- demonwolfox
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艦娘は美味しいのだろうか。ふと、そんなことを思った。夜の提督たちが一度と言わず思いつくこの疑問を、遅ればせながら私もようやく抱いた。一番気になるのは通常の人間との味の違いだ。比較は可能だ。以前、戦場にいた時に私は人肉を食したことがあるからだ。
2014-05-21 08:33:11当時、私がいた戦線の状況は優勢だった。しかし、お世辞にも食事が上手いとは言い難い物ばかりで、仕方なく行方不明になった同僚の女性の死肉を喰らったのだ。それから数年、あの時の同僚はあっさりと死んでしまったが、艦娘はその心配が薄い。バケツでいくらでも修復が可能だからだ。
2014-05-21 08:35:58たが、問題は誰が肉を差し出してくれるだろうか?という点。誠に遺憾ながら、食人という文化はこの国では禁忌とされている。無作為に相手を選んで肉を求めれば、気狂いの類と誤解されてしまうかもしれない。
2014-05-21 08:44:02さて、ではどういう基準で誰を選ぼうか。無理矢理脅しつけることは出来るが、艦娘たちとの友好関係を崩すのはよろしくない。私は彼女らに対して上司と部下という関係を超えた連帯感、友情を感じているのだから。つまり、選ぶ相手は嫌悪感なく喜んで己の血肉を差し出してくれる者、だ。
2014-05-21 08:51:49肉を要求する相手に悩むこと数分。ようやく決めることが出来た。羽黒、羽黒だ。妙高型重巡の四女。気の弱く、押しにも弱い彼女なら頼み込めばきっと己の肉を差し出してくれることだろう。早速、私は秘書艦である叢雲に羽黒を呼び出すよう伝えた。
2014-05-21 18:36:23「及びでしょうか、司令官……あの、私なにかしましたか?」開口一番、おどおどとした口調で羽黒はそう言った。怒られる、とでも思ったのだろうか。彼女を叱りつけたことなど一度もないはずなのだが。まぁ、いい。「君が食べたい」私は一切の婉曲表現を使わずに彼女にはっきりと告げた。
2014-05-21 18:38:53「あう!?え、あの、その……えっ!?そ、それって……」なぜだろう。彼女は顔を真っ赤にして狼狽えている。そういえば、昔屠殺した女同僚にも同じ台詞を言い、同じ反応が返ってきたような記憶がある。ひょっとしたら、私は知らないだけで相手の肉を要求するのは恥ずかしい行為なのかもしれない。
2014-05-21 18:40:53「あのっ!ど、どういうことでしょうか!」「言葉通りの意味だ。私は君を味わいたいんだ。隅々まで」更に具体的に自分の要求を彼女に伝える。羽黒の顔が更に赤くなった。フーム。このまま彼女の狼狽える様子を見続けるのも一興だが、早く人肉が食べたくて仕方がない。
2014-05-21 18:44:16「……さ、こっちへ来てくれ」そう言って、私は彼女に右手を見せた。手を出せ、という意味だ。「は、はい。私、司令官なら……」羽黒は顔を赤らめたまま、ゆっくりと、そしてぷるぷると震えながら自分の手を私に重ねた。ぎゅっ、とその手を握る。うん。柔らかく、すべすべとして……実に美味しそうだ。
2014-05-21 18:46:40ぐちゅり。「わっぷ!」思わず変な声が出てしまった。目に羽黒の血が入ってしまったからだ。握っていた羽黒の手に向かって左手に持っていたナイフを突き刺したのだが、思ったよりも血が吹き出てきた。フム。同僚はここまで出していなかったのに。あの時は殺してから肉を抉り取ったからだろうか?
2014-05-21 18:51:30目をゴシゴシと擦って開く。「え……あ……え……?」羽黒の顔が見えた。なぜか、『何が起こっているのか分からない』とでもいうような呆けた表情をしている。あんなにはっきり言ったのに、やはり分かってなかったのだろうか。困ったな、手を出して来たから了承してくれたものだと思い込んでいたのに。
2014-05-21 18:53:22だがしかし、もう刃物は刺してしまった。はしたないことだが、撒き散らされた血液が発する匂いのせいでどんどん空腹を感じている。我慢が出来ない。ぐりぐり、とナイフを奥へ奥へと押し込んでいく……だが、硬い。骨が邪魔しているようだ。うぅん、困ったな。ナイフで骨を断つのは、結構大変そうだ。
2014-05-21 18:57:54「羽黒」「あ……あ……」「羽黒!」こつん、と呆けたままの羽黒の頭を小突いた。全く、仮にも上司の前でいつまでぼーっとしているんだ。「ひっ!?い、いやぁ!」「おっと!」身体が引っ張られた。羽黒が私の手から自分の手を離そうとしたのだ。だが。
2014-05-21 19:01:35「痛いッ!」手首を切られているのだから、動かそうとしたらより痛むにきまっている。意外と馬鹿なのか、この子。まぁ、馬鹿な子ほど可愛いし美味しいと言うし、悪いことではない。「羽黒、君は艦娘だ。私よりずっと力持ちだろう?」「なに、何を言って……何をやってるんですか……?」
2014-05-21 19:02:35左手をナイフから離し、そのまま執務室の机の引き出しを開けた。中に入っていたものを取り出す。そして、羽黒に見えるように机に置いた。「私が動かないように君の右手を抑えているから、これで自分の手首を切り落としてくれ」そう言って、私はノコギリを指差した。
2014-05-21 19:04:08