一日目、昼の出来事 - 異世界奇譚婚礼祭

2014/04/14から2014/04/16までの、王子王女殿下方の記録です。
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ジェルト @jeltferluo

羽音。近付いて来る。王宮の居室である。窓枠に、影。上等な布地で出来たカーテンをはためかせ、部屋に飛び込んできた影は、果たして甲冑を脱ぐと頭(かぶり)を振った。空色の髪と草食動物めいた耳が、揺れる。「いいぞ、ピピ。休んでろ」ぎぃ、と。甲高い声を空から返したのは、身の丈を超える大隼。

2014-04-13 23:24:39
ジェルト @jeltferluo

剣を置く、鎧を外す。数度手を鳴らせば、血相を変えた使用人が部屋に飛び込んできた。婚礼祭まで時間が無い。こんな日にまで訓練に顔を出さなくても。要約すればそんなような内容の文句が飛び交う。「そう言うな。兵と共に汗を流さずして何が後の王か。俺のみが、嫁探しに浮かれて休む訳にも行くまい」

2014-04-13 23:28:38
ジェルト @jeltferluo

「共は要らぬ。ピピに乗って行く。一旦は城に返すから、俺が居ない間ピピの面倒は頼むぞ」髪を梳く、体を拭く。使用人に身支度を任せたまま、王子は平気な顔で命令を続ける。首筋に香水を掛けられた時だけは、少し眉を顰めた。「……これから伴侶になるという相手に、匂いまで飾っても仕方があるまい」

2014-04-13 23:35:06
ジェルト @jeltferluo

使用人が顔に黛(まゆずみ)を引く準備をした所で立ち上がる。剣を手に取り、軽鎧を身に付け、整え続けられる空色の髪をそのままに、青年は廊下へと出た。「……解っているさ。父上には『急を要する故、報告は帰った後とする』と伝えてくれ」行列である。追い縋る使用人を他所に、王子は扉を開け放つ。

2014-04-13 23:48:36
ジェルト @jeltferluo

青空。指笛。大隼が、ばさりと羽音を立てて、蒼穹に弧を描いた。 「……伴侶を探しに行くには、実にいい天気ではないか。なぁ、ピピ?」 駈け出した、足。石畳を蹴る。『ピピ』と呼ばれた大隼は、虚空で青年の肩をしっかりと捕え、そのまま空へと舞い上がった。 『婚礼祭』へ、一人の王子が向かう。

2014-04-13 23:55:40
ニルファタ @Nirfata

天井の高い廊下を進む。床は磨き上げた大理石で、陽の光を取り込む窓は大きく、屋内だというのに外と変わらぬほどに明るい。ニルフ王城の暗く落ち着いた空気とは、まったく違う。 「……角覆いなくば、目が眩みそうだな……」 此方が身につけているのは、所謂『角覆い』ではない薄布だが。

2014-04-14 00:18:55
ニルファタ @Nirfata

木靴が床石に当たって、進むたびに音を立てるのも落ち着かない。盛装には布靴でなく木靴を履くのがニルフの歴史的な作法でははあるが、女王となったら改めてしまおうかとさえ思う。 「部屋に着けば絨毯があろうが、着く気がせんの……」 カツリ、カツリ、一歩を進めるたびに音が鳴る。

2014-04-14 00:25:01
カメリア @camellia_onibi

大理石の床に、コン、コン、と重そうな足音が響いた。黒い民族衣装のドレスを纏った女が、宴の間へと続く廊下へ足を踏み出したのだ。彼女の腰はコルセットで締めあげられ、足には重そうな黒塗りの下駄を履いている。 「何ですか、この廊下は。こんな長い廊下、歩くんですかぁ」 女が声を上げた。→

2014-04-14 00:32:36
カメリア @camellia_onibi

「お行儀よく……お行儀良く歩かないと、どこで殿方が見てるか、分からない、んですから」 危なっかしい足取りで、宴の間を目指す女は、鬼人族の少女だった。 「どんな方がいるのか楽しみですねー。他の王女様はライバルですねー。でもお友達になってくれたりしませんかねー」 独り言が癖らしい。

2014-04-14 00:36:55
スウォード @swed_wing

眠い、ひどく眠い。昨日緊張のあまり全く眠れなかったせいだ。今の今までなんだかんだ理由をつけて、のらりくらりと結婚話を避けてきた。だがそれも今日までだ。 いつもだったら絶対に着ない、動きやすさよりも優雅さを重視した正装を身につけ、背の翼を揺らしながら男が廊下を歩く。→

2014-04-14 00:38:55
スウォード @swed_wing

「…俺が結婚かぁ…。」 まるで他人事のようにしみじみとそう呟いて、ふと一度廊下で足を止める。 故郷とは違う風の吹く庭園を眺めながら眠たげにあくびをして。 「結婚の前に相手見つけなきゃしょうがねーんだけどな、俺みたいなのに相手が見つかんのかね。」 そう思わず弱音を吐いて。→

2014-04-14 00:41:29
スウォード @swed_wing

それを振り払うように頭を左右に振った後、気合を入れるように両の手で自分の頬を叩き。 「よっしゃいっちょ頑張ってみるか。」 最後まで王子らしい仕草がない男はそのまま会場へと繋がる廊下を歩き出した。

