【リターン・ハルトマン・アン・ハッピー・ターン】#1

こいしちゃんキョートへ その1
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うぃんこさん @koiflachuchu

キョート共和国、アッパーガイオン。ネオサイタマから数千マイル離れた有数の観光地。平安時代から続くエンシェント・テンプルが立ち並び、景観保護のため建物の高さが制限され碁盤目状に整然と区画が整備された奥ゆかしい街だ。 1

2014-04-26 20:00:54
うぃんこさん @koiflachuchu

鎖国体制を取る日本とは対照的に国際空港が整備されており、諸外国から観光客が集うこの街はまさに人種のバーゲンセールと言ったところか。あぶらとり紙やヤツハシの店舗が立ち並ぶオミヤゲ・ストリートは今日もメキシコ人やロシア人を初めとする外国人観光客で賑わう。 2

2014-04-26 20:05:15
うぃんこさん @koiflachuchu

しかし、マッポーの世である現代にそのようなアジールが存在するはずもない。キョートをエンシェント・オイランの化粧めいて厚く塗り込められた街と評したのは誰だったであろうか。景観保護の制限を受けているこの街で暗黒メガコーポは如何様にしてオフィスを確保しているのか。 3

2014-04-26 20:10:19
うぃんこさん @koiflachuchu

答えは地下。スペースを空に向かって拡張出来なかった暗黒メガコーポが取った対策は、ビルを地下に伸ばすことであった。それはいつしか一つの巨大地下都市を築き上げ、それはアンダーガイオンと呼ばれるようになった。 4

2014-04-26 20:15:10
うぃんこさん @koiflachuchu

そのアンダーガイオン第8層の片隅に古明地こいしはいた。ニンジャスレイヤーとの一件以来ネオサイタマから姿を消した彼女は、どこか故郷を思い出す巨大地下都市に身を寄せていた。その故郷には1ヶ月ほど帰っていない。 5

2014-04-26 20:20:26
うぃんこさん @koiflachuchu

「お嬢さん、いいクスリアルヨ」浮浪者がこいしに声をかける。こいしは嬉々として浮浪者の元へ走っていき、その顔を覗き込む。紅魔館の門番と似たような顔立ちだ。「なになに?それおいしいの?」「おいしいっていうかまあアレね、幸せになれる魔法の粉ヨ」「幸せに……ってことはおいしいのね」 6

2014-04-26 20:25:31
うぃんこさん @koiflachuchu

「そういうことにしとくヨ。どうだい?お試しで一袋いっちゃう?」「うん」こいしは薬の入った袋を開けると、一気にそれを口に頬張る。「ほんとだ、おいしい」「そりゃよかったヨ」(ククク、このクスリでラリったところを狙って強制前後重点!こんな上玉がこんなとこ歩いてる方が悪いネ!) 7

2014-04-26 20:30:22
うぃんこさん @koiflachuchu

「でも幸せになるってほど美味しくないね」「……エッ」こいしは空袋を乱雑に放り捨てると、浮浪者の首を掴み締め上げた。こいしの第三の瞳は、開いていた。「ア……アイエエエ!?」「私にクスリは効かない」「アバーッ!」「それと、私が操を捧げるのはお姉ちゃんだけ!わかったか!」 8

2014-04-26 20:35:36
うぃんこさん @koiflachuchu

「アバーッ!わかった!わかったから離して!コワイ!」「わかったな!」「アバッ……」インガオホー!浮浪者の首は胴体から永遠に切り離されたのだ!「……で、これがおじさんの言ってたアレかあ」こいしは浮浪者のボロにかろうじてついていたポケットを漁り、先程の粉とトークンを取る。 9

2014-04-26 20:40:39
うぃんこさん @koiflachuchu

「あーあ。どっかのマイコセンターでお風呂でも借りてこようかしら。汚れたちゃったよ」こいしは第三の瞳を閉じ、そのままアンダーガイオンの闇の中へ消えていった。その数分後、浮浪者の体から出ていたおびただしい量の血液は全て白い粉と化していた。 10

2014-04-26 20:45:55
うぃんこさん @koiflachuchu

【リターン・ハルトマン・アン・ハッピー・ターン】

2014-04-26 20:46:19
うぃんこさん @koiflachuchu

数日前、アンダーガイオン某所にある探偵事務所。「新種のクスリ?」「そうだ」パイプベッドに座った少女とソファーに座りながらオスモウ中継を見ている白髪の大男が会話する。異様な光景だ。少女の名は古明地こいし。大男の名はタカギ・ガンドー。私立探偵である。 11

