ニチョーム・ウォー……ビギニング #4

日本語版公式ファンサイト「ネオサイタマ電脳IRC空間」 http://d.hatena.ne.jp/NinjaHeads/ 書籍版公式サイト http://ninjaslayer.jp/ ニンジャスレイヤー「はじめての皆さんへ」 http://togetter.com/li/73867
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ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「まだだぞ!」長髪の男はその者を見上げ、静止した。その声にはふざける調子がなく、それが包囲者達を再び畏れさせた。これから途方も無い事が起こる。これはその始まりで、好ましい結末を呼ぶのか、取り返しの付かない破滅に繋がるのか、誰にもわからなかった。だが既に賽は投げられたのだ。25

2014-05-09 00:39:51
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「エッ?」ディクテイターが、ぽかんと見守る。ヤモトとザクロがカラテを構える。暴力を人型に凝縮したかのような大柄なニンジャは音を立ててアスファルトに着地。金色の目で、猛々しく笑いながらディクテイターを見た。ディクテイターは怪訝そうにそれを見返した。「エ?」 26

2014-05-09 00:42:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

長髪の男が小首を傾げた。「さて、どうすッかな」「ドーモ。アナイアレイターです」金色の目のニンジャがアイサツをすると、両腕を伝って鉄の棘が不穏に蠢いた。ディクテイターは反射的にオジギを返した。「ドーモ。アナイアレイター=サン。ディクテイターです」そして古代ローマカラテを構えた!27

2014-05-09 00:46:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「ハイ」IRC黒電話でアマクダリと通話するディクテイターの声は、低く、細い。小窓から差し込む光の筋に埃が舞い、天井の換気ファンを一匹の小蝿が横切った。「ハイ。ハイ。その通りでございます。ハイ。全くもって抜かりはありません。ハイ。逃げられはしないでしょう。完璧な監視体制だ」29

2014-05-09 00:50:30
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『監視体制?フム』スターゲイザーの言葉に間が生ずるたび、ディクテイターは生きた心地がしない。『地上に這い出る事の無いよう管理ができておると?』「ハイ。カメラ監視体制です。クズ共……アー」ディクテイターはザクロと、長髪のニンジャ……フィルギアを横目で見た。「住人も動員できます」30

2014-05-09 00:58:16
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『わかっておると思うが、念のため強調しておこう、ディクテイター=サン。地上で派手にイクサをすれば、世論の調整にコストがかかる。それは大変に不本意だ』「わかっております!非常に!」ディクテイターは頭を繰り返し下げた。「地下へ封じ込め、決して逃がすことも無し!雪隠詰めです!」 31

2014-05-09 01:04:04
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『時が来れば叩き潰す。好ましい状態の維持が肝要だ。気が向いた時にボタンを一つ押せば、いつでもカタがつく、そんな状態の維持が。……そしてディクテイター=サン。ニチョームの管理はお前の裁量に任せているが……くれぐれも、権限の解釈を違えるなよ』「……!」ディクテイターは身震いした。32

2014-05-09 01:13:20
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

『検問封鎖体制については?』「まずはお任せください。必ずや。数日で済むと思います」『よかろう。住人どもの移動を禁じ、堕落モラルの伝搬を断つ事だ。表立って町一つ潰すには、さすがにな……世論の成熟を、もうちと待たねばならん』「ハイヨロコンデー……」33

2014-05-09 01:20:33
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ディクテイターは黒電話を置いた。彼の左目は腫れ上がり、青アザが惨たらしい。アナイアレイターの初撃は……フィルギアの制止にもかかわらず……恐るべきものだった。古代ローマカラテなくば、死んでいただろう。尤も、結局は拳で叩きのめされ、結果、大変不本意な状況に縛られる事となったが。 34

2014-05-09 01:27:21
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「そのう」ディクテイターは絞りだすように尋ねる。「俺はこの後、どう」「さあ。知らね」フィルギアが歯を剥き出して笑った。「どうなるンだろうな」「殺しやしないわ」とザクロ。「キリキリ働いてもらわないとね、総督殿!で……」ザクロは凄んだ。「次はどこと連絡取るかわかってるわね?」 35