2014-04-14 00:42:32
ブリュイエール @Bruyerre_w

ふわふわしたスカートを纏った娘が歩いた後、辺りに漂うのは甘い香り。履き慣れないヒールで大理石の廊下を歩き、 足はとっくのとうに痛んでいる。辺りを見回しても影は他に見えないのを確認し 「……はー。緊張しますね」 窓の傍で立ち止まり、胸に手を当て深呼吸ひとつ。ついでに足休めひとつ。

2014-04-14 00:47:12
ジェルト @jeltferluo

革靴が、石畳を叩く。小気味の良い歩調を作り出す主は、見知らぬ廊下を臆さず進む。 「……思っていたよりも、早く着いたな。さて、どんな面々が顔を揃えるやら」 大広間へと続く通路は、幾つにも枝分かれるような趣向が凝らされている。向かう先、次第に見えてくる扉。両開きのそれを、押し開ける。

2014-04-14 00:54:12
ブリュイエール @Bruyerre_w

飛べたら楽だと、ちらり、と背へと視線を向ければ、変わらずに在る翅。 今日はきちんと足で背を正して歩く事と念押しされたことを思い出す。 足の様子を確認してから、もう一度大きく息を吸って。 「……よし、頑張りましょう!ちゃんとお婿さん見つけなきゃです。あわよくばお友達も!」

2014-04-14 00:55:50
ジェルト @jeltferluo

それは、ある種の運命か、それとも祝福とでも言えるのか。 ――――大広間の扉、その数、12枚。       それら全てが開いたのは、殆ど同時だった。

2014-04-14 00:58:03
ミルウェル @mill_well

「まぁ、まぁ」  幾重にも布を重ねた裾を翻し、くるりと回る、通路の中ほど。 「なんて眩しい所なのかしら? 屋内深くの湿っぽい空気とは、まるで縁遠い世界だわ」  嬉しげに、楽しげに。通路を独白で満たして行きながら。腕に抱いた11本の蓮の花を、円舞の相手に見立てる様に。

2014-04-14 00:59:55
ブリュイエール @Bruyerre_w

「庭園のお花も気になるけれど。あれは、後で。私は、今、国の、代表」 言い聞かせる。言霊のように。ぴん。と背を正して長い長い廊下をもう一度ゆっくりと歩き出す。 慣れないヒールでおぼつかない足取りで、けれど一歩一歩確かに歩を進める。 辿りついた両開きの扉をそっと押し開け―――

2014-04-14 01:00:45
ミルウェル @mill_well

「──あら、いけない。感極まっている場合じゃなかったわ?」  不意に訪れた理由を思い出し、足を止めて向き直る。覆わぬ左目で見つめた、大きな扉。 「ふふ、外のお方とお話するなんて久しぶり。私、ちゃんと話せるかしら?」 目前の扉へ一礼し、力を込める……12人分の、邂逅の音に重ねて。

2014-04-14 01:02:52
デルステラ @Delstella_

「……服とはずいぶん煩わしいものだな……」 ぴたりと身を覆う、光の加減でわずかずつ色を変える布地を邪魔くさく感じながら、鱗を帯びた青年は瞳孔を鋭く細めた。同胞の剥がれた鱗から紡がれた、この婚姻祭のためだけに作られた服飾は、青年にとっては違和感以外の何物でもない。

2014-04-14 01:16:03
デルステラ @Delstella_

緑蛇族は基本が人ではなくヘビなのだから、服というものになじみがないのだ。 「……ぼやいても詮無いことだな」 頬の翡翠色をした鱗をひと撫でして、会場となる場所へ足を向ける。 ――慣れない二足で転びかけつつ、目的地である扉の前へ。

2014-04-14 01:16:18
ジェネヴラ @genevra_s

大理石の廊下、白に覆われた娘が一人。ふわりとドレスの裾を揺らしながら、廊下の先を目指して歩いている。その歩みは大地を踏みしめるように、ゆっくりと。 (……やはり、まだ慣れませんね) 自らの国とは違う、重力や空気。久し振りに得た『足』やその感覚に違和感を覚えながら、それでも進む。

2014-04-14 01:20:33
ジェネヴラ @genevra_s

スケッチブックとペンを抱える両手に緊張からか、僅かに力が篭る。両手を覆う黒い手袋は母からの贈り物だった。僅かに俯き、それを指先で撫でては、小さく笑みを零す。 そうして、顔を上げ、前を見据えた。見えるは、両開きの扉。 一歩、また一歩と扉に近づいては、さらりと白髪が揺らいで。

2014-04-14 01:20:42
ジェネヴラ @genevra_s

両手で持っていたスケッチブックとペンを左手にまとめ、扉に触れ、目を伏せる。何度か祈るように、深呼吸をし。 (少しどきどきしますね。けれど、) 再び、深い青が現れたかと思えば、それは晴れ晴れとした微笑みに変わった。 (それ以上に、わくわくします!) 右手も扉に添え、——押し開けた。

2014-04-14 01:20:57
リェン @lyenrow

背の、鷲のような翼をバサリと羽ばたかせ、陽の光が燦々と差し込んでいるであろう、大きな窓の外から大広間を覗いている影がひとつ。ひいふうみい、と窓の外から扉の数を確認して、ようやっと納得したように頷きを交え、ひとりごちる。 「この窓は扉じゃなかったようだ。さて、入口は何処だったのか」

2014-04-14 02:37:23
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