2014-04-26 20:50:36
うぃんこさん @koiflachuchu

これよりさらに数日前、こいしはガンドーの事務所に転がり込んだ。失意に打たれていた彼女は、かつてエーリアスやシマナガシの所で起こしたトラブルを起こすことなく虚ろな目でパイプベッドに座り込んでいた。どれだけの殺戮を繰り返したのだろうか。服には大量の返り血がこびりついていた。 12

2014-04-26 20:55:41
うぃんこさん @koiflachuchu

ガンドーはこいしとかつての助手を重ねたのか、すんなりとこいしを受け入れた。そのうちこいしも元気を取り戻し、自分の素性を話すようになった。妖怪であること、無意識を操る程度の能力(ガンドーはカクレミ・ニンポと認識した)のこと、ニンジャスレイヤーにフラれたこと。 13

2014-04-26 20:59:48
うぃんこさん @koiflachuchu

【ニンジャ来たから無意識になります】

2014-04-26 21:00:02
うぃんこさん @koiflachuchu

ニンジャスレイヤーに少女の与太話が本当であることをIRCチャットで確認したガンドーは、その能力を買って助手見習いにすることにした。ニンジャにすら知覚出来ぬステルス、あのニンジャスレイヤーと交戦して生き延びるほどのカラテのワザマエ。探偵としては実際最適だ。 14

2014-04-27 09:00:12
うぃんこさん @koiflachuchu

そして、ガンドーの元に依頼が来た。「シアワセ戻る。それがこのクスリの名前だ」ガンドーが依頼人から受け取った写真とメモ書きをこいしに渡す。「変な名前」「ふざけた名前だろ?ついでに流通量もふざけてやがる。おかげでZBRが需要低下で高騰しやがった」「やめたんじゃなかったの?」 15

2014-04-27 09:05:17
うぃんこさん @koiflachuchu

「ああ、やめた。やめたよ、うん。本当に必要なときはやるが、やめた」こいしが第三の瞳を使うまでもなく、懸命な読者の皆様が持つニンジャ第六感を駆使するまでもなく、ガンドーがZBRをやめていないのは分かるであろう。なんたるガンギマリ私立探偵であろうか。 16

2014-04-27 09:10:18
うぃんこさん @koiflachuchu

「それでおじさんもこのシアワセなんとかに鞍替えするの?」「オイオイオイオイ!ナンデそうなる!?俺はZBR一筋だ!……じゃない!依頼だろ!」「へー」ガンドーの弁明を無視しながらこいしがメモに目を通す。序文にクスリの説明。真ん中に『流通元を割り出して欲しい』とだけ書いてある。 17

2014-04-27 09:15:28
うぃんこさん @koiflachuchu

そして、裏側に依頼主の連絡先が付記されている。恐らく本名では無いだろう。そこには「Nomark」というIRCアカウントネームだけ書いてある。「で、だ。そいつはお前に任せる」「ナンデ?カワイイ愛弟子の初仕事に所長がついてこないの?」「俺はちょっと別件でネオサイタマに飛ぶ」 18

2014-04-27 09:21:06
うぃんこさん @koiflachuchu

「……そっか」ネオサイタマとガンドーが言った途端、こいしはしおらしくなる。「その……なんだ。……昔馴染みに会いに行くだけだ。すぐ戻る」一瞬ニンジャスレイヤーの名を出しかけて留まる。こいしに最も聞かせてはならない名だからだ。 19

2014-04-27 09:25:15
うぃんこさん @koiflachuchu

「困った時はここを頼れ。きっと力になってくれる」ガンドーは机の中から地図を三つ取り出し、こいしに渡す。キンギョ屋の店、キョートのはずれにある庵、コケシマート本社の位置がそれぞれ記されている。「充分だよ」「それじゃあな。早く行かんとシンカンセンに遅れちまう」 20

2014-04-27 09:30:18
うぃんこさん @koiflachuchu

「ふーん、シンカンセン乗るお金あるんだ」「……何だよ」「今月の給料」こいしは緑色の目を細め、ガンドーを怨めしげに睨む。「今日渡してくれる予定だよね」「ああ、払う。だけど急いでんだ。後で払う」「そう、行ってらっしゃい」こいしはガンドーに背を向け、パイプベッドに横たわる。 21

2014-04-27 09:35:32