紫薔薇の王子と茨の魔法使い

診断メーカーの「進撃せよ!~まいにち調査兵団~」(http://shindanmaker.com/352448)から派生させた物語。 茨の魔法使い・三部作の前日譚。 本編である「日刊調査兵団」とは似て非なる物語。 続きを読む
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お菊 @sara_yashiki

@tos すっきりと晴れ上がった、雨上がりの午後。おてんばな少女がベッドによじ登り、そこに横たわる少年に一輪の黄色い薔薇を差し出すと、少年はふぅっと浅く息を吐いて語り始めた。「むかぁし昔のお話でした。あるお城に、王子さまとお姫さまがおりました。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-28 11:17:49
お菊 @sara_yashiki

@tos 王子さまは『紫薔薇の王子』、お姫さまは『山吹薔薇の姫』と呼ばれていました。二人は双子の兄妹で、父親は厳格な王さま、母親は優雅な妖精でした。明日は、二人の母親の誕生日です。お姫さまは王子さまに「二人で、母さんを喜ばせましょう」と言いました。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-26 01:46:05
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl お姫さまと王子さまは、お城の広間に行きました。お姫さまが広間の真ん中でくるくる回ると、まわりに綺麗な山吹色の薔薇が咲きました。お花が好きなお姫さまは、夢中で花を咲かせました。二人には妖精の血が流れていて、魔法を使うことができたのです。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 00:34:27
お菊 @sara_yashiki

@tos 王子さまは静かに座って、お姫さまの様子を見ていました。お姫さまは言いました。「ねぇ、力を貸して。紫の薔薇があれば、もっともっと綺麗よ。母さんも喜ぶわ」王子さまは首を振りました。「僕はやらない。魔法はあまり好きじゃない。嫌な感じがするもの」 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-27 13:29:57
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 王子さまが言うことを聞いてくれないので、お姫さまはプンプンと怒り出しました。「いい、一人でやるから!」そう言うと、広間の壁にも天井にも、山吹色の薔薇を咲かせました。すると、大変なことが起こりました。お姫さまが急に苦しみだしたのです。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 00:50:05
お菊 @sara_yashiki

@tos 王子さまはビックリして、お姫さまの体を支えました。「息が苦しい、助けて…」お姫さまの顔は真っ青でした。王子さまは気づきました。お姫さまは、自分が咲かせた花の甘い薫りに、胸が蝕まれてしまったのです。このままでは、お姫さまは死んでしまいます。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-26 01:44:52
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 王子さまは、お姫さまを抱えて、母親に助けを求めました。母親は妖精で、二人のように魔法が使えます。きっと、助けてくれるはずです。王子さまは、ベッドで眠っている母親を起こすと、「助けて!」と叫びました。しかし、母親はとても不機嫌でした。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 01:34:10
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 一緒に寝ていた父親は、王子さまを睨み付けました。二人は裸で抱きあっていたのです。母親は冷たく言いました。「いい気味。妖精の力は人間を幸せにしない。むやみに力を使うからよ」と。王子さまは怒りました。「何故、それを教えてくれなかった!」 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 09:30:22
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 母親は笑いながら答えます。「だって私は、あなたたちを、ちっとも愛していないもの!」王子さまは驚きませんでした。それを前から知っていたからです。でも、お姫さまは違いました。綺麗なお花で喜ばせれば、母親に愛してもらえると信じていたのです。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 09:38:17
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl お姫さまの呼吸は弱まり、ぐったりとしていました。王子さまは、お姫さまを椅子に寝かせると、お姫さまの胸に紫色の薔薇を咲かせました。薔薇はみるみる黒く染まり、枯れてはらはらと散りました。これで、お姫さまの胸から、悪いものは消えたはずです。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 13:03:42
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl その様子を眺めていた母親は、ベッドから出てきて、王子さまを背中から抱きしめました。そして、にっこり笑うと「素敵な力ね」と言いました。王子さまの胸は、ポッと温かくなりました。誰かから褒められたのは、生まれて初めてのことだったからです。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 21:26:36
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 王子さまは、お姫さまの気持ちを、ようやく理解しました。王子さまも本当は、誰かに愛してもらいたかったのです。きっと、お姫さまも褒めてくれる!嬉しくなって、王子さまはお姫さまを揺り起こそうとしました。けれども、お姫さまは目を覚ましません。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 21:57:25
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 母親はくすくすと笑いました。「その娘は、もう手遅れ。愚かな娘は嫌いなの。子供はあなただけで十分」母親の言葉を聞いて、王子さまは悲しくなりました。それから、思いました。お姫さまを愛してあげよう。お姫さまも、僕を愛してくれるかもしれない。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 22:13:54
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 王子さまは、母親の腕を振りほどきました。そして、目を覚まさないお姫さまを抱きしめて、キスをしました。母親は驚いて、金切り声をあげました。「馬鹿な真似はおよし!妖精は、親子や兄弟と口づけしてはいけない!お前の力は穢れ、呪われてしまう!」 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 22:37:26
お菊 @sara_yashiki

@tos 王子さまがふうっと息を吹き込むと、お姫さまの頬がほんのりと赤く染まりました。お姫さまは息を吹き返したのです。王子さまは親たちに向かって言いました。「そんなことは知らない。薄情な母親も、無関心な父親も嫌いだよ。僕の家族は、この子一人で十分」 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-26 08:06:04
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl お姫さまは、ベッドの中で目覚めました。時計を見ると、もう朝です。お姫さまは自分の部屋を飛び出して、慌てて広間に向かいました。もしかすると、母親が広間いっぱいの薔薇を見つけて、驚いているかもしれません。きっと喜んで、抱きしめてくれる…! #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 23:24:02
お菊 @sara_yashiki

@tos 広間の扉を開けると、お姫さまは悲鳴をあげました。昨日の夜に咲かせたはずの、山吹色の薔薇はどこにもありません。広間の床も、壁も、天井も、すべて不気味な茨に覆われていたのです。お姫さまは怖くなって、母親を呼びました。しかし、返事はありません。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-26 08:04:31
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl 今度は父親を呼びました。けれども、返事はありません。お姫さまは、王子さまを呼びました。すると、後ろの方から声がしました。お姫さまは安心して、振り向きました。しかし、そこにいたのは『紫薔薇の王子』ではなく、茨を身にまとった化け物でした。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 23:44:52
お菊 @sara_yashiki

@MT_tl お姫さまは逃げようとしましたが、化け物はお姫さまの腕を掴みました。鋭い茨の棘が、お姫さまの柔らかい肌を突き刺し、真っ赤な血がポタリポタリと流れ落ちました。「嫌よ、痛い!」お姫さまは悲鳴をあげて、茨に包まれた化け物を突き飛ばしました。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-25 23:54:04
お菊 @sara_yashiki

@tos 「失せろ、『茨の魔法使い』!」お姫さまは大きな声で叫ぶと、廊下を走って逃げていきました。お姫さまは気づかなかったのです。流れ落ちた血は、お姫さまのものだけではありませんでした。『茨の魔法使い』は自分の棘に傷つき、目から涙を流しました。 #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-26 09:05:14
お菊 @sara_yashiki

@tos お城は茨に覆われて、いつしか人々の記憶から、忘れ去られてしまいましたとさ。おしまい」物語が終わると、少女は首をかしげた。「化け物、怖ぁい…!王子さまはどこ行っちゃったの?」少年はふぅっと笑みを浮かべて、「いつか、わかるよ」と答えた。(完) #紫薔薇の王子 #日刊調査兵団

2014-05-26 23:17:25