ジョン・キム「不安を力に変える人生」

不安を心配に変えててはならない。不安の時代は希望の時代でもあるのだ。
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ジョン・キム @kim_firenze

未来が楽観できない状態では、人間は悲観的になりがちであり、ときには絶望に陥ってしまう。だが、日本に漂う不安は、合理的な不安である。将来を過度に悲観することで、相対的に現在の幸福を享受する。それがこの二十年の日本人の心理状態ではないだろうか。

2014-05-24 08:20:00
ジョン・キム @kim_firenze

私が初めて日本に留学したのは一九九〇年代初期である。当時、バブルは崩壊したものの、日本人には再生への根拠の無い自信があった。景気は循環するものという希望的な観測や、それまでの長年にわたる高度成長期の蓄えで当面は持ちこたえられるのではないかという余裕があった。

2014-05-24 08:20:22
ジョン・キム @kim_firenze

どこかに未来への楽観的な希望があり、問題を認識しつつも、誰も現状打破のために行動しようとはしなかった。それから十年が過ぎ、そして二十年が過ぎた。多くの人が問題を認識しているものの、依然としてまだ誰も行動しようとはしない。

2014-05-24 08:21:15
ジョン・キム @kim_firenze

何をせずとも復活できると信じているからではない。何をしても無駄だという無力感や絶望感に陥っているからである。それは、あるいは学習された無力感なのかもしれない。

2014-05-24 08:21:27
ジョン・キム @kim_firenze

このような外形的な事象だけをみると、日本人は変わっていないように見える。しかし、私はこの二十年間で、日本人には幸福観に対する、静かな、しかし根本的で重大な進化があったと思う。その進化とは、〝物質至上主義を超えた精神性への回帰"である。

2014-05-24 08:21:50
ジョン・キム @kim_firenze

こうした回帰は若者に特に顕著である。大人に比べ彼らの欲求の対象は変化している。日本の若者は資本主義的な価値観から抜け出そうとしているのだ。一定の物質的な欲求が満たされたもののそれが自分の幸福を持続可能な形で満たしてくれるわけではないということに彼らは気づいている。

2014-05-24 08:22:09
ジョン・キム @kim_firenze

金銭ではなく、生活や信頼、コミュニティへの貢献といった精神性に価値観を置き始めている。景気の動きによって左右される事項は自らの幸せではないと、定義しているように思う。また、シェア争いのようなゼロサムゲームに未来がないことを、本能的に感じ取っている。

2014-05-24 08:22:25
ジョン・キム @kim_firenze

彼らは日常生活の中で得られる内面的充足に価値をシフトし、自分なりの幸せを感じている。自分で幸せを定義する力が養われているのだ。それもそのはず、生まれてこの方、好景気を経験したことがないからだ。現状がピーク。後は悪くなっていくだけ。期待する者は失望する。期待しなければ失望もしない。

2014-05-24 08:22:43
ジョン・キム @kim_firenze

そのような状況で、いま現在をどう生きるかということに対する感性が、鋭くなっているのである。国内に不安感が漂っていても、この空気の中で自分がどう動いていくかを冷静に考えられる感性が育ちつつあるのだ。彼らの新しい時代に対するサバイバル能力は高い。

2014-05-24 08:23:10
ジョン・キム @kim_firenze

むしろこれから大変なのは「最近の若者はやる気がない」と批判する、一見元気な中高年の世代だろう。年配の方でも年齢と成熟度が比例する人もいるが、一方でこのままでは日本は沈む一方だと悲観しつつも、この時代の変化にどう反応していいのかわからず、自分なりの幸せを見出せない人もいる。

2014-05-24 08:23:30
ジョン・キム @kim_firenze

このままでは、日本はずっと沈んでいくのではないかと不安感を抱いている人は多いかもしれない。しかし、沈んでいるのではなく、資本主義的な文脈を離れ、他の次元にシフトしつつあると、私は考えている。

2014-05-24 08:25:06
ジョン・キム @kim_firenze

成長至上主義で走り続けることは必ずしも人々のクオリティ・オブ・ライフを高めることにはつながらない。日本は今、成長をある程度犠牲にしたとしても、生活の質を考える余裕を持つ、世界でも稀な状況にある国になったのだ。

2014-05-24 08:25:36
ジョン・キム @kim_firenze

私はガツガツしていたバブルの頃の空気より、いまの日本の方がずっと好きである。落ち着いていて、澄んでいる気がする。不安はあるかもしれないが、物質的な豊かさを追求していた時代よりも、人々が精神的に成熟して来ているのを感じる。

2014-05-24 08:25:51
ジョン・キム @kim_firenze

がむしゃらに突っ走るのではなく、何を頑張るかを冷静に見極め、注力するかどうかを主体的に判断することが可能となりつつある。その努力の対象は、必ずしも金銭や名誉、権威等ではない。

2014-05-24 08:26:10
ジョン・キム @kim_firenze

不安というものは、沈黙の未来を生きなければならない我々人間の宿命である。人間には不安を抱ける能力があると考えるべきだ。その能力とは想像力を意味している。そのせいで自らを絶望の中に陥れ、存在の苦しみを味わわせることもあれば、そのおかげで希望に満ちた未来を自らつくり出すこともできる。

2014-05-24 08:26:27
ジョン・キム @kim_firenze

不安を心配に変えてはならない。不安の時代は希望の時代でもあるのだ。不安とはたとえわずかであっても光を見出す可能性が残された人に与えられる特権だ。不安が持つ意味を正しく認識し、不安を絶望や無力感ではなく、意志の力をもって希望や力に変える人生こそがいまの日本人に求められている。(終)

2014-05-24 08:26:56