#男爵提督 まとめ

殺伐としない、だらだらした軍属の生活をだらだら描こうかと思ってます。 【進捗】2014秋イベント出撃前
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Baron @Admiral_Baron

寝ぼけ眼を擦りながら、俺はぼんやりと新聞に目を走らせる。こんな辺境の南国でも母国語の新聞が読めるってんだから、我等が大本営のご威光たるやってなもんだ。 連載小説と人生相談と料理紹介にだけ目を通すと、新聞を屑紙入れに放り込む。 さて、今日は何をして遊ぼうか。 #男爵提督

2014-04-13 17:50:05
Baron @Admiral_Baron

廊下を歩いていたら初雪を見つけた。フラフラとした足取をみるに、どうやらまだ寝ぼけているようだ。あんな状態で北上にでもぶつかったら大変だ。軽く七代は祟られるだろう。 ここは一発、シャッキリと目覚めさせてやらねばなるまい。 俺はゆっくりと身を屈めた。 #男爵提督

2014-04-13 18:14:08
Baron @Admiral_Baron

両手足を床に着け、四足獣の体勢になる。曲げていた膝を伸ばし、高く腰を上げる。前傾姿勢となり、全体重を支える形になる指先が小さく軋んだ。倒れる限界まで前に据えた体重を、一気に解放する。 初速にして全速。一息に距離を詰め、同時に全力で呼ばわる。 「はーつゆきーー!!」 #男爵提督

2014-04-13 20:19:05
Baron @Admiral_Baron

「はーつゆきーー!!」 響き渡る声に一瞬肩を震わせ、初雪は恐る恐る振り返る。そこには駆け寄ってくる男の姿が! 「ひっ、い、いやーー!!」 初雪は思わず悲鳴を上げ、一目散に駆け出した。振り返れば三十路男が肉薄だ。多感な少女からすれば無理もない反応である。楽しい。 #男爵提督

2014-04-14 00:39:45
Baron @Admiral_Baron

執務室にいたらなんとなく軍帽が重くなった。脱いでみたら拳大の綿埃が乗っている。 そうか、もうそんな時間か。 苦笑しつつ、なおも降る埃をよけながら俺はデスクの引き出しを開け、5センチ程に切られた羊羹を取り出した。個包装になっており、手を汚さずに食べられる優れものだ。 #男爵提督

2014-04-14 21:13:33
Baron @Admiral_Baron

袋の口を開け、ほんの少し中身を出す。ゆっくりと戸口に歩み寄ると、俺は羊羹を持った手を鴨居に伸ばした。パタパタと梁を歩く音が響いたと思えば、引ったくられるように羊羹がなくなる。この性急さからみるに、だいぶ待たせてしまったようだ。 「ごめんなー初春ー」 #男爵提督

2014-04-14 21:51:57
Baron @Admiral_Baron

初春はじろりと俺を睨んだが、すぐに羊羹にかじりついた。遅れたことにご立腹のようだが、そんなことより甘味らしい。奮発した甲斐があったというものだ。 しかしこいつはなんだっていつも梁や鴨居の上にいるのだろう。提督としては少しは地に足を着けてほしい。首が疲れてならない。 #男爵提督

2014-04-14 22:07:17
Baron @Admiral_Baron

泊地の廊下を歩いていると、微かな薫りが鼻孔をくすぐった。ウチの所属で煙草飲みは俺と日向しかいないが、彼女は今北方で遠征中だ。……うすうす予想はついているが、とりあえず現場を押さえるとしよう。僅かな紫煙を辿りながら、俺はのんびりと昼下がりの廊下を進んでいく。 #男爵提督

2014-04-16 21:46:32
Baron @Admiral_Baron

いくらも歩かぬ内に目標は見つかった。基地裏手の庭に面した窓が開いており、ゆらりとたなびく紫煙が入り込んできていたのだ。足音を殺して窓辺に行き、俺は慎重に外を覗き込んだ。 タンザナイトの輝きが目に映る。両側頭部の艤装は緩く発光し、彼女の警戒度を如実に表していた。 #男爵提督

2014-04-17 01:44:50
Baron @Admiral_Baron

天龍は何かを警戒するかのようにせわしなく左右を見回していた。細い煙草を挟む右手指が真っ直ぐに伸びきっているのがまた苦笑を誘う。扱い慣れていないのが丸わかりだ。 慎重に狙いを定め、俺はゆっくり手を伸ばす。探照灯のごとく掲げられた煙草を音もなくつまみ、軽やかに奪い去った。 #男爵提督

2014-04-17 07:59:22
Baron @Admiral_Baron

「!? て、提督?なにしてんだよこんなとこで!」 慌ててこちらに向き直り、天龍は口早に言った。それはこっちの台詞だ。中坊じゃあるまいし、なにこそこそしてんだお前は。 「し、しかたねーじゃん。龍田とかに見つかるとうっせーんだよ」 むくれたような言葉に、少し同情する。 #男爵提督

2014-04-17 14:07:13
Baron @Admiral_Baron

なるほどなー、お前も大変ね。軽く言いつつ、俺は右手を動かす。意図を察した天龍が慌てて静止に入るが、やや遅い。奪い取った煙草を咥え、深々と吸い込む。薄荷ばかりで何の深みもない。 「お、おまっ、ば、おれの……」 彼女はパクパクと口を開閉し、何やら不明瞭な音を発している。 #男爵提督

2014-04-17 14:19:49
Baron @Admiral_Baron

「薄荷の味しかしねえじゃん。もっといいやつ喫えよお前」 「う、うっせバカ。なにしてんだてめぇ!」 せっかく忠告してやったのに悪態をつかれた。提督悲しい。 「何ってお前そりゃ…………味見?」 「ば、ばっかじゃねーの!?」 そんなに怒鳴ることないじゃない。反抗期なの? #男爵提督

2014-04-17 18:08:19
Baron @Admiral_Baron

「そんな怒んなよー。煙草返すからよう」 なぜか怒られた俺は、謝罪と共に手に持った火種を差し出した。 「い、いらねぇよそんなもん! バカか!」 突っ撥ねられてしまった。なんなのこの子。よく判らぬまま俺は吸い口を咥え直す。 「あ……」 小さな声が彼女から漏れた。 #男爵提督

2014-04-17 18:33:20
Baron @Admiral_Baron

「ん? やっぱ返す?」 漏れた言葉を催促と思い、俺は煙草に手をかける。 「い、いらねぇつってんだろバカ!バカバーカ!エロ男爵!」 真っ赤な顔で怒鳴り散らし、天龍は明後日の方向へと走り去ってしまった。 凄まじいエネルギー。あれが激おこってやつかー #男爵提督

2014-04-17 19:18:18
Baron @Admiral_Baron

考えてみたら天龍のやつ「バカ」しか使ってない。もう少し語彙が増えればあの田舎ヤンキー臭も収まると思うのだが…… しかしまぁ、エロ男爵は反則だな。ちょっと面白かったじゃねえか。 「……でもなぁ、もう俺は」 「『俺は男爵じゃねぇしな』って?」 あらやだ、いたの北上さん。 #男爵提督

2014-04-17 21:58:04
Baron @Admiral_Baron

「いたのはご挨拶だね。煙草臭いから見に来ただけだよー」 間延びした口調で北上は答える。彼女は俺の秘書艦である。その砕けた口調からはなんの敬意も感じないが、逆にそれが気楽でいい。 それはさておき、今のやりとりを見ていたなら好都合だ。俺は彼女に疑問をぶつけることにした。 #男爵提督

2014-04-18 01:59:45
Baron @Admiral_Baron

「さっきの見た?煙草とったくらいで激おことか、天龍のやつ心狭くない?」 咥え煙草で告げる俺を、北上はじとりとねめつける。 「……提督さあ、モテないでしょ?」 おふ。な、何を言いだすのかなこの娘は。 言葉に詰まる俺に、彼女は呆れたようにため息をついた。なんだというのか。 #男爵提督

2014-04-18 07:51:40
Baron @Admiral_Baron

練兵場の片隅でピンクの尻尾が揺れている。尻尾が1つ揺れる度、雄々しい尖塔がそびえ立つ。不知火が城を築いているのだ。砂遊びとみれば微笑ましいが、彼女のそれはレベルが違う。西洋の城を象った造形はとても細かく、もはや彫刻といってもいいレベルだろう。相当時間をかけたはずだ。 #男爵提督

2014-04-18 23:44:56
Baron @Admiral_Baron

……うわ、まーたやってるよあの娘。 思わず呟いた言葉に、北上も練兵場に目を向けた。彼女もすぐにそれに目を付けた。 「お、今回はまた力作だねー」 全くだな。 「いやー、……ほんと、惜しいくらいだね」 ……全くだな。 #男爵提督

2014-04-19 01:09:13
Baron @Admiral_Baron

暗澹たる思いで見守る我々をよそに、不知火の動きが止まった。どうやら完成したらしい。 二本の尖塔を両脇に、中央の建物は更に高くそびえ、バルコニーもあるようだ。石を彫ったにしても舌を巻く造形だが、我らがガウディはそれを砂で作ったのである。恐るべき技量だ。 #男爵提督

2014-04-20 11:51:20
Baron @Admiral_Baron

完成品を眺める不知火の表情に疲労がにじむ。あれだけの物を作れば当然だろう。しかしそれ以上に達成感と喜びが強いようた。誇らしげに頬が弛んでいる。あまり感情を出さない娘だが、こと砂遊びの時だけは素直に表情にまで出すのだ。 一変、その顔が悲愴に満ちる。 #男爵提督

2014-04-20 12:09:33
Baron @Admiral_Baron

きつく顔を歪めた不知火の手がゆっくりと伸び、尖塔の屋根を優しく撫でていく。その表情ははちきれそうなものであり、涙すら滲んでいる。 瞼が決壊しかけたその時、撫でていた手がぴたりと止まった。じわじわと指が伸び、一気に閉じられる。 指の隙間から、土の塊がまろび出て行く。 #男爵提督

2014-04-20 22:45:17
Baron @Admiral_Baron

握り、蹴り、殴り、止まることなく不知火は動き、一挙動ごとに城は土に還る。 時間と努力の結晶を自ら壊す。己を踏みにじる愉悦がそこにあった。不知火は涙を流し、苦しみ、悔やみながら破壊を続け、背徳の悦びに酔う。相反する感情に、彼女の表情は複雑に歪んでいた。 #男爵提督

2014-04-21 01:34:44
Baron @Admiral_Baron

……なんなのよあの娘、ほんとわけわかんない。 「提督ー? 地がでてるよ?」 うっさいわね、かまってらんないのよ。ほんっと、あの年頃の娘ってよくわかんない。 更地の前で満足げに砂を払う不知火に、空恐ろしい物を感じる。今日の夕飯は彼女の好物を並べることにしよう。 #男爵提督

2014-04-21 01:44:47
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