- karitoshi2011
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福島小児甲状腺がんの「識別可能な増加リスク」を認めた『国連科学委員会2013年報告書』の重要性について(2) 以下、連投ツート失礼いたします。
2014-06-01 18:52:582014年4月に公表されたUNSCARE 2013Report(Scientific AnnexA)について、甲状腺被ばく線量評価の論点を取り上げ、前回ツイートしました。以下、前回のまとめです。
2014-06-01 18:53:26(1)UNSCARE2013報告は、福島原発事故による乳幼児の甲状腺被ばくに関して、日本政府や放医研の推計よりもシビアな評価を行っている(最大では日本政府発表のおよそ7倍も高い評価が示唆されている)。
2014-06-01 18:54:15(2)安定ヨウ素剤配布基準50ミリGyを超える被ばく地域が福島県を中心に広範に存在していると評価された(例えば、避難区域地域では平均82ミリGy、いわき市が平均52ミリGyなど)。
2014-06-01 18:54:44(3)個人被曝量は地域平均被曝量の2-3倍多い場合もありうるとの仮定から、1,000人弱の子どもについては100ミリから150ミリGyの甲状腺被ばくを受けた可能性が指摘されている。
2014-06-01 18:56:01(4)UNSCARRの評価を元にウクライナの疫学基準に従って考えるならば、福島県の広範囲が「高線量地域」(地域平均35ミリGy超)に相当する。ウクライナ北部3州乳幼児の平均甲状腺被曝量の4割から9割に相当する被ばく地域が福島県内に点在している。
2014-06-01 18:56:46(5)UNSCARE2013報告書は、福島の乳幼児の甲状腺がんに関しては「識別可能な増加リスクが発生している可能性がある」と言及し、WHO2013年報告書を公式に追認する評価を下した。
2014-06-01 18:57:46今回は上記(5)について議論します。また、甲状腺癌以外の健康影響(小児白血病、それ以外の固形がん等)に関するUNSCAREの評価についても、批判すべき論点を交えて考えてみたいと思います。
2014-06-01 18:59:13まず、福島の甲状腺がんリスク増大に関するUNSCARE2013報告書の言及箇所を以下に示したい。 pic.twitter.com/Wj2OGOjD3f
2014-06-01 19:01:3150ミリGyの被ばくで甲状腺癌の生涯相対リスクは30%増加するとのリスク評価から、「福島でもしっかりとした疫学評価を行えば、相対リスク1.3の増加は識別可能に違いない」と予測されている。 pic.twitter.com/mHqpiW5Rqz
2014-06-01 19:09:55なおUNSCAREは「識別可能(不可能)な増加」(discernible or indiscernible increase)という言葉を頻繁に使用しているが、この言葉の意味は以下のように説明されている。 pic.twitter.com/6zTncCONgB
2014-06-01 19:13:06「識別可能な増加」(UNSCARE)という言葉は重要なキーワードなので、明確にしておきた。被ばくによる発癌は確率的影響(stochastic effects)であり、100ミリSv以下(甲状腺癌では50ミリSv以下)の「低線量被ばく」でも理論上は癌の増加は見込まれる。
2014-06-01 19:14:43ただし、現在の疫学的手法等によってはその増加が背景的要因等により区別できず、かりに確認可能であるとしても、被曝との因果関係の特定化が困難であることが多い。この場合、UNSCAREは、その増加を「識別不可能な増加」と表現する。
2014-06-01 19:15:34つまり、UNSCAREの言う「健康被害の増加が識別不可能」とは「健康被害が生まれない」ということではない。「健康被害は(僅かでも)増加するだろうが、それを確認したり、因果関係を特定することは不可能」という意味だ。前者と後者では意味が全く異なっており、両者は区別する必要がある
2014-06-01 19:17:23たとえば、福島の小児甲状腺癌について以下の報告書からの抜粋を見てみよう。 pic.twitter.com/CSRtvalxld
2014-06-01 19:19:05UNSCAREは「福島では1,000人弱の子どもが100ミリから150ミリGyの甲状腺被ばくをしたと推定される。子どもの甲状腺癌は増加すると予想される」としながらも、「識別可能な増加をもたらすか否かは現段階では確定的な結論は下せない」としている。
2014-06-01 19:21:09つまり、「福島では甲状腺癌は増加すると予想されるが、その増加を健康調査などによって確認したり、因果関係を特定できるかは、現段階では未知数である」というのが、UNSCAREの立場となる。
2014-06-01 19:21:45言うまでもなく、UNSCAREのこの言明から「甲状腺癌は生まれない」という結論は導くのは、non sequitur(不合理な推論)である。
2014-06-01 19:22:35UNSCAREの評価は予防原則的メッセージとして解釈されるべきであろう。「甲状腺癌は将来増える可能性が大なので、日本政府やお医者さんは、しっかり対策を行って、子どもたちを守る責任がありますよ」というメッセージである。
2014-06-01 19:23:24むろん、予防原則に対しては常にコスト・ベネフィット論者からの反論がありうる。「健康被害の防止は重要だが、それに伴うコストも考慮すべきだ。たかが数十人、数百人の甲状腺癌で移住や保養、年2回の検査などの莫大なコストは支払うに値しない」という見解である。
2014-06-01 19:24:07このコスト・ベネフィット論者の言い分に対しては、「あなたの子どもに同じことが起きても本当に同じことが言えますか?」と倫理学上の普遍化可能性公準に訴えるべきであろう。
2014-06-01 19:24:41ただし、コスト・ベネフィット論者は倫理的想像力が乏しいので、UNSCARE2013報告書がどこまで有効な反論力をもちうるのか、この点は大きな問題として残る。
2014-06-01 19:25:50たとえば、UNSCAREは福島の甲状腺癌の将来的な増加を予測しながら、「チェルノブイリに比べれば癌の増加はかなり少ないであろう」との予測も行っている(以下図)。 pic.twitter.com/AyHfOb6iwV
2014-06-01 19:26:55幾つかの反論は可能であろう。上記図で示したように、福島第一原発事故による放射性ヨウ素大気放出量について、UNSCAREは100Pbqから500Pbq(より詳細に120Pbq)とし、チェルノブイリ事故のおよそ10%と評価している。
2014-06-01 19:28:45これは明らかな過小評価であろう。また、福島の高線量汚染地域の平均甲状腺被ばく線量は、UNSCAREの推計をベースにしても、広い地域でウクライナ北部3州の子どもの被曝量のおよそ4割から9割に相当すると評価可能である。
2014-06-01 19:29:20