2014-05-09 01:34:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「イヤーッ!」KRAAAASH!「ナメやがってあの野郎……」ヘンチマンが料亭の壁に巨大な穴を穿っても、デッドフェニックスのオヤブンであるエンプレスは、眉一つ動かしはしなかった。「実際、順序があべこべになったこと」彼女は淡々と呟き、オーガニック・トロ・スシを口に運んだ。 37

2014-05-09 01:39:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「今になって反故にして来た理由は何だ、あのディクテイター野郎」苛々と座り直したヘンチマンに、オイランが義務的にしなだれかかる。「イヤーッ!」「アバーッ!」ヘンチマンはオイランのキモノを引き裂き、殺した。「程々にせよ」ジュクレンシャはサシミをつまんだ。「血がかかる」38

2014-05-09 01:46:50
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「片付けろ」ヘンチマンは下級ヤクザ達に死体を運ばせる。「実際、示しがつかんなァー」ヘンチマンよりもさらに身体の大きなニンジャが、楊枝で歯をせせる。「メンツどうするんです、オヤブン。ナメられて引き下がるわけにもいかねえ」この者はスレッジハマー。元プロレスラーのヤクザニンジャだ。39

2014-05-09 01:54:13
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「実際、テネイシャスも殺られてる。ニチョームのヨージンボにだろ?」スレッジハマーはジュクレンシャを見た。彼がサシミを食べ終えても、骨と頭の残った魚は死なずにビクビクと蠢いている。熟練のイタマエによるサシミは、しばしばこうしたリビングデッドを生み出すのである。 40

2014-05-09 01:58:24
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

「実際、ナメられるために集まったわけじゃねえんだ」スレッジハマーは言った。「俺らはヤクザでニンジャ!闘争の中に矜持を刻むダイイングブリードだろうが」「フー」エンプレスは息を吐いた。そして水晶ガラスのオチョコからサケを呷った。「……わかっておろう?」「おう」ヘンチマンが頷いた。41

2014-05-09 02:06:35
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ダイイングブリード。然り。デッドフェニックスのエンプレスが、死に絶えてゆくヤクザ遺伝子を伝播するべく求めたのは、武力であった。ニンジャを集め、残忍な闘争を重ねて勢力を拡大してゆくヤクザクランを衝き動かすのは、集団狂気とでも言うべきデスパレートな覚悟だった。42

2014-05-09 02:14:55
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

彼らが残そうとするヤクザ遺伝子は、しかし、彼ら自身のニンジャ性によって、いささか歪んだものとなっていたのである。翌日、デッドフェニックス・クランはニチョーム自治会の復活と縄張り領域の再定義の為に、中立地域で会合を持った。ニチョームからは、キリシマ。そしてネザークイーン。 43

2014-05-09 02:18:31
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

力は正義。力とは恐怖。恐怖を刻みつけ、尊厳を壊し、ルールをわからせる。それがヤクザの本質だ。彼らは平和的会合の看板を掲げた場において、その本質を……ニンジャ性によって更に拡大されたヤクザの邪悪な本質のほどを、遺憾なく発揮することとなった。 44

2014-05-09 02:28:47
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニチョーム・ストリート、夜を微かに照らす火は、駐車場に集められ、重油で焼かれるピュア・オハギだ。潜伏していたプッシャーは自治会のネットワークによって見事に狩り出され、三人が拘束されて、焚き火の前で正座させられている。ヤモトは「粋桃」の屋根に座って、ミソギの光景を見ていた。46

2014-05-10 22:45:07
ニンジャスレイヤー / Ninja Slayer @NJSLYR

ニチョームの自警行動を妨害する者はもはやない。デッドフェニックスの薬物侵食は、実際手遅れになる前に排除された。視野をネオサイタマ全域にひろげれば、何の問題解決にもなっていないとも言える。だが少なくとも、このゆるやかな隔壁の内において、忌まわしき「純情」が取引される事はない。47

2014-05-10 22:51:53