茂木健一郎(@kenichiromogi)さんの連続ツイート第1209回「ヒッチコックの、『鳥』」

脳科学者・茂木健一郎さんの4月11日の連続ツイート。 本日は、東京都心に向かう成田エクスプレスの中から!
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茂木健一郎 @kenichiromogi

連続ツイート1209回をお届けします。文章は、その場で即興で書いています。本日は、東京都心に向かう成田エクスプレスの中から!

2014-04-11 09:08:35
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(1)ぼくが小学校の頃、映画と言えば劇場か、テレビで見るものだった。特に「日曜洋画劇場」が定番であった。主要な作品は、この枠で知り、見たといっても過言ではない。淀川長治さんの解説が、実に鋭く、深く、子どもながらにも説得力があった。

2014-04-11 09:09:43
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(2)大学生の頃、一度だけ、淀川長治さんが当時やっていた映画ファンの集いに行ったことがある。一時間、映画の話をずっとしていて、その密度、強度といったらなかった。「日曜洋画劇場」でその片鱗を見ていた、淀川長治さんの映画についての蓄積の広がりを目撃した。

2014-04-11 09:10:57
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(3)テレビでは、「それでは、またお会いしましょう。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ!」な淀川長治さんだったが、その背後には、余人の追随を許さない知性と教養がある。世の中はそのようにできている、と学んだ午後であった。淀川長治さんは、小柄だが、強烈な印象の方であった。

2014-04-11 09:12:14
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(4)さて、そんな淀川長治さんの「日曜洋画劇場」がある時、次週の予告で、なんだかインパクトの強い映画を見せた。女の人に、カラスがたくさんおそってくる。鳥がいっぱい来てパニック。そう、アルフレッド・ヒッチコック監督の「鳥」(Birds)の予告編だったのだ。

2014-04-11 09:13:25
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(5)それで、私は、ヒッチコックの『鳥』の予告編を見て、「あっ、これはヤバイ」と思った。「この映画は、見ると、おそらくちょっとやばい」と子供心に感じた。その時持った畏れが、何に由来するのか、わからない。別に恐怖映画は平気だったのだが、『鳥』は「ヤバイ」「ムリ」と感じたのだ。

2014-04-11 09:14:31
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(6)歳月は流れ、ヒッチコックの作品もずいぶん見たが、『鳥』だけは、小学校の時の日曜洋画劇場の予告編を見て、「あっ、これはヤバイ」「ムリ」と思って以来、見る機会がなかった。たくさんの映画を見ているのに、ヒッチコックの『鳥』は、そこだけぽかんと空いてしまっている。

2014-04-11 09:16:32
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(7)さて、今回、ミラノからパリ経由のエールフランスで帰ってくるとき、機内映画の中にヒッチコックの『鳥』があった。実は行く時の便から気づいていて、どうしよう、ひええと思っていたのだが、帰る便で、『鳥』くらい怖がっている自分が情けなくなって、ついに勇気を振り絞って見た。

2014-04-11 09:17:47
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(8)いやあ、実に奇妙な映画だった。ネタバレになるから詳細は書かないけど、冒頭のシーンといい、水があるところへの「移動」といい、鳥たちが突然襲ってくるきっかけといい、ラストシーンといい、パニック映画であると同時に、深層心理を扱った芸術映画でもあると感じた。

2014-04-11 09:19:08
茂木健一郎 @kenichiromogi

ひと(9)というわけで、小学校以来の宿題だったヒッチコックの『鳥』をようやく見た。「こんな映画じゃないか」とずっと想像していたものとは違ったと同時に、その「怖さ」の本質は、『日曜洋画劇場』の予告編を見たあの小学校の日に、つかんでいたような気がする。本質はパニックにはないのだ。

2014-04-11 09:21:06
茂木健一郎 @kenichiromogi

以上、連続ツイート1209回「ヒッチコックの、『鳥』」でした。

2014-04-11 09:21:30