- hachisu716
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早「ここをこう、持って……この青いところで塗ってください。私髪どけてますから、ほら」 うなじを見せる早苗さん。 文「はいはい。……あー、これはくっきりとやられましたねえ」 白い肌に、ぷっくりと腫れあがって赤くなっている箇所があるのがすぐにわかる。 早「もー痒くて痒くて」
2013-06-27 20:23:00文「いい場処につけるもんです。これは見習うべきかもしれませんねえ」 くすりと笑いながら、指でそっとなぞって、のんびりと頷く文。 早苗「いいです、見習わなくていいです。そこ私から見えないし。早く塗ってくださいってば」 文「はいはい」
2013-06-27 20:28:10文「加減はこんな感じでいいですか?」 早苗「いいですー。バッチリです。うあーしみるうーいたたた」 文「……痛いんですか?」 手が止まる文。 早「いいんです、この痛みがいいんですよ。遠慮しないで下さい」 文「……はあ」
2013-06-27 20:31:46軽口を叩いて軽薄な風を装いながらも、少しでも痛みを訴えると引いてくれる。 こんなときでも、自分の為に濃やかに心を配ってくれる文が、なんだか嬉しくてくすぐったい。 クスクスと笑いながら、早苗は素直にあーとかうーとか、塗り薬の懐かしい刺激に悶えた。
2013-06-27 20:43:41痛い痛いと言いながらも笑う早苗は、文にしてみれば何だかとても異常だ。 これは一体どういう類のものなのか、と手元の塗り薬に眉を顰める文に、早苗が前を向いたまま言葉を繋げる。 早苗「いたきもちいいー。うちではずっとこれだったんですよね」
2013-06-27 20:49:06早苗「こっちに引っ越すときに一緒に持ってきたのはいいんですけど、無くなったらもう買えないだろうなあ」 文「色んなものがあるんですねえ。興味をひかれます」 と言いつつも、痛みに嬉しげに悶える早苗はなんだか奇々怪々なので、別にもう手に入らなくてもいいな、と内心では思う文である。
2013-06-27 20:54:02天狗は嘘を巧みに言葉の裏に隠すのだ。 早苗「ね。文さんは、虫に刺されたりとかしないんですか?」 塗り終わると、妙な形の塗り薬の妙な形の蓋を妙な動きでしめて、早苗は大事そうに懐にしまいこみながらそんなことを訊く。
2013-06-27 20:58:53文「ありますよ。特に羽根には気を遣います。傷むと天狗の名折れですからね」 早苗「ああ。文さんの羽根、ツヤツヤしてて綺麗ですもんねえ」 文「羽根を傷つけたくないですから、虫に刺されてから塗り薬を塗る、というよりは、虫に刺されないように薬を使用する、というほうが主ですね」
2013-06-27 21:02:07早苗「へえ」 文「昔はですね、翼水と云いまして、虫除けのために翼にふりかける伝統の薬があったんですが、あまりの臭いのキツさに上司からクレームが来ましてですね」 早苗「……へえ」 文「『鼻がまがるしね』、という、曲がりながらも何とも直球な一言で、廃止になりました」
2013-06-27 21:11:23早「くさあ! うわ、くさっ! くさいですこれ! やばい!」 文「(ぬりぬり)何を云うんです、この臭さがいいんじゃないですかー。早苗さん風に云うとくさきもちいいというやつです」 早「そんな風はありません! 斬新すぎますよその感覚!」 文「私からすれば懐かしい匂いなんですけどねえ」
2013-06-27 21:22:42雪を丸めたような可愛すぎるスノーバード「シマエナガ」 pic.twitter.com/d6VVyiuq18
2013-07-08 21:16:22シマエナガと会話してる文を偶然みかけて、「わっ! わっ! ちいちゃい! かわいいーっ!」って早苗さんがすごくテンションあがるんだけど、 文「こらこら、しっかり自分の生を生きてる者にむかって、やたらめったら可愛いなんて云うんじゃありません。子持ちのお母さんですよ」
2013-07-08 22:16:57早苗「あっ、そうでしたか、すみません。気を悪くしないでくださいね」 早苗がぺこりと頭をさげると、理解しているのかいないのか、シマエナガはちょんちょんと枝の上をはね、首をかしげる。
2013-07-08 22:23:03文「今年の冬の様子を聞いてたんです。彼女は他の鳥たちにも顔がききますからね。そうですか、今年はコゲラたちの勢力が強いようですねえ」 早苗「(ああ、文さんが鳥と話せるっていうの、すごくワクワクしちゃう)」 文「……楽しそうですねえ、早苗さん」 早苗「あれっ、バレました?」
2013-07-08 22:26:42で、冬の守矢神社で、早苗さんが雪を払いながら掃除してて、枝にシマエナガがとまってるのを見つけて、 早苗「あなたはこの間のシマエナガさん? ……なわけないですかね」 って半分ひとりごとで話しかけたりして
2013-07-08 22:32:05早苗「……文さんに会ったら、伝えてくれませんか? 最近全然逢えなくて寂しいです、恋人ほっぽって何やってるんですか、逢いたいです、ちゅーしたいです。ぎゅってしてほしいです。頭撫でてほしいです、たくさん甘やかしてほしいです」 パタパタと枝から枝へと忙しなく移動しているシマエナガ
2013-07-08 22:35:15早苗「……なんてねー。はあ、動物に話しかけてる自分に酔っちゃうのはO型でしたっけ、寂しい女だなあ、私……」 と乾いた笑いで掃き掃除に戻る早苗。 虫でもたべているのか、しばらく枝をつついて回ったあと、雪の降る空へと飛んでいくシマエナガ。
2013-07-08 22:37:43それからしばらくして。 エサを食べ終え、ついでに他の種の鳥を見つけて顔つなぎついでに羽根を休めていたシマエナガが、再び雪の降る空へと飛び立っていった。 その飛び立っていった枝の上で、バサリ、と、一際大きな羽根が羽搏く。翼にぬばたまの黒を纏った鴉天狗である。
2013-07-08 22:48:34鴉天狗は、何か考え事をするように押し黙って白い吐息を漏らしていたが、口許だけでフッと笑うと、勢いをつけるようにもう一度強くバサリと羽搏き、何処かへと飛び立っていった。
2013-07-08 22:51:26