ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説28

ほしおさなえさん(@hoshio_s)の140字小説28 その280~その289です。それと、母性について。 ほしおさんの音読サイトはこちら⇒ http://hoshiosanae.tumblr.com/ 続きを読む
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ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その280。

2014-03-17 12:19:03
ほしおさなえ @hoshio_s

寒い朝。布団に潜る。生まれる前の世界はこんなだったかもと思う。出たくないのはそこになにか忘れてきたからなのかな。身体を伸ばす。回転する。へその緒のぐるぐるダンス。水族館の鰯の群れを思い出す。すごくぴかぴかしてたっけ。苦しい。顔を出す。まぶしくてしばしばして、生きなきゃ、って思う。

2014-03-17 12:19:32
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その281。

2014-03-17 22:48:02
ほしおさなえ @hoshio_s

鳥の声がして空を見る。見たことのない鳥たちが枝から枝へ移りながらさえずっている。なにを話しているのだろう。うれしいことか大事なことか。よく通る道でも頭のすぐ上に知らないものがいて、わたしにわからないことを伝え合っている。寂しいようで、ほっとするようで、ああ、春が来るんだ、と思う。

2014-03-17 22:48:40
ほしおさなえ @hoshio_s

おしまい。 昼間の実景です。うちの近くは林が多いせいで、野鳥がたくさんいます。鳥の言葉はわからなくても、鳥の名前を知っていたら別の世界が見えるかも、と思います。

2014-03-17 22:50:31
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その282。

2014-03-18 20:14:58
ほしおさなえ @hoshio_s

入江に白い蝶がひらひらとやってくる。白い貝にゆっくりととまる。すぐ近くで青い波が寄せたり引いたりする。蝶は海がなにか知らない。海の大きさも知らない。ただじっと風に吹かれ、やがてまたひらひらと飛んで行く。ただそれだけのひととき。そんな夢を見て目覚め、だれかの記憶を垣間見た気がした。

2014-03-18 20:15:35
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その283。

2014-03-19 11:26:53
ほしおさなえ @hoshio_s

和菓子屋の店先にお迎え団子があった。あれはなに、と娘が訊く。お彼岸のお迎え団子。別の世界にいるご先祖様がもうじき帰って来るの。見えないけど帰ってくるの。答えてうっかり泣きそうになる。娘はぽかんとする。まだ身近な人の死を知らないから。ふたりで夜の商店街を歩く。暖かい風が吹いている。

2014-03-19 11:27:26
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その284。

2014-03-19 19:10:20
ほしおさなえ @hoshio_s

町を出るとき、あの木が僕に言ったんだ。留めないよ。行っておいで。遠いところへ。すばらしいものを見ておくれ。感じておくれ。動けないわたしと違ってどこまでも行けるのだから。時が経ち、どんな形かも思い出せない。あの木はまだあそこに立っているのか。風に揺れて心地よい木陰を作っているのか。

2014-03-19 19:12:00
ほしおさなえ @hoshio_s

おしまい。 今日2度目なので「おしまい。」だけだとツイッターに怒られてしまいました(笑)

2014-03-19 19:15:20
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その285。

2014-03-21 11:32:11
ほしおさなえ @hoshio_s

袴の人が歩いていく。覚えているよ、君をはじめて見たときのこと。人よりものがよく見えて、だから人が怖くて、でもわかってほしくて。僕は好きだった、孤独で生意気で臆病な君が。何度も春が来て、悲しんですり減ってやわらかくなって。人生は一方通行だ。行っておいで。世界はこんなに光っているよ。

2014-03-21 11:33:44
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その286。

2014-03-22 09:19:43
ほしおさなえ @hoshio_s

春の風がいろんな跡を消して行く。思い出す。ずっとむかし現れないまま消えた命のこと。身体が冥界になった気がした。大きな穴があいている気がした。時が経って、穴はそのままだけど、もう悲しくはないよ。あの子もわたしもきっと同じ場所にいた。きっと同じ場所に行く。海鳴りみたいな音がしている。

2014-03-22 09:20:17
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その287。

2014-03-24 09:31:23
ほしおさなえ @hoshio_s

春の陽射しが台所の流しを照らす。いろんなはじめてがよみがえる。にんじんを切るとにんじんの匂いがしたこと。戻した若布が水中で揺れていたこと。莢から出した豆の明るい色のこと。なにもかもどきどきした。どれもこれも生きてる。生きものを食べてわたしたちは生きてる。しんと重い水が流れている。

2014-03-24 09:32:05
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その288。

2014-03-25 15:04:49
ほしおさなえ @hoshio_s

肩に蝶がとまる。暖かいですね。蝶が言う。こんな日はどこか行きたくなるよ。僕は答える。そうですね、だれかに会いたくなります。だれに? 雲がゆっくり動く。わたしは息なんです、ずっとむかし亡くなった人の。肩に風が吹く。蝶はいない。心がふわっと浮き上がる。眩しくて、全部まぼろしだと思う。

2014-03-25 15:05:16
ほしおさなえ @hoshio_s

140字小説その289。

2014-03-26 12:43:49
ほしおさなえ @hoshio_s

井の中の蛙と言うが、井戸の底に閉じ込められる恐怖と孤独を味わった人などいるのだろうか。僕なら耐えられない。だが生まれつきそこにいるのであれば、境遇を受け止め、遥か頭上の小さな光を宝石のように思っているのかもしれない。そしてそれは僕が星を見る心持ちとさして変わらないのかもしれない。

2014-03-26 12:44:20

母性

ほしおさなえ @hoshio_s

子どもを産んで育てている最中の立場から言うと、母性と言うものは有ると思うんだけど、それはその人の人間性とは関係がない。それは本能で、わたし自身、出産まで自分が作ってきた主体とはまったく関係ないところからそれがわきあがってきて、むしろそれまでの主体を揺るがし、変えるものだった。

2014-03-20 10:41:10
ほしおさなえ @hoshio_s

食欲が抑えられず食べてしまった!とか、衝動が抑えられず犯罪してしまった!と近い感じで、しかも慢性的に続く。前の自分とは連続性がない。だからまわりとも衝突するが、なにより自分自身、戦うような、飲み込まれるような日々だった。それをも取り込んで新しい自分をいま作っている、という感じ。

2014-03-20 10:43:43