。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 13:09:35
H.Takano @midwhite

名著『公共性の喪失』で知られるリチャード・セネットは、近著『不安な経済/漂流する個人』において、グローバルな労働供給、機械化、高齢化という3つの要因が、現代人にとって「不要とされる」ことへの不安と脅威を著しく高めていると指摘している。(本田由紀『教育の職業的意義』2009)

2014-04-06 13:24:21
H.Takano @midwhite

【読了】『教育の職業的意義―若者、学校、社会をつなぐ (ちくま新書)』本田 由紀 ☆5 http://t.co/jIfJxPEJej #booklog

2014-04-06 15:48